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トップランナー紹介

早和果樹園 秋竹俊伸氏

Update : 2023.3.28

社員と成長する“働きたくなる会社”「みかん」で「みんな」と「みらい」をつなぐ

高齢化に加え、若者の農業離れが加速し、日本全体で農業就業人口が減少している昨今。その背景には「キツイ・休めない・低賃金」といったネガティブなイメージがある。そんな農業を取り巻く労働環境を改善し、若手を中心に地域農業を活性化させている企業、早和果樹園。事業の柱は、「有田みかん」の露地栽培に加え、ジュースやジュレ、スムージーなどの加工品製造。さらに、ショップやオンラインのECサイトでの販売と海外にも販路を持つ。
積極的な6次化を進める過程で、みかんのような“爽やかな働き方改革”を実現したビジネスモデルに迫る。

ターニングポイント
組織改革で“働きたくなる会社”へ

1979年、7戸の農家が集まり事業をスタート。2000年の法人化を経て、6次化の土台を築き早和果樹園は急成長した。父である先代の後を継ぎ、秋竹氏が2代目に就任したのが2017年。その当時、農業を会社として経営していく事の難しさを痛感したという。

「私たち“農家”の感覚でいえば、繁忙期は当然、休みがなかったわけです。しかし、人を雇うとなるとそうはいきませんよね?当時は、農業と会社を融合させることが難しかった。」と秋竹氏は語る。

みかんの6次化によって、これまで出荷の最盛期だった冬場以外にも加工や販売業務によって一年中が繁忙期となった。右肩上がりに伸びる業績と比例して、社員の業務も増えていた。

「当時は“売上至上主義”で加工品をいかに売るかが全て。そのため、強みだった試飲販売に注力していました。しかし徐々にその弊害が表に出始め、私が就任した直後に、営業社員がひとり辞めてしまいました。」

みかん農園

早和果樹園の“掟”が、『社員全員で試飲販売に行く』。創業から続けていた伝統だが、日々の業務に追われる社員にとっては負担が大きい。時には休日出勤で 、時には会社に戻って残業など、試飲販売優先により、日々の業務に支障が出始めていた。さらに、対面が苦手な人にとってはストレスに感じる場合もあり 、冒頭の社員がひとり、辞める事態が発生した 。「このままではダメだ」と感じた秋竹氏は取引先と交渉し、試飲販売を1/4に減らした。

「就任して最初に行った仕事が“売上を下げる”行動でした。しかし、試飲販売に行かなくなったから売上が下がると考えていましたが、結果として昨年並みまで戻すことが出来ました 。なぜかというと、これまでは営業担当が主に“販売”をしていましたが、販売を抑制し、空いた時間で新規客への“営業”を積極的に行ったところ、一気に販路が増え、下がった売上を巻き返してきたのです。 」

右写真:試飲販売会

早和果樹園流・ビジネスモデル
“「強みを活かす」人材育成”

秋竹氏は、早和果樹園が自分の代以降も続いて欲しいと考え、“働きたくなる会社”を目指し、組織改革に着手。その第一歩として、個人の“強みを活かす”という人材育成を開始した。「人にとって、苦手な弱みを克服することはとても大変ですが、持って生まれた強みは自然と発揮できるため優位性が高い。なので、その個人の強みが最大限に活かせるポジションに配属し成長させるという育成プランを導入しました。」

自社で生産から販売までを行う早和果樹園には多くの部門が存在し、入社する社員の志望動機も様々。栽培を担当する山中流衣さんは、みかんの美味しさに感動し、自分でも作ってみたいと入社した。「今まで食べた中でも群を抜いて美味しかった。僕もこんなみかんを作りたいと思って入社しました。入って気が付いたのは、会社なので働く時間が決まっている。農業ですが働きやすい環境です。」と語る山中さん。

加工を担当する西岡優伎さんは大学で柑橘類の研究をしていた経歴の持ち主。「皮や果肉に含まれる成分を主に研究していました。このスキルを活かしたいと就職しました。ここは、みかん好きにはたまらない会社です。」と語る。

上写真:入社2年目 山中流衣さん
下写真:入社3年目 西岡優伎さん

育成プランの柱である、「強みを活かす」。このプランは、入社の際はできるだけ本人の希望を汲んだ部署に配属し 、社会の基本や仕事の内容を学びながら、長所や適性を知る。そして、3年をめどに、この先の将来を見据え、これまで得たスキルが発揮できる部署への移動を含めた希望を叶えるというもの。

導入を経て、組織に様々な変化があったと、総務人事部 部長の山下美沙代さんは語る。「私が入社した当時は農家さんの会社で、若い人材はあまり入ってきませんでした。いまの育成プランによって、若手の定着率に加え新卒採用率も高まりました。また、入社2年目には、すでに先輩になるので自分の仕事以外にも後輩への指導といった要素もプラスされるので成長がとても早いと感じますし、成長意欲も高いです。」

また、相澤裕子さんはチャレンジしやすい環境だと語る。「入社して3ヶ月目ぐらいに、コーポレートサイト上のブログで、現場の事をもっと広報したいと志願したら、すぐに任せてもらえました。それ以外にも、新しい商品開発でも意見を取り入れてもらえたり、挑戦しやすい環境なので、とてもやりがいを感じています。」

左写真:総務人事部 部長 山下美沙代さん 右写真:入社3年目 相澤裕子さん

社員が自分の強みを伸ばしながら成長できる環境を整えると同時に、縦割りになりがちな部門に横串を通し、コミュニケーションが円滑に行える場も用意している。その一つが社員食堂だ。ちなみに、相澤裕子さんの入社の決め手はこの社員食堂だと言う。
作っている料理人の一人は、なんと秋竹氏の母親だ。食事が偏りがちな若手の栄養管理に配慮した、まさにお袋の味。秋竹氏、父である会長も社員食堂を利用している。異なる世代・業務の社員が楽しく笑いながら食卓を囲む。意見交換の場でもあり、仕事全体を俯瞰で知る事ができるという。

社員食堂

早和果樹園流・成長戦略
“現場に寄り添った組織づくり”

「みかんの木は植えて10年経たないと採算がとれません。社員も会社も同じで、緩やかに成長して行くことが目的です。しかし、成長するには利益は重要な要素。いま力を入れているものは、社員一人ひとりが利益を意識しながらお互いで解決策を見つけ出すボトムアップ型の組織づくりです。」と語る秋竹氏。

早和果樹園の事業の根幹である「みかん」。農作物という側面から、自然にも左右され収量には限りがある。一個のみかんから搾れる果汁は約6割。残りの4割は皮と薄皮で、何もしなければ廃棄するだけのものだ。捨てるにもコストが掛かるため、限られた原材料で利益率を高めるには、ロスの削減が鍵となる。そこで、みかんの皮を乾燥させ陳皮に加工。七味や化粧品など様々な商品を開発し余すことなく利用した。さらに、若手のアイデアを活かし、薄皮も使った商品開発に取り組んでいる。

「薄皮には、健康をサポートする働きがあるといわれているヘスペリジン(ビタミンP、ポリフェノールの一種)が含まれています。捨ててしまうにはもったいないので、開発チームが日々、研究を重ねて良い商品を生み出しています。」

上写真:秋竹俊伸社長
下写真:みかんの皮と薄皮で4割を占める

陳皮(みかんの皮)から七味、化粧品などを商品化

既存の商品が「おふくろスムージー」。みかんの果肉に裏ごしした薄皮を加えたもので、ツブツブ食感と、とろみが楽しめる人気商品だ。みかんまるごとを使用しているので、食物繊維や栄養素が豊富だという。そして、これから発売予定の新商品が「みかんカード」。いわゆるフルーツバターに分類され、みかんの爽やかな風味とほのかな甘みが特徴。パンにつけても、ヨーグルトに和えても楽しめる、ありそうでなかった商品だ。

早和果樹園本社1Fにある直売所

「おふくろスムージー」と「みかんカード」

社員それぞれが働く現場から「みかん一個の価値」を意識することで、捨てるはずだった4割に価値を生み出し、“どこよりも高く”加工用みかんを買い取る。秋竹氏によると、有田地域全体で年間8万トンもの生産力があり、早和果樹園が担うのは、そのうち約2%。これを10%に上げることを当座の目標に規模拡大を進めている 。その推進力となる若手に活躍の場を与え、新しい成長のスパイラルを生み出すことこそ、経営の肝であり、早和果樹園の強みだ。

加工工場、出荷場、店舗など様々な場所で若手が活躍

「若い社員に良い場を与えて挑戦させる風土をつくれば、その子たちが新しいことへ次々と進んでいく。若い力を巻き込んで有田を盛り上げることができれば、僕が生まれ育った地域への恩返しになると考えています。この有田に早和果樹園という会社が存在し続けてくれれば、社長を頑張っていてよかったと、おじいちゃんになって思えるはずです。」と語る秋竹氏。
フレッシュな若手の活躍が、この先、有田のみかん産業を牽引して行く。

秋竹俊伸氏プロフィール

和歌山県有田市出身。高校卒業後、農林水産省果樹園芸試験場興津支場(現、農研機構 果樹研究所柑橘研究興津拠点)を経て、1996 年就農。2000年、出荷母体である共選組合の法人化に伴い、同社に入社。入社後も30歳過ぎまでは専業農家として有田みかん栽培に従事する。2009年、総務部長就任。取締役専務を経て2017 年9月に代表取締役社長に就任。ビジネス学修士(MBA)。

「早和果樹園」データ

年商:約12.5億円
従業員数:82名
株式会社早和果樹園HP: https://www.sowakajuen.co.jp/