「食」と「農」の距離を
縮めるために
日本食農連携機構は2009年に設立され、2019年には10周年を迎えます。
グルメブームを背景に、日本の家庭やレストランでは豊富な食材が使われるようになりましたが、その食材を提供する農業の現場や実情についてはあまり知られていません。一方で農業界においては内輪の論理が優先され、消費の動向や需要サイドである食品メーカーや外食産業、小売業などへの関心が低かったのも事実です。
「食」と「農」の距離が遠いという現状があり、その距離を縮めようという思いから、私たちは当機構を設立いたしました。
設立に先立ち「農業経営サポート研究会」を約2年に渡って開催し、明治大学教授(当時)の上原征彦先生を座長に、農業法人や食品メーカー、スーパー、外食産業、学者など幅広いメンバーが集まり、優れた農業経営者をどう育てるか、「食」と「農」の連携によって農業ビジネスはどう変わるのかなどについて議論を行いました。最終的に、それらの課題に向けて取り組む持続的な組織が必要という結論に至り、その研究会のメンバーを中心に当機構を立ち上げる運びとなりました。
具体的なビジネスにつながる実践を
機構設立にあたり、まず留意したのは、運営や経営の自由度を確保するということです。一部の意見だけに与するのではなく、幅広い意見を取り上げる場とするため、会費によって運営する会員制の組織としてスタートしました。
また、農業界のみならず食品メーカーや外食産業、スーパーなど幅広い関係者に参加していただき、議論の幅を広げることが、「食」と「農」の距離を縮めることにつながると考えました。
そして、講演会やセミナーといった勉強会を開催するだけでなく、「食」と「農」のビジネスにつながる実践を行うことが、当機構の役割であると認識しています。
設立の大きな原動力となったのは、日本の農業のトップリーダーと言われる若い農業経営者が参加してくださったことです。現在では日本農業法人協会会長になっておられる「こと京都㈱」代表取締役の山田敏之様をはじめとして、新しい農業経営に取り組まれている方々が当機構の活動に参加しています。彼らは企業との連携を実現しながら、新たな「食」と「農」のビジネスを展開しており、それが日本の農業の将来に明るい希望をもたらすものと期待しています。
最先端の情報提供と
ビジネスマッチング
私たちが最も力を注いでいる取り組みが「アグリビジネス研究会」の開催です。優れた農業技術や農業経営の事例などを紹介する研究会として、年5回開催しています。
現在、日本の農業政策は転換期にあり、政府は農業などの第一次産業が食品加工や流通販売にも踏み込む「六次産業化」や「農商工連携」などを推進しています。この研究会では、農林水産省のキーパーソンの方にもご出講をお願いするなど、その時々の重要な政策の動向等についてもお話しいただいています。
これまで延べ100名近くの方に講師として登場していただき、「食」と「農」に関する最先端の情報を提供するとともに、関係者の方々を引き合わせてビジネスマッチングにつなげる場にもなっています。
また、私たちは全国にネットワークを広げ、農業者と幅広い関係者による地域を超えたプラットフォームづくりに取り組んできました。九州と東北に支部を設立しているほか、2015年には北海道・十勝の農業者グループと業務提携を結び、2018年4月に東海地区と長野、北陸地区を合わせた中部支部を設立しました。
さらに、農業経営者の育成にも注力しています。高齢化に伴う農業者の世代交代や、大規模経営農家の急増が見込まれる中、農業者の育成は喫緊の課題と認識しています。
これまで当機構は熊本県と宮城県から委託を受けて農業経営塾を開催しており、とくに熊本県ではすでに200名近い卒業生を輩出していますので、その方々に対するビジネスのフォローやサポートにも力を入れたいと考えています。また2017年からは全国の若手農業経営者にお声掛けのうえ情報交換会も開催しています。このような取り組みにより、経営能力に優れた農業経営者を育成することも当機構の重要な役割と考えています。
ビジネスのコーディネートとコンサルティング、人材育成という3つの事業については、今後も引き続き進めていきたいと考えています。
ITの活用や
海外展開を支援
農業経営のイノベーションという観点では、高齢化や世代交代などの要因により、これからの農業経営者は大きく変わっていくことが予想されます。親の背中を見て農業の匠の技を学び、経験と勘だけで引き継ぐという従来のあり方には限界があります。農業技術の革新やマーケティング、マネージメントなどについて、ITを活用した農業展開に取り組む必要があり、それが生産者と消費者の距離を縮めることにもつながると思います。ITを活用した農業のサポートの仕組みをつくることが、将来的な当機構の大きな役割になると考えています。
国内の農業のマーケットが縮小していく中、海外との関係を求めて輸出などに取り組む機構メンバーも増えています。今後は農産物を海外に輸出するだけでなく、農業技術や資本、人材など日本の農業が持つ優れた資源を活用し、海外と連携しながら事業を展開していくことが必要になると予想され、そうした海外展開のサポートにも取り組んでいきたいと考えています。
今後予測される人口減少と、それに伴う人口構成や世帯構成の変化により、「食」と「農」のあらゆる局面で多大な影響が生じると考えられます。こうした経営環境の変化に目を向けず、古いビジネスモデルを守るだけでは生き残ることは困難です。
当機構やそのメンバーには、このような変革期こそチャンスであるという気概を持ち、農業の新しい取り組みに積極的に挑戦してほしいと願っています。そして当機構は今後も「食」と「農」の最先端の情報を提供する組織であり続けたいと考えています。
2018年5月 談