ENGLISH

CLOSE

TOP > トップランナー紹介 > 十勝しんむら牧場 新村浩隆氏

トップランナー紹介

十勝しんむら牧場 新村浩隆氏

Update : 2018.09.03

目指せ! 21世紀の牧場経営 放牧酪農で新たな付加価値を創造

北海道、上士幌町に広がる約70ヘクタールの広大な牧草地。
その北の大地に、21世紀の酪農経営に取り組む牧場がある。有限会社 十勝しんむら牧場。
農業の6次産業化を実現するため、良質な牛乳を生産し、自社でオリジナルの乳製品を開発し、販売も行っている。

牧場の代表を務める新村浩隆社長は昭和初期に富山から入植してきた酪農家の4代目。家族が一年中休むことなく働く姿を見て育った新村社長は、経済的に報われず、魅力を感じられない従来型の牧場経営を変えたいと考えるようになったという。

「酪農を一生やり続けられる仕事にするためには、自分たちでゼロからモノをつくりあげ、お客様の手元に届ける。そういった牧場へと変えていく必要があると考えました」と新村社長は語る。

しんむら牧場

ターニングポイント
牛を牛らしく飼育する「放牧酪農」

酪農を一生続けられる仕事にしたい。そんな想いを実現するための第一歩として新村社長は、これまで一般的な飼育方法であった牛舎での「繋ぎ飼い」を止め、牛を牛らしく放し飼いにする「放牧飼育」へと転換した。牛、本来が持つ生態へと近づけることが健康的な牛を育てる最良の方法だと考えたのだという。

「先ずは、牛を野外に放牧し、牛のやりたいようにさせてあげることにしました。でも、それを行うためには放牧地の環境を整える必要があったのです。牛は、おいしい草がないと、わざわざ遠くまで草を食べに行ってはくれません。牛がのびのびと過ごせる環境づくりが何よりも大切でした」と新村社長は言う。

しんむら牧場で放牧されている牛たち

“十勝しんむら牧場流” ビジネスモデル
栄養価の高い牧草が育つ「生きた土づくり」

新村社長の目指す放牧酪農は、「生きた土づくり」から始まった。
大学卒業後、新村社長は単身、酪農先進国であるニュージーランドやオーストラリアを巡り放牧酪農を学んだ。帰国後はそのノウハウを活かし、およそ5年もの歳月をかけ放牧用地の土壌分析を徹底的に行い、必要な成分を補う「施肥設計」によって土中のカルシウム、マグネシウム、窒素などミネラルバランスを調えた。こうして土が持つ本来の力を取り戻し、微生物やミミズが住める生態系も回復。牛糞の分解が早く、栄養価の高い土へと生まれ変わった。

左写真:海外留学時代 右写真:土壌改良された栄養価の高い土

「土壌改良のおかげでミネラルバランスの調ったおいしい牧草へと変わっていきました。その牧草を食べた牛は健康になり、健康な牛から産まれた子は親牛の免疫力をもらって、やはり健康に育ちます。それを何世代も繰り返すと殆ど病気にならなくなりました。

きっと健康な牛から絞った牛乳はお客様の健康にもプラスになるはずです。そんな牛乳を自社で加工してお客様に届けていくことが、我々生産者の使命だと思っています」と新村社長は語る。

左写真:ミネラルバランスの整った牧草を食べる牛 右写真:しんむら牧場の放牧牛乳

“十勝しんむら牧場流” 成長政略
直営店で牧場の付加価値を高める

牛乳そのものの付加価値を高めることで、食と農を繋ぐ。
しんむら牧場の敷地内に併設された直営店「クリームテラス」には、健康な牛から絞った良質な牛乳や、その素材の良さを活かしてつくりあげた乳製品(なかでも「ミルクジャム」は、全国300店舗でも販売されるなど大ヒット)などを求めて、連日多くの観光客が訪れる。

「クリームテラスに来たお客様が牛乳を飲んで“おいしい”と喜んでくれたり、ミルクジャムや焼き菓子にしても、牛乳自体がおいしいからジャムもおいしいという風にお客様にダイレクトに伝わります。そうやって新村牧場のファンをつくっていくことが牧場経営を100年先まで持続していくためには必要だと思っています」と新村社長は言う。

上写真:牧場併設の直営店「クリームテラス」
下写真:しんむら牧場の乳製品を使った「クリームティーセット」

しんむら牧場の牛乳を加工したミルクジャム

未来へと続く持続可能な酪農を目指し、次に新村社長が手掛けたのが「山森野豚」だ。
牧場に隣接する山林で放し飼いにして育てた健康な豚たち。その良質な肉をベーコンやサラミなどに加工して販売。しんむら牧場の新たな取り組みとして期待されている。

「なぜ豚の放し飼いを始めたかというと、牛だけではなく豚もいることで、牧場の中に、より良い生態系が生まれると思ったからです。それに観光客の人たちは、生きている豚を見る機会なんてほとんどないですよね? そう考えると、放し飼いの豚は、新たな観光資源にもなり得ると思っています」と新村社長は期待に胸を膨らます。

放し飼いで育てている「山森野豚」

牧場の規模を拡大するのではなく、牧場自体の付加価値をさらに高めていく・・・。
新村社長が取り組む付加価値の創造は、100年先、農業の未来を切り拓いていく。

新村浩隆氏プロフィール

1971年北海道上士幌町生まれ。1993年酪農学園大学卒業。
卒業後、別海、ニュージーランド、オーストラリアで放牧酪農を学び1994年家業の新村牧場に就農。就農後、繋ぎ飼育から放牧酪農に転換。2000年から、乳製品の加工販売を開始。有限会社 十勝しんむら牧場を設立。
2005年、牧場内にクリームテラスを開店。牧場のショールームとして、お客様に牧場を身近に感じていただく。2015年、豚を導入。山林放牧で独自のブランド化を目指す。循環型農業から環境負荷の少ない持続可能な経営を目指す。

「有限会社 十勝しんむら牧場」データ

年  商: 2億3000万円(2018年5月末)
従業員数: 14名
しんむら牧場HP: http://www.milkjam.com