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トップランナー紹介

株式会社さかうえ 坂上隆氏

Update : 2019.02.12

農業生産のリーディングカンパニー 経営センスを持った人材の育成

鹿児島県志布志市にある株式会社さかうえ は、“農業で幸せを創る”をコンセプトに、市場に頼らない契約栽培事業、国産の牧草飼料の生産事業、そして、農業の見える化を実現するITシステムの活用などを通じて、若い世代の人材育成に力を注ぐ農業法人である。

ターニングポイント
「経営感覚を持った人材の育成」

創業から“損をしない農業”を提唱し顧客のニーズを優先した契約栽培を実践。品質の担保や安定供給といった顧客の要求や社会の変化にすぐに対応できる仕組みを作ってきた。そこで重要となるのが単に労働力としてではない、経営感覚を持った人材の育成。それが事業拡大のカギを握る。現在、20名を超える若者が坂上社長のもとで農業技術やマネジメント力を磨いている。

「農業で社会の課題を解決したいと思っているんです。そのためには、自立的に動ける優秀な人材が必要になりますので、若い世代を中心に難しい課題へチャレンジする人材の育成が重要だと考えています」と坂上社長は語る。

坂上社長のもとで農業技術を磨く若者たち

“さかうえ流”ビジネスモデル
「農業の見える化×組織マネジメント= 人材育成」

そこで坂上社長は「農業の見える化」という取り組みに加え「現場を任せる」という組織マネジメントの掛け算で若者の早期自立を促している。

「一般的に昔の農業というのは“暗黙知”。俺の背中を見て学べという職人気質でした。それでは今の若い世代はついて来られない。“背中”とはどういう事なのかを一つ一つ“形式知”化して、わかりやすくする取り組みを行いました」と社長は言う。

“農業の見える化”を実現したツールがこのノート。これは、坂上社長が就農当時に書き留めた農業ノウハウ。これらをデータベース化しマニュアル活用することで業務の効率化に加え農作物の安定供給が実現。さらに農場運営では、「自分で考え、問題に取り組む」といった自立した心が育つ実践の場を与えている。

上写真:農業工程管理システム
下写真:農業の見える化を可能にしたノート

入社2年目、露地生産課主任の玉城 葵 さんは、「年配の方から若い方まで色々な人がいるので、接していく中で、どういった対応をしていけば良いのか考えさせられる現場ですね。そこが一番良かったと思います」と語る。

そして入社1年目の北川 慧さんは、「データや数字に基づいて、ケールにしても過去何十年とデータがあって、今年の傾向とかを見て、それで全て数字を決めていったりするところが、他の農業と比べて先進的だと思いますね」と語った。

左写真:露地生産課主任として現場を任されている玉城さん
右写真:入社1年目の北川さん

こうして社長は、過去の統計をまとめてデータ化することで、作付け・栽培方法・農作業プロセスなど、伝えるのが難しいことを素人でも理解しやすいものに変えていった。さらに、一般に“天候に左右される”といわれる農業だが、過去の台風の進路や、月にどれぐらいの頻度で来るのかといった事を数値化すれば、リスクの高い時期や台風を想定した生産工程を組む対策をとることが出来る。そうすることで台風到来などによる天候不順の影響を最小限にとどめ、生産量を安定させることにもつながった。

“さかうえ流”成長戦略
「 課題 × 課題 = 農業価値の創造 」

「経営感覚を持った人材の育成」と併行し坂上社長が着手した成長戦略。それが、新しい農業価値の創造。

毎年変化する顧客の要望する野菜の生産量に応えるだけの農地の確保が極めて難しいなか、生産基盤である農地を生産量に合わせて増減することはできない。これら、必要な農地の確保を積極的に進めながら、生産量の変化に自由に対応するという課題を解決するために、飼料作物を作付けすることで生産量と農地確保のバッファ機能を果たすビジネスモデルを創造した。

ある程度確保された農地に顧客の要望に対応するだけの野菜を作付けし、残った農地にはデントコーンを作付けする。デントコーンはサイレージ化し長期保存しておくことで、作付け面積の増減を吸収できる。なので、即座に需要の高い野菜の生産に対応できる。

サイレージは飼料として地域の畜産農家に供給する一方で、畜産農家が処理に困っている牛糞を堆肥として供給してもらい自社農場で有機肥料として使用することで、いい野菜が出来る。この地域循環型農業の仕組みによって自然に負荷が少なく地域にも貢献でき、さらに新たな顧客の要望に応えるという価値の創造にも貢献した。

上写真: デントコーンを栽培し飼料として地域に供給
中写真:大型機械でデントコーンを刈り取り
下写真:牛糞を有機肥料として利用

「人口が集中した所だけが暮らしやすいのか?という生き方の話になりますが、こういう田舎の自然にあふれた所の方が私は生きやすいと思っています。一極集中するような人口構造の社会ではなく、地方でも稼げて豊かな生活が送れるという社会が実現できれば、人間の豊かさの多様性が広がってゆくのではないかと思います」と社長は語る。

農業ビジネスを牽引するイノベーター、坂上社長。
次世代の若きチカラとともに志布志市から農業の可能性を発信し続ける。

毎年行われる収穫祭の様子

坂上隆氏プロフィール

1968年、鹿児島県志布志市生まれ。私立鹿児島実業高、国際武道大学を経て24歳で実家の農業経営に携わる。1995年、有限会社坂上芝園を設立し専務に。2009年に有限会社さかうえの代表取締役に就任。株式会社化してからも引き続き代表取締役を務める。2009年に農業経営者A-1グランプリ大賞を受賞。2012年 九州大学大学院修士課程卒業。2018年 九州大学大学院博士課程単位取得退学。

「株式会社さかうえ」データ

年  商: 5億円
従業員数: 55名
株式会社さかうえHP: http://www.sakaue-farm.co.jp