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トップランナー紹介

尾藤農産 尾藤光一氏

Update : 2019.08.31

土壌から農業をデザインする 地域で一番スマートな農業に!

北海道・芽室町。ここに、土壌分析・ブランディング・環境価値の創造というアプローチから“地域農業をデザイン”する企業、株式会社・尾藤農産がある。
その歩みは、尾藤光一社長が四代目を受け継いだ際、“これまでのやり方ではダメだ!”と、自身が学んだ既成概念を壊す事から始まった。

ターニングポイント
科学分析に基づく“土壌のデザイン”

「父親たちが一生懸命に頑張っていた当時は、高度成長期に合わせた農業スタイルで土の中や作物の病気を肥料や農薬で解決するといった風潮でした。その弊害が私の世代に出始め、安定した生産が出来ないという事態に陥りました。しかし、何が原因なのか?様々な機関に問い合わせても明確な答えは出ませんでした。」と尾藤社長は話す。

学んできた農業のどこに問題があるのか?思い悩んでいた折り、1990年にオーストラリアで“ファーマーズコンサルタント”として活動していた、エリック川辺博士が来日。仲間からの呼びかけで話を聞く機会を得た尾藤氏は、土壌研究の考え方や指導方法に衝撃を受ける。

川辺博士(中央)と尾藤社長(右)

探していた答えは“科学に基づいた正確な土壌分析”

川辺博士は“土の中に生息する微生物の活性化”を重要な要素と捉え、アメリカの研究ラボ(Brookside Laboratory)にて土の健康状態を科学的に分析。そのデータを基に、足りないミネラル成分を補うための施肥量をその土地ごとに計算し処方箋を出すといった、まったく新しい概念を説いた。
この出会いをキッカケに尾藤氏を含めた若手農業者5名は、SRU(Soil Research Union)※を発足。
道内に仲間を拡げ、より健康な作物を作るために分析・研究を続ける。これらの活動を通じ、「農家が畑ごとにきめ細かく管理、環境負荷を抑え、安定した畑作り、農産物生産を目指す」という博士が唱える農業科学を実践し続け、健康で美味しい農作物が育つ土壌のデザインに成功した。

※SRU:川辺博士とのコンサル契約の受け皿となる組織として発足したが、現在では、地域、経営形態、年齢を超えて情報を共有し、農業について語り合う組織として拡大。約180名のメンバーが全道各地に11の支部を持って活動する。(事務局長:(株)大野ファーム 代表取締役 大野泰裕氏)

左写真:じゃがいも畑  右写真:真ん中の青色の粒が追加したミネラル分

尾藤農産流・ビジネスモデル
農業をデザインし価値を高める

自慢の土壌から収穫した作物を消費者へ!
芽室の特性を活かした「農業デザイン」で商品価値の向上を図る

「芽室地域では、越冬したじゃがいもは甘みがあって美味しいと昔から食べられていた。しかし市場では新じゃがが主流で、越冬じゃがいも古くなったイメージが強く売れなかった。どうすれば売れるか?工夫したのが雪を活用した熟成です。」

雪室で熟成されるじゃがいも

6ヶ月から最大で2年間も熟成

雪室じゃがいも

北海道ならではの冬場の雪を活用し、適度な温度と湿度が保てる“雪室”を考案。実際に雪室内の温度は、1℃~3℃とじゃがいもが発芽しない最適な環境。凍らない程度の温度で熟成させる事で、じゃがいもがもつデンプンが糖に変わる“低温糖化”という現象が起き、甘みが増し、食感も滑らかになる。

芽室の雪室と旨さをセールスポイントに、尾藤氏は、“雪室熟成”をブランディング。一旦、価値を認めてくれた先からは、注文が継続するし、価格交渉も不要になったというがここに至る道のりに10年以上かかったと笑う。

農業のイメージを変え、芽室の環境を消費者に伝えたい

尾藤ブランドを旗印に、ピクルスや乾麺等の商品開発にも注力、オシャレなロゴやパッケージのデザインにも拘り芽室のエッセンスを全国へと発信、着実にファンを獲得している。

尾藤ブランドの商品

尾藤農産流・成長戦略
次世代に繋ぐ新たな環境をデザイン

上写真:Prologo della Terra 大地の序章
下写真:建設中のワイナリー

培った土づくりのノウハウの集大成として、現在取り組んでいるのは、ワインの生産。尾藤氏をはじめとする10軒の生産者が参加する「芽室ワインカウンティ」では、4年前から町内でぶどうの栽培に取り組む。この地元産ぶどうでワイン醸造を行うために設立した「めむろワイナリー(株)」では、地元の観光スポットでもある新嵐山スカイパークにワイナリーを建設中。

世界の一流シャトーにも負けない土壌づくりと芽室の自然が育んだぶどうで、「ゼロから生まれたワイン」(Prologo della Terra 大地の序章)を委託醸造。2020年竣工のワイナリーで醸造に着手し、2021年の本格販売を目指す。

豊かな土壌をワインで伝える

「ワインは土づくりの最終章です。世界各地にある有名シャトーの土壌は“神からの贈り物”とされていますが30年もの間、土壌研究してきた私は、それに匹敵する土壌がつくれます。ワインの味を決める重要な要素が「テロワール」(生育環境)です。僕らが今までやってきた事の成果が、飲み物で表現できるのであれば本望。

十勝は日本の食料基地と言われるが、凄いワインも生産できるとなれば、カッコいい事だと思います。それを実現できれば、芽室の農業が認められる事に繋がるし、憧れの農業スタイルだと思ってもらえる。後を継ぐ息子達にも、親父の農業はスマートだな!と思ってもらいたいですね!」

豊かな土壌で育つぶどう

あくなき「挑戦」と、時代を先取る「感覚」が「新たな価値」を生む。尾藤社長の農業デザインはこれからも続く。

尾藤光一氏プロフィール

1963年、北海道芽室町生まれ。85年、専修大学北海道短大農業機械科卒業後(有)尾藤農産入社。1990年、ソイル・リサーチ・ユニオン設立メンバー。アメリカ合衆国 オハイオ州 ブルックサイド研究所にて、コンサルタントDr・エリック川辺氏に師事。農業の基本は「自然との共存・土との共存」と考え、低投入持続型農業を目指すコンサルティングに携わる。2004年、NPO法人未来農業集団準備委員会代表。翌年、NPO法人未来農業集団3月認証後、理事就任。食育事業、グリーンツーリズム事業の推進。2008年、同社代表に就任。2019年、株式会社 尾藤農産に組織変更を行う。2019年 「めむろワイナリー株式会社」の代表に就任。

「尾藤農産」データ

年  商:1億8千万円
従業員数:5名(他 季節雇用)
株式会社尾藤農産HP: https://www.bitou.asia