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トップランナー紹介

浅井農園 浅井雄一郎氏

Update : 2020.12.14

常に現場を科学する 研究開発型の農業カンパニー

三重県・津市にある株式会社 浅井農園は、創業100年を超える老舗企業。
元々は花や植木などの花木生産が中心事業だったが、2007年に5代目 浅井雄一郎さんが就農。そこから“第二創業”として完熟チェリートマトの生産を開始した。
今では、独自の品種開発から生産管理・加工流通までの強いバリューチェーンを構築する。

“浅井農園流”ターニングポイント
植物の価値を追求したい

「シンプルに自分たちがやりたい事は食べる方が幸せを感じ、健康になってもらう事。そのために、甘いトマトや皮の薄いトマトを開発し、植物の価値を世の中に提供していきたい。」

浅井社長の志に賛同し、2014年 農学博士の呉 婷婷(ウ・ティンティン)さんが入社。
彼女は“先端技術で育ったトマトは美味しい”を証明したいと、新品種の開発に力を注ぎチェリートマトや房どりトマト等を商品化した。

浅井社長と呉さん

左写真:チェリートマト:糖度9~12度 トマト本来の旨味と甘みを凝縮させた濃厚な味わい
右写真:房どりトマト:糖度8~11度 酸味が少なく華やか香りが特徴 女性でも食べやすい

“浅井農園流”ビジネスモデル
農作業者ではないAgronomist(農学士)集団へ

「僕らは、農業者であり研究者・科学者として従来の農業イメージとは異なる“組織・働き方・生産性”を追求していく。そのために、若いリーダー達には失敗を恐れず、新しいチャレンジをしてもらいたい。」浅井農園では年齢・性別・国籍を問わず多様な人材が日々、農業現場をイノベーションしている。

圃場を管理するスウェーデン出身のエミルさんは「若い社員は皆イキイキと働き、学びに対するモチベーションが高い。自分たちで圃場をつくるというマインドがあるので生産現場で起きる様々な問題や課題をどう解決すべきか?意見交換も活発だ」と語る。

実家が農家を営む石川さんは、“農業っぽくない!”と、良い意味でカルチャーショックを受けたそう。「他にはない商品をお客様に提案できる事が楽しみであり、ワクワクできる」と語る。流通の現場を任され、パート従業員からの声を反映させた働きやすい環境づくりを目指す。

研究開発を担当する中島さんは今回、トマトに含まれる健康成分が通常の1.8倍もある高リコピントマトを商品化。「自分たちがスクリーニングした新種が製品化され社外で評価されるのは嬉しい」と語る。
生活習慣病を予防する効果が期待されるリコピン。まさに“食べる人が健康”になる新しい価値を生み出した。

上から、Tomatoユニットモールップ・エミルさん
流通開発ユニット 石川 弘華さん
研究開発ユニット 中島 正登さん

高リコピンミニトマト
糖度:9~12度 甘みと旨味が濃く、なめらかな味わい。リコピン濃度は通常の1.8倍(当社比)

“多様性こそがイノベーションにとって一番重要”

若手と社長がいつでも意見交換できる組織

価値観や働き方が多様化している今の時代。会社は“ただの箱”だと浅井代表は語る。
「つまらない箱よりはワクワクできる箱の方がいいですよね?そういう観点で言えば、箱の出来栄えは社員次第。経営者の役割は、みんなのために箱を掃除するぐらいですね。」
3~5年という長い期間をかけて研究開発を進めるうえで欠かせない“同じ志をもつ仲間”。
一人一人の能力を結集していく事で、プロジェクトや農業が完成するのだ。

左写真:ミーティングスペース完備のオフィス 右写真:ワークスペースのフリーアドレス化

我々にしか出来ない事が“常に現場を科学する”

上写真:光合成量をリアルタイムで計算
下写真:生産開発ユニット 岡島 沙也花さん

働き方や生産性を高める研究開発として、これまで目には見えなかった情報の可視化に着目。
その一つが“光合成の見える化”だ。その仕組みは、下から上に空気が抜けるチャンバーで植物体を覆い、二酸化炭素濃度の差を測るというもの。

生産開発を担う岡島さんは「光合成量を数値化し、見える化させる技術によりハウス内の湿度・温度・二酸化炭素量などを調整し 品種ごとの栽培環境を最適化させている」と語る。

農業の不確定要素である“季節や天候による日射量の差”をLEDで補完するという研究も実用化。LED光を最適な箇所に照射することで光合成量を最大化させ、年間を通して生産量を一定化させる。

太陽光とLEDを併用し“光合成量の最大化”。赤と青の光が植物の吸収しやすい波長なのでそれをあわせたピンク色のLED照明。日射量が一定量を下回ると自動で点灯する。

クロロフィル蛍光測定による植物生体情報の把握

さらに“作業リスクの見える化”も実現。植物にとって最適な環境は人間にとっては過酷。夏の暑い時期には熱中症のリスクがつきもの。そこで、働き手のための研究として作業者の心拍や体温といったバイタルデータを計測する“スマートフィット”を大阪大学、そして倉敷紡績と共同開発し労働効率の最大化を目指す。

圃場管理者の勝部さんは「熱中症のリスクは把握していましたが、休憩のタイミングや水分補給の頻度は感覚で行っていました。スマートフィット導入で作業者の体調変化を数値化し、問題があればリアルタイム通知するので事故を未然に防ぐ事が可能になった」と語る。

左写真:Tomatoユニット 勝部 尚隆さん
右写真:スマートフィット 暑熱環境下における作業リスクをIOT技術で評価。AIが過去のデータを踏まえた体調変化を把握。作業者それぞれに適した体調管理ができる

遠隔生産管理システム
全国6カ所にある圃場の温度や湿度・二酸化炭素濃度・光合成量 などICT技術によりリアルタイムで集計し比較解析を行う

目に見えない情報を可視化する技術は、植物と人が共存する栽培環境を最適化へと導くと同時に、拠点をリアルタイムで結ぶスマート農業を可能にした。
新たなイノベーションによって、農業界が他の産業に近い生産性や労働環境になれば、若手層の新規参入も期待できる。様々な課題解決へ向けた研究は続く。

“浅井農園流”成長戦略

農業問題のSolution(解決策)を共有

日本農業界全体が強くなるため研究開発で得た成果“ソリューション”を共有していく事業に着手。それが農業と工業の最先端技術を駆使したスマート生産体制だ。

左写真:自動収穫ロボット 収穫作業を自動化し人の作業量を低減
右写真:自動搬送装置 160kgまで運搬可能なので作業負荷を低減

農業×工業で飛躍的に生産性を向上

2018年より大手自動車部品メーカーのデンソーと手を組み、ヒトとロボットが協働する新たなトマト生産モデルを開発。ロボットが作業するので、夜間を含めた24時間体制での収穫や出荷が可能となった。労働生産性の向上に加え、自動化による省人化と作業負担の低減により、担い手の減少や高齢化による労働力不足という課題の解決にも期待が寄せられる。

後継者不足から遊休地が増えていた三重県・玉城町と手を結び本州最大規模の約8ヘクタールのキウイフルーツ産地化を目指す

農業×地域
遊休地を活用した果樹園地開発

2019年にはゼスプリと提携し、三重県・玉城町に本州最大規模の果樹園地開発にも着手。

「果樹園の開発に1年、実がなるまで3年かかり収入が得られるまでに4年も掛かる大変な仕事です。
そして、8ヘクタールの圃場には3000トンの堆肥と300トンの牡蠣殻石灰を入れました。
県内の畜産・牡蠣養殖業者の協力がなければ実現しませんでした。地域資源循環という意味で、農業は地域にとって価値のある仕事だと感じました。」

浅井代表は、50年先という自分の子供や孫の世代に向け見据えて土を耕し、苗を植え、地域農業の発展を目指す。

時代に必要とされる農場やプロジェクトは作品

「僕も自分が立ち上げる立場から、どちらかというと若手の取り組みに対し“それ大丈夫か?”と言う立場になりつつあります。
それでも、この会社に関わる間に、後どれだけの作品をつくれるか、みんなが挑戦してくれるというのが楽しみですね。」

多様化が進む今の時代にそって、研究開発を続ける浅井代表。若い社員の挑戦をリードし作品づくりを進める。

浅井雄一郎氏プロフィール

1980年、三重県津市生まれ。大学卒業後、経営コンサルティング会社等を経て、三重県津市にある家業(花木生産)を継承し、第二創業として2008年よりミニトマトの生産を開始。農業法人経営の傍ら、三重大学大学院でトマトのゲノム育種研究等に取り組み、2016年に博士号を取得。独自の農業バリューチェーンを構築しながら生産規模拡大に取り組み、2013年に工場の排熱・余剰蒸気を再利用する「うれし野アグリ」、2018年に作業の自動化・IT化を進める「アグリッド」、農地集約化を図る玉城町でのキウイ産地化計画など、農商工連携により次世代型農業のモデル構築に挑戦している。

「浅井農園」データ

株式会社 浅井農園HP: https://www.asainursery.com