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トップランナー紹介

舞台ファーム 針生信夫氏

Update : 2021.11.15

競争から“共創”へ!DXで創る食卓イノベーション

震災からの復旧・復興に向けた様々な取組みを進める宮城県・仙台市。ここに持続可能な「食と農」を目指して、農業から社会課題の解決に取り組む舞台ファーム株式会社がある。デジタル技術の活用が進む農業界を牽引する針生代表。『農業のDX』を通じ、農作物の安定供給体制の確立に取り組む戦略を聞いた。

ターニングポイント
東日本大震災からの事業再建

「地元で300年続く農家の15代目として、若い頃は出荷量を増やそうと頑張っていました。当時は、長時間労働する事が当たり前で“いつ寝ているの?”と妻には心配をかけてばかりでした。」

2003年の法人化以降、株式会社化やグループ会社設立など事業規模を徐々に拡大。順風満帆に思えた矢先の2011年3月11日。東日本大震災によって農地やコメ倉庫が壊滅状態となり、黒字経営から一転、数億円もの債務超過に陥ってしまった。

左写真:地元で300年続く農家
右写真:仙台市内の拠点『インテリジェンス・ラボ』

『3.11』震災を経て脱競争の経営へシフト

3.11による被害

「甚大な被害をもたらした3.11は、我々の会社にとっても、被災3県にとっても大きなパラダイムシフトを起こした日です。それは“攻め”から“広げる”という考え方への転換。
津波による被害は、今後20年以内に必ず起きる気候変動や人口減といった農業課題の縮図です。持続可能な事業を目指すために、産地間の競争型農業ではなく、広域連携型の農業経営が大切だと気が付きました。」

“舞台ファーム流”ビジネスモデル
異業種連携で競争から共創へ

従来型の農業は「足し算だった」と語る針生代表。収穫量を倍にしたければ、倍の面積の農地に、倍の種をまく。しかし、これではコストや労働力の面でいずれ頭打ちになる。

そこで、マネジメント力や内製化に秀でた異業種とコラボし自社の強みと「掛け算する」ビジネスモデルを構築。『共創力』を高める経営へ移行した。

“大山健太郎氏との出会いでV字回復

「事業再建を模索していた当時、アイリスオーヤマの大山健太郎社長(当時)と出会いました。その時に『針生さんは大量のお米を客に押し売りしている』と指摘され、まさに青天の霹靂でした。」

生産したお米を大量に売る事が正しいという、企業側の理論を優先するプロダクトアウトから、消費者が求めている商品に耳を傾けて開発するユーザーインへの転換を実現すべく、2013年にアイリスオーヤマとともに「舞台アグリイノベーション株式会社」を設立した。

『舞台アグリイノベーション株式会社』を設立

『共創力』で美味しい「ごはん」づくりを開始

米の食味を落とす原因となるものが「温度変化」。そこで、温度15度以下の低温を保ち、低温保管・低温精米・低温包装を行う「トータルコールド製法」を実現。

簡単・便利をキーワードに、高気密性の小袋パックに脱酸素剤を封入し、鮮度の良い状態で食べきれるよう2~3合単位で包装する「新鮮小袋パック」を商品化。いつでも精米したてのおいしさが提供可能になった。

ユーザーのニーズに応じた米商品を開発

上写真:乾燥調製、計量出荷などの機器を備える『浪江町ラック式乾燥調製施設』
中写真:農機具をシェアできるネットワークを構築
下写真:新たな物流システムを構築

さらに、生産、仕入、精米、流通、販売に至るサプライチェーンを見直すため全国の農業者と連携を強化。従来生じていた中間流通コストをカットしつつ、資材・農機具の共同利用や農地集約支援などによる生産の効率化を図り、安定して生産・供給できる体制を構築。そのモデルを福島沿岸地域にも拡げている。

「無人化が可能なスマート農業は、確かに生産の効率は高まりますが、導入するコストを考えると、規模によっては生産コストそのものが高くなってしまう。
私が言うデジタルトランスフォーメーションは、個人が農機具を全国でシェアをするネットワークを使って、いかに生産コストを下げていけるか。労働時間を短縮し、利益を確保できるか。というところまでトータルコントロールできる仕組みです。」

異業種とのコラボレーションで
技術力を高めオリジナル商品を開発

針生代表が共創で重視するのは“TPPA”。「T…徹底的に、P…ぱくって、P…ぱくり倒して、A…アレンジする。」成功モデルを取り入れ、舞台ファーム流にアレンジし発展させるという手法で、事例の一つがカット野菜だ。1990年代から行っていた野菜のカット加工。セブン-イレブンとコラボすることで技術力をさらに高め、現在は、細菌検査などの厳しい品質管理基準をクリアし“生食用のカット野菜”を商品化。野菜がもつ食感や風味は勿論、これまで2日程度が限界だった消費期限を5日と大幅に延長する事に成功した。

「農業者の我々が研究システムや分析センターなどをつくるためには巨額の投資が必要です。であれば、それらを持っている機動力ある企業と、農業のプロである舞台ファームが掛け算されれば、お互いの能力が最大限に発揮でき、美味しいものを低コストで生み出せます。消費者にとってもプラスになるので、このコラボレーションは本当に素晴らしいと思います。」

左写真:『セブン-イレブン 』のベンダーとして商品の企画・提案・製造を手がける
右写真:最新技術により品質管理を徹底

“舞台ファーム流”成長戦略
共創とDXを融合させた次世代型植物工場

異業種企業との共創を経て、舞台ファームの次なる成長戦略が『農業×DX』による食卓イノベーションだ。

2021年に日本最大級の次世代型レタス生産植物工場「美里グリーンベース」を竣工。約5.1ヘクタールの巨大なハウスでは、最大で同時に90万株ものレタスを育てる事ができ、種まきから水やりといった栽培管理を自動化、生育環境を一定に保つよう制御され、1日に3万~4万株の出荷が可能だ。

国内最大級の作付面積を誇る『美里グリーンベース』

土を使ったソイルブロックによる
舞台ハイブリッド土耕栽培

「基本的には水耕栽培ですが、我々は土で育てた野菜が美味しいと思っているので、土を使用したソイルブロックによる土耕栽培を組み合わせました。この土の中には、私が露地野菜で30年間培ってきた肥料設計や栽培方法、連作障害が出ない工夫がつまっています。また、プラスチックやスポンジは使用していないのでSDGsへの取り組みにも繋がります。」と針生代表は語る。

ソイルブロックと水耕栽培を組み合わせて野菜を栽培

最新鋭のLED照明で天候不順の課題をクリア

太陽光とLED照明により光合成を最大化

針生代表によると、光の量と気温の関係によって、宮城県で一番レタスが大きくなるのが6月1日だと言う。美里グリーンベースでは365日いつでも「6月1日」を再現するよう、太陽光とLEDを併用し光合成を最大化し、冬場でもハウス内の温度が下がらないようコントロール。植物の育成に最適な環境づくりによって、旧来型の植物工場の葉物野菜が柔らかく育つという課題を克服し、シャキシャキと歯切れ良く育つよう再設計した。

「令和の畑はこういう形だと、舞台ファームの出した答えが農業をDXした植物工場です。このモデルを全国的に展開するという事が、食料の安定供給につながります。私が目指しているのは、地域農家を駆逐するのではなくデジタル技術を駆使した“共創”。その土地にあった農業を一緒に強くしていこう!という事ですので、どんどん新しい形態の農業を実践してもらって、露地野菜・施設園芸など、皆で融合した新しい供給システムを作っていきたいと思います」。

未来に待ち受ける気候変動を見据え、安心・安全で“値ごろ感ある”野菜を提供したい。究極的な理想は食料のベーシックインカムだと語る針生代表。農業新時代の新たな生産モデルが我々の食卓を支える日は近い。

針生代表

針生信夫氏プロフィール

1962年宮城県生まれ。宮城県立農業講習所(現・宮城県農業大学校)を卒業後、父親の後を継ぎ、就農。2003年に舞台ファーム設立。2013年にはアイリスオーヤマとの合弁により、舞台アグリイノベーションを設立。
農林水産省マルシェ・ジャポンプロジェクト実行委員長、仙台市認定農業者連絡協議会会長、宮城県総合計画審議会委員などを歴任。

「舞台ファーム」データ

年  商:24億8000万円(グループ40.9億円)
従業員数:約80名(グループ約200名)
舞台ファームHP: https://butaifarm.com/