ENGLISH

CLOSE

TOP > トップランナー紹介 > エア・ウォーター 鹿嶋健夫氏

トップランナー紹介

エア・ウォーター 鹿嶋健夫氏

Update : 2022.1.21

「食」のライフラインを支え、美味しい食卓をつくる

産業ガス製造から医療、エネルギー、物流など幅広い事業を展開するエア・ウォーター株式会社。今後の成長領域として据えるのが『農業・食品関連事業』だ。今や北海道から九州・沖縄まで、原料の安定調達や加工技術のインフラを整備し、『畑から食卓まで』という独自のバリューチェーンを構築。同事業を率いる、鹿嶋健夫 常務執行役員 農業・食品カンパニー長に将来の展望を聞いた。

ターニングポイント
ガス製造の技術を応用した冷凍食品の製造

農業・食品事業の基礎は1979年。産業ガス製造の技術を応用し、北海道の新鮮な農水産物を液化窒素で瞬間冷凍させ、販売した事が始まりだ。新入社員として携わった鹿嶋氏は“畑違い”の事業に戸惑ったと語る。

「液化窒素はマイナス196℃なので、採れたての美味しさをパッと凍らす事ができます。その技術を活用するための事業でしたが、始めた当初は、非常に苦戦しました。携わった者が“ガスしか知らない素人集団”で、軌道に乗るまで大変な時間がかかりました」

飛び込み営業や自転車での配達といった、手探り状態のスタート。卸先の料理人たちから“こんな商品が欲しい”という要望や“こういう風に作った方が美味しくなる”など、指南を受けながら提携先の加工工場や、農業・漁業協同組合と一緒に商品開発を行った。

「寄り道もしましたが、品質の良さを追求しながら、お客様が求める商品を生み出す。そういった試行錯誤の繰り返しが、後の成長に結び付いたと思います」

上写真:冷凍食品事業参入当初のカタログ
下写真:鹿嶋健夫 常務執行役員 農業・食品カンパニー長

“エア・ウォーター流”ビジネスモデル
『畑から食卓まで』おいしい食の提供

冷凍食品事業で培ったノウハウを活かすべく、積極的なM&Aを実施。02年にハム・ソーセージを手掛ける工場を譲り受け、ハム・ソーセージ事業へ進出。09年には北海道千歳市のトマト農場を取得し、エア・ウォーター農園を設立、農業事業に本格参入を果たす。

「農業事業を成功に導いた要素は大きく2つあります。まずは販路があった事。我々は他の商材で業務用・市販用を通じて、お客様との繋がりがあったので、どういった品種が求められているか?というニーズを分析できました。次に、栽培や育成に関するデータの収集。無駄を省き効率良く収益を出すための取り組みを徹底しました」と鹿嶋氏は語る。

左写真:ハム・ソーセージ等の加工食品事業に参入  右写真:エア・ウォーター農園(千歳市)

農業事業を軌道に乗せるため、販売と栽培の両面で工夫。当初はスーパー向け中心だった売り先を外食チェーンにも拡げ、商品力を高めるために、顧客ニーズに対応した新しい品種の栽培もスタートした。

栽培技術では、自社で生産した二酸化炭素(CO₂)をハウス内に供給し、植物の光合成を促進させるために利用。ガス会社ならではの強みを活かし、高品質な野菜を安定的に供給する体制整備を行った。

自社で生産した二酸化炭素(CO₂)をエア・ウォーター農園のハウス内に供給

異業種間のM&Aで
バリューチェーンを共創

エア・ウォーター農園の操業をキッカケに、M&Aを更に加速。12年に、馬鈴薯やカボチャなど野菜の卸売・加工を主力とする『トミイチ』や、野菜・果実飲料メーカー『ゴールドパック』等のグループ化を進めた。

15年には野菜・果物小売店『九州屋』がグループ入りし、「食」に関わる多彩な事業を展開。これら異業種間の連携強化によって、調達、開発・加工、販売が一体となった「畑から食卓まで」のバリューチェーンが実現した。

「ガスの事業というのは人の生命に欠かせないものなので、いかなる時も切らさないということが大事。食料も生きていく上で絶対に必要となるものです。近年、食料自給率向上や食品ロスの低減が課題となる中、農産物の生産(栽培・栽培支援・調達)、物流・加工、販売へと繋がる仕組みをつくり、食のライフラインを守るという事が我々の存在意義です」と鹿嶋氏は語る。

規格外の商品を直売所で販売したり、グループ会社で加工食品にして食品ロスを削減

“エア・ウォーター流”成長戦略
グループシナジーで「食」のライフラインを強化

近年、原材料費や人件費・物流費の上昇に加え、気候変動などのリスク要因が顕在化している。こうした現状で、食のライフラインを支えるために求められるものが、グループシナジーの創出だ。原料野菜の安定調達では、延べ10,000ヘクタールに及ぶ生産者と契約栽培を結び、適地適作による供給体制を強化。一方で、天候不順の影響を最小限に抑えるために国内では南九州、海外ではエクアドルに調達拠点を開拓し産地の分散化も進めている。

さらに、農産物直売所「産直市場よってって」を運営する『プラス』が新たにグループ入りし、地産地消を通じた地域農業振興や、規格外農産物の廃棄ロス低減などSDGs達成にも貢献。エア・ウォーターのグループ拠点を繋ぎ、農業生産基盤の維持・強化を目指す。

左写真:各地の生産者と契約栽培を行っている
右写真:農作物直売所「産直市場よってって」

次世代農業モデル
「トリジェネレーション事業」

長野県安曇野市のトマト農園では、木質バイオマス発電で発生する熱・CO₂をトマト栽培に利用するトリジェネレーション事業が開始。

これにより、CO₂のリサイクル利用で環境負荷の低減を図るとともに、トマト栽培ハウスの保温に使っていたLPガスを最大4割、光合成促進のため使用していた液化炭酸ガスが3分の1削減可能となる。未利用木材を活用した発電によって地域の林業振興に貢献しながら農業コストの削減や持続可能な農業事業の促進につなげる。

木質バイオマス発電のエネルギーをトマト栽培に利用

中食市場・自家需要に対応「加工品の新商品開発に注力」

20年には、西日本を中心に青果物輸送に強みをもつ『桂通商』がグループ入り。低温物流を強化しながら農業・食品事業と連携した、食品物流事業の創出にも取り組んでいる。北海道においては、物流と農業を組み合わせた事業を推進する「北海道エア・ウォーター・アグリ」を、九州では、農産物の調達、加工拠点として「トミイチ九州」を設立し、バリューチェーンの強化・拡大を図る。

「新しく立ち上げようとしている“食品の流通加工”という事業は、流通過程でタイミングよく、お客様の要望に沿った加工を施すということで畑から採れたものを皆さんの口の中に運んでいただく、そういう仕組みづくりをしていきたい」と語る鹿嶋氏。

コロナ禍によって食に対するニーズは大きく変化。テイクアウトやデリバリーの利用が増加している中で、消費者が求める「自宅で簡単に、おいしく食べられる食品」といったニーズに応えるために、カンパニー各社の力を集結させた新商品開発に注力している。

グループ会社製品の冷凍野菜やベーコンなどの食材、調理器具を使い生産コストを抑えた新商品を開発

その代表がフランスの郷土料理“キッシュ”。使用する食材、トマトやホウレンソウ、ベーコンなどはグループ会社で生産した加工製品を利用。調理器具もタルトの金型やケーキ用のオーブンなどスイーツ部門のものを流用している。生産コストを最小限に抑えながら、美味しさはもちろん、簡便・即食ニーズに応える新商品開発を実現した。

さらに現在、「健康志向食品の事業化プロジェクト」を立ち上げ、原料となる野菜や加工品に含まれる成分を分析・評価し、栽培・加工・保存の工程を最適化。素材の味や機能を活かしたフレイル予防や病気を未然に防ぐための機能的な食品開発も進めている。

「生産者から消費者まで」
関わる全ての人がハッピーになる仕組み作りを目指す

「事業ですから安定も大事ですし、拡大も図っていきます。その事業に携わっている皆さん、パートの方やアルバイトの方もいらっしゃいますが、そうした方がエア・ウォーターの事業に携われてよかったなと思ってもらいたい。同時に、加工業者や農協・漁協の方々と一緒に、外部の力を借りながら、さらに幅を広げていくということが、どうしても必要になると思いますし、是非やっていきたいと思っています」と語る鹿嶋氏。

グループシナジーを最大限に発揮し、食料自給改善、フードロス・ゼロを目指して事業拡大に取り組む

グループシナジーを最大限に発揮し2030年度には目標とする売上収益3,000億円を通過点として、さらなる拡大を目指していく上で、特に物流、加工に注力し食品物流加工機能を高め、食料自給改善、フードロス・ゼロを実現すると鹿嶋氏は意気込む。
『地球の恵み』全てを商品にするエア・ウォーターの取り組みが、私たちの食卓を支えていく。

鹿嶋健夫氏プロフィール

1956年 北海道生まれ。1979年 ほくさん(現エア・ウォーター)入社。2016年6月 春雪さぶーる代表取締役社長就任。
2020年4月 エア・ウォーター常務執行役員農業・食品カンパニー長、2021年10月 エア・ウォーターアグリ&フーズ代表取締役社長兼務。

「エア・ウォーター株式会社<農業・食品カンパニー>」データ

年  商:1,326億円(2021年3月期)
従業員数:6,795名(2021年9月末時点)
エア・ウォーター株式会社HP: https://www.awi.co.jp/ja/index.html