Update : 2022.3.28
スマート化に代表される情報通信技術の活用で、目覚ましい進歩を遂げる農業。顕在化する担い手不足・食料自給率の低下・耕作放棄地などの様々な課題がテクノロジーによって解決できる時代が到来している。それを可能にしている技術の一つが、IoT(アイ・オー・ティー)、いわゆる「モノのインターネット」。温度計や湿度計など計測ツール(「モノ」)が、人を介さず直接通信することで離れたところにいても様々な情報をリアルタイムで知ることができる便利なテクノロジー。これらの開発を手掛け、食農ビジネスの安定と成長を支援する株式会社セラクの取り組みに迫った。
教育力による人材育成と技術研究開発をベースに、ビジネスを創造するIT企業である株式会社セラクが、農業へなぜ参入したのか。代表取締役の宮崎 龍己氏は語る。
「これまで人の手によって管理していた作業をセンサーで測り、集めたデータを数値化してサービスとして提供できるようになった。つまりIoTの進化によって、農業との親和性が高まったという事です。そういったチャンスの到来がターニングポイントです」。
もう一つの要素が、企業理念にある「世の為人の為に、貢献する」。宮崎氏は、高齢化や過疎化が進む地方の課題を解決すべく、地方創生を旗印に“一次産業の復活”を掲げ、環境負荷の低減と安定的な食糧生産に向けたサポートにのりだした。
「みどりクラウド」の仕組みは、まず温度や湿度、二酸化炭素濃度といった圃場の環境を各センターが計測し「みどりボックス」が集約。Wi-Fiや4G回線を経由し、取得したデータをスマートフォンやパソコンに送信し「みどりモニタ」というアプリ(管理ツール)をつかって閲覧や分析するというもの。インターネット環境さえあれば、いつでも・どこでも簡単にサービスが受けられるという事が最大のメリットだ。
※クラウドとは:ユーザーがソフトウェアを持たなくてもインターネットを通じてサービスを利用する仕組み
「みどりクラウド」を通じて行うデータを活用した農業の利点について、宮崎氏はこう語る。
「これまでの農作業は経験や勘によるところが大きかったわけです。環境のデータを可視化することで温度や湿度等の変化によって、収量がどう変化するのか?収穫時期はいつか?など客観的にデータを比較することができます。生産性が上がることにもつながりますし、スマホの操作で環境変化等の確認ができるので労働力の削減も実現します」。
自然相手の農業の中で、刻々と変わる栽培環境をどのように最適化させるのか?みどりクラウド事業部長の持田さんは語る。
「このサービスでは、圃場に「みどりボックス」というセンサーを設置することで、温度や湿度、二酸化炭素濃度や土壌の水分等のデータを随時計測しています。さらに、カメラも設定できるので24時間・365日、離れた場所からも圃場の様子を確認でき、異常があった場合はスマートフォンなどに知らせる機能もあります。また、農作業記録サービス「みどりノート」では年間の作業計画から日々の作業までの記録・管理ができ、労働者や圃場の管理などにも役立ちます」。
クラウドならではの機能で農業従事者の負担を減らすと同時に、ITが得意とするデータ分析や比較によって、これまで感覚に頼ってきた作業やノウハウの共有がしやすくなり、後継者を育成できるという効果も期待できると言う。
農業にIoTの技術を導入するにあたって意識したのが、使いやすさ。ITに触れた事がない方でも感覚的に操作できるように必要な機能を厳選し、あえて複雑な機能は省いたという。それによって、初期の段階での導入コストも大幅に抑えつつ、拡張機能などは後から追加・カスタマイズできる仕様に。利便性は徐々に拡がり、2022年現在、環境モニタリングのユーザーは3000件を超え、その他のサービスを合わせると6000件に迫る勢いで浸透している。
「日本では農業者の平均年齢が高いこともあり、シンプルで誰でも簡単に使えるものでないといけないと思ったんです。そこで、判断・制御の部分は他に任せて、計測・記録に特化するものを作ろうということになりました。機能をシンプルにした分、価格を抑えて誰でも使いこなせるように開発しました。今後もユーザーさんの声を反映してブラシュアップしていきます」と語る持田さん。
「みどりクラウド」 のサービスを利用していちご栽培を行う、加藤いちご園の加藤さんはこう語る。
「導入で得られたメリットは、いちごの質が良くなったことです。一般的には、温度が低い方がいちごは甘く育ちます。しかし、味を追求すると今度は収量が落ちてしまうんです。また、実を大きく育てるには“光合成”が欠かせません。環境が数値として可視化したことで、理想とする環境へコントロールできる。また、データを自動で収集してくれるので、何が良くなかったのか?など比較できるので収量が落ちやすい厳寒期でも一定した質・安定した生産量が確保できました」。
さらに加藤さんは、データを生産者同士で共有できるという点にもメリットがあると言う。周辺地域のみならず、北は東北から南は沖縄まで、SNSなどを通じた情報共有ができ、栽培の知識やノウハウが深まったと言う。
「これまで私はデータが重要だと知ってはいましたが、うまく活用できませんでした。「みどりクラウド」のお陰でデータを活用した栽培が可能になりました。日本全国の生産者がデータをうまく活用できれば、よりよい農業が実現すると思います」。
宮崎氏が次に見据える成長戦略が、生産者データと実需者ニーズをつなぐ「流通販売支援サービス」だ。川上から川下までのビッグデータを駆使して農産物の需給状況を的確に予測し、生産から販売までを最適化させるシステムの構築を目指す。
「これまで農業生産を支援するサービスの提供を行なってきましたが、今後、流通・販売の支援も行い、儲かる農業を実現する「農業ITプラットフォーム」として事業を拡大していきたいと考えています。
農業の一番の課題はやはり出口(消費者との関係)の部分です。その中でも、「この野菜がどういうふうに生産されてきたか」ということが消費者に伝わっていないことや、逆に、消費者側から生産者に伝えたいことを伝えることもできないということが問題だと考えています。私たちがそこを繋げるような農業向けの情報プラットフォームを作り、ものの流通と情報の流通がセットになって動くような流れをつくっていき、農業界をより良くしていきたいと思っています」。
生産支援サービスを通じて蓄積された農業ビッグデータを活用したトレーサビリティの実現や、生産者ネットワークによる安定供給、さらには生産者と実需者のデータマッチングによる収益性の高い流通・販売支援など、農業ITプラットフォーム構築に向けた取り組みを進める。
セラクがデザインする一次産業の未来。新たなソリューションやサービスに期待が膨らむ。
1980年、株式会社マーク入社。
1981年、米国クイーンズ大学留学。1984年、株式会社マーク復職。1987年、株式会社セラク設立、代表取締役(現任)。
年 商:152億円
従業員数:2,880名
株式会社セラクHP: https://www.seraku.co.jp/