ENGLISH

CLOSE

TOP > トップランナー紹介 > 鹿児島堀口製茶 堀口大輔氏

トップランナー紹介

鹿児島堀口製茶 堀口大輔氏

Update : 2022.10.01

農業支援プラットフォームで地方・地域社会の課題を解決

1948年創業。鹿児島県・志布志市で3代続く堀口製茶。現在、自社と契約農家を合わせた合計300haという広大な茶園で化学農薬だけに頼らないIPM栽培を実践。さらに、お茶製品の製造・加工から販売までを手掛け、近年は、健康志向や簡便性などの価値を加えた新たな商品の開発にも力を注ぐ。持続可能な農業を実践する若きトップランナー堀口大輔氏に、これまでの軌跡と今後の展望を聞いた。

ターニングポイント
化学農薬だけに頼らない栽培方法の確立

堀口製茶が取り組むIPM「総合的病害虫・雑草管理」とは、様々な防除手段を組み合わせることにより、病害虫や雑草の発生を経済的被害以下に抑える概念。農薬を使用しないのではなく、農薬の使用を最適化することで、人や環境へのリスクを最小限に抑える栽培管理のことである。
それまで慣行栽培が当たり前だった2000年代から導入を開始。 “良いお茶は、健康的な環境から生まれる”という信念のもと、お茶の有機化へのチャレンジが始まった。

「害虫や雑草は農業を生業とされている方には常に悩みの種です。基準をクリアしている農薬を使えばコスト的にも人的にも効率的ですが、“それをしない”という前提が私たちの栽培方法です。SDGsが叫ばれる最近は、目指すべき農業になりつつありますが、始めた当初は、本当に苦労の連続でした」と語る堀口氏。

右写真:代表取締役副社長 堀口大輔氏

脱・化学農薬の第一歩として、水や風圧で病害虫を吹き落とす「ハリケーンキング」、米ぬかを散布しカイガラムシの産卵を阻止する「ブランジェット」、雑草駆除には270~300度の蒸気を発生させる蒸気除草機「スチームバスター.SL」など、独自の発想で開発したマシンを次々と導入。5台のオリジナルマシン「茶畑戦隊 茶レンジャー」を活用し、化学農薬の低減と機械化による省力化を実現した。
また、化学肥料の低減にも取り組んでおり、日々変化する土壌を定期的に分析。その結果に応じた施肥設計を行い、肥料の使用量は必要最小限に抑える。この取り組みに加え、利用する肥料は基本的に有機肥料で、自社加工工場からでる茶殻を堆肥として活用。今後は、地域の他の農業で出る野菜カスや畜産糞尿を堆肥化させる『循環型農業』にも挑戦中だ。

「極端に言えば、畑に牛乳を散布しても、農薬に該当してしまいます。私たちが取り組んでいる有機は、とても難しい概念ですよね?“品質の売り”として、どう消費者に伝えるのかが大きな課題でした。」

オリジナルマシン「茶畑戦隊 茶レンジャー」

堀口製茶流・ビジネスモデル
“世界が認める”高品質な日本茶

堀口製茶が有機という観点で品質の向上を進めていた当時、日本では「急須離れ」を背景にお茶の消費低迷が顕在化。主力製品である「一番茶」が売れないという最大のピンチを迎えた。

「お茶が飲まれないという訳ではなく、ペットボトルの普及によって急須で淹れるお茶の需要が急激に減りました。さらに、飲み物の種類も多種多様に増え、水を買って飲む時代に。品質もさることながら、飲んでもらうためのビジネスモデルが必要でした。」

日本での需要が低迷するなか、「抹茶ブーム」の到来で世界的な市場での需要が急増。そもそも、抹茶の原料となる「碾茶」は加工工程の違いだけで、使用する茶葉は同じ。さらに、海外輸出の障壁だった残留農薬の輸出先国の基準をクリアし、製造工場では食品安全マネジメントシステムの国際基準を取得。堀口製茶は一気に海外マーケットへ進出し、世界の土俵で戦える品質向上へ舵を切った。

左写真:製造工場ではFSSC22000を取得 右写真:海外向け抹茶商品

碾茶工場『TeaPOLE』を増設

2017年には『TeaPOLE』を操業させ碾茶を増産、同時に抹茶商品も開発し、海外販売事業も開始した。次第に海外での日本茶の知名度が向上し、販路は拡大していった。外国人へのマーケティングを通じて堀口氏は様々な気づきがあったと語る。

「外国で日本茶を販売するためには、まず急須がないと、そもそもお茶は淹れられませんよね?であれば、急須がなくても飲める商品が必要です。それは日本でも同じだったのです」

碾茶工場『TeaPOLE』

堀口製茶流・成長戦略
日本茶の魅力を発信する

高品質を具体化した商品『TEAET』や『カクホリ』

品質追求と並行し、出口戦略としての販売方法を模索。そこで、生まれたのが「健康・簡便性・寛ぎ」という新たな価値を付けた『TEAET』(“ティーエット”、TEAとDIETからの造語。「お茶x健康」を表す。)。まず、手に取ってもらえるための仕掛けとして、パッケージのデザインをオシャレにしたところ、アンテナショップや企業の贈答品として注目され需要が高まった。加えて、急須なしでも飲めるパウダーや個包装ティーバッグという簡便性、柚子やローズといったフレーバーを取り揃え、年代性別問わずニーズをカバーした商品を開発した。

『TEAET』

上写真: 『カクホリ』
下写真: 博覧会などへの出品

『TEAET』の発売を皮切りに、日本はもちろん海外でも日本茶の魅力が浸透。次第に、急須で淹れるお茶の需要が喚起されていった。
そんな中、満を持して発売したのが『カクホリ』。鹿児島を代表する茶の品種や鹿児島茶の特徴である「深蒸し製法」などを組み合わせた商品は、フランス・パリで開催される日本茶のコンクール『Japanese Tea Selection Paris』やイギリスで開催される食品の国際コンテストでその美味しさが認められた。さらに、堀口製茶では自然資源や生物多様性の保護など、包括的な持続可能な農業基準を満たした『レインフォレスト・アライアンス認証』も取得した。

「お茶は健康に良いというイメージはありますが、これまで具体的なものはありませんでした。それを具体化するために、栽培方法や製造過程に対する私たちのコンセプトを、第三者に認証してもらう。さらに、美味しいという基準についても、世界のコンテストに出品して品評してもらいました。」と一連の取り組みを語る。

「私たちが提供したいのは日本茶を飲んだ時に“ホッとする時間”です。忙しい毎日で、少しでもリラックスしてもらえるならば、私たちの取り組みは間違っていないのではないでしょうか」

左写真:『カクホリ』 右写真:海外コンクールでの受賞と認証取得

茶畑から生まれる
楽しい事の可能性は無限大

日本茶の需要が低迷する厳しい時代。市場開拓や新商品の開発といったアプローチで茶業の裾野を広げてきた堀口製茶。未来へ向けた持続可能な農業を目指すため、今よりもさらに事業拡大を目指すという。

「有機栽培の面積が増えたから“良かった”ではなく、今後は自社と契約農家さんのさらなる連携強化を図る必要があります。スマート化やデジタル技術を活用しながら生産者同士が“志”を共有する。そうすることで、システムや栽培方法そして製品までを標準化するフードチェーンの構築を目指します。」

有機のお茶づくりを未来の成長産業に。若きトップランナーのチャレンジは始まったばかりだ。

堀口大輔氏プロフィール

1982年鹿児島県志布志市生まれ。明治大学経営学部卒業後、株式会社伊藤園入社。2010年 鹿児島堀口製茶 / 和香園入社。2018年7月 鹿児島堀口製茶有限会社 代表取締役副社長就任、株式会社和香園 代表取締役社長就任。スマート農業とIPM栽培を組み合わせたスマートIPMを提案。「遊び心」「農業にエンターテイメントを」をモットーに、地元創生アグリプレナーとして地元活性化にも力を入れている。

「鹿児島堀口製茶」データ

年  商:18億9千万円
従業員数:83名
鹿児島堀口製茶有限会社HP: https://www.horiguchiseicha.com/