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トップランナー紹介

大野ファーム 大野泰裕氏

Update : 2023.1.18

健康がキーワードの肉牛生産 循環型農業で健康な土・牛・人づくりを目指す

牛の飼育頭数4,000頭、畑作と飼料作物栽培では140haと大規模農場を経営する大野泰裕氏。生産する牛肉と作物へのこだわりは「食べた人の健康」。そのために土づくりから一切の妥協をせず、科学分析に基づいた施肥設計を行い、肥料には牛の糞からつくる有機堆肥を活用。環境負荷を低減しながら、資源を循環させる農業を行っている。さらに、6次化にも取り組み、牛肉の加工販売や、育てた牛肉や地物野菜が味わえるレストラン「COWCOW Village」を経営。最近では「バイオガス事業」を新たに開始するなど、農業の枠を超えた様々な領域に挑戦している。

ターニングポイント
『牛肉の輸入自由化』による経営危機

1986年に実家で就農した大野氏。当時は肥育牛30頭に畑作50haほどの経営規模だったが「自分の力で経営を大きくしたい」と、1989年に畜産を勉強するためオーストラリアへ渡航。
本場で得た経験を活かし、肥育牛に力を入れ始めた矢先の1991年、日本とアメリカの間で牛肉・オレンジの輸入の自由化(輸入枠撤廃)が始まり、肉牛の市場価格が暴落し、経営危機に直面した。

オーストラリア実習時代

「当時、牛肉の値段が安くなってしまい、畜産をやめようと思いました。畑作経営だけでも家族経営でやっていくのであれば何の問題もなかったので。しかし、その時すでに150頭は牛を飼っていましたし、畑作よりも肉牛をやるほうが自分は好きだったので、非常に厳しい状況ではありましたが、続けると決意しました。いま考えると、どうして?と思いますが、厳しい事がわかっていたから、やりたかったのかもしれません。」と大野氏は語る。

一大決心で経営規模の拡大を決意。4代目に就任した1996年頃には飼育頭数は300頭ほどにまで増えていた。しかしこの頃は、輸入の自由化加え、円高不況も相まって農家にとっては逆風の時代。
周囲では「畑作は畑作、牛は牛」といった専業化が進み、複合経営をやめる農家が続出するなか、大野氏は畜産と畑作を堅持。それは代々受け継いできた「畑を耕しながら牛を飼い、糞を堆肥化して畑にまく」という循環型農業のスタイルに新しいビジネスモデルのヒントがあったからだ。

大野ファーム流・ビジネスモデル
循環型農業で健康な土・牛・人づくり

大野氏が理想とする土づくりの基礎を築いたのが、オーストラリア実習で出会った農学博士のエリック川辺さん。オーストラリアやニュージーランドをはじめ、世界で活躍する農業コンサルタントである川辺さんは、科学的な土壌分析に基づき、土のミネラルバランスを整え、土壌生態系の改善を図る指導を行っている。

これまでにない手法に衝撃を受けた大野氏は、川辺さんの研究機関と連携を取りながら土壌を改良。培ってきた循環型農業に「健康」という要素を取り入れ、土づくりから牛や人が健康になる好循環を実現した。

科学的な土壌分析に基づいた肥育設計

「健康な農畜産物が、食べた人の健康につながると考えています。食物連鎖で考えれば、全ての食べ物の始まりは土です。つまり、健康な土をつくり、健康な作物を育てることで、飼料を食べた牛も健康になる。誰もが出来そうな事ですが、実践するのはすごく難しいです。」

美味しさと安全・安心を消費者に約束する

土にこだわった牧草や麦わらの自給以外にも、健康な牛づくりの取り組みとして、配合飼料についてもNON-GMO(非遺伝子組み換え)、PHF(収穫後の農薬不使用)のみを使用し、ミルクから出荷までの飼料に、成長を促進させる抗生物質も与えない(モネンシンフリー)。これらの生産履歴は同社ホームページで公開しトレーサビリティを確保。安全性を徹底することが、消費者の安心につながっている。

飼料となる藁と混合飼料

「就農当時から、安全・安心を意識していましたが、特に重要だと感じたのが2001年に起きた国内初のBSE(狂牛病)でした。これを機に牛肉の消費はガクッと落ちました。加えて、食肉偽装事件があり牛肉業界の信頼が地に落ちました。このままの経営では消費からの信頼は回復できない。そこで、安全な生産だという事をしっかりと発信して、消費者の方々にきちんと理解してもらい、信頼を取り戻すために、牛づくりに力を注ぎました。」

HP上で情報を公開

現在、黒毛和種・和牛一代交雑種(F1)・乳用種のオスの3品種を肥育している。それぞれに特徴はあるが、味の決め手となるのはやはりエサだという。安全にこだわりながらも、獣臭さが少なく上質な脂になるよう、配合飼料は独自の改良を研究しながら美味しさも追及。「未来めむろ牛」「未来とかち牛」というブランド牛として全国で販売されている。

左写真:和牛種 右写真:ホルスタイン種

大野ファーム流・成長戦略
新たな価値を生み出すアップサイクル

健康を柱とした循環型のモデルを確立したことが、後の経営拡大につながっていく。飼育牛の頭数を増やしていくのと並行して、畑作部門を強化。飼料用のデントコーンや牧草に加え、テンサイや麦、大豆なども生産。健康という付加価値を、幅広いかたちで消費者に届けている。

てんさい

作物の一部はケーキやパンとして同社併設のレストラン「COWCOW Village」などで提供。そのほか、牛肉の加工としてハンバーグ、カレー、シチューなども楽しめる。

※これらの加工食品はオンラインショップでも購入可能。

COWCOW Village

6次化の新領域「再生可能エネルギー」

畜産の規模拡大によって、現在は4,000頭も飼育されている牛。牛舎から出る大量の糞尿を有機堆肥以外で活用できないか?という考えから「バイオガス事業」を新たに開始。糞尿が発酵する過程で発生するメタンガスを燃焼させエンジンを動かし、電気と熱のエネルギーを作り出すという仕組みだ。電気は売電され地域で消費、熱は水を温めるエネルギーとして利用する。
エネルギー源となった糞尿は、プラント内での発酵を経て有機堆肥となる。水分を含むものは液体肥料として畑に還元され、固形物は牛の寝床となる敷料となり、この敷料を再び糞尿とともに再び発電に利用するという価値を循環させるアップサイクルの成長戦略だ。

左写真:バイオガスプラント 右写真:プラント内でできた液体肥料は畑に散布

事業の多角化を進め部門ごとの売り上げ10億を目指す

「組織を上手く作ることができれば農業はいくらでも大きくできると思っていて、6次化という中で、一つの部門での売り上げが“10億円”を超えたら、違う部門を開拓するという目安が私の中であります。 そういう面では畜産の中でも肥育部門・哺育育成部門、農産部門や加工部門、もしかしたら乳業部門もやるかもしれない。その辺は組織をうまく作ることができれば、いろいろ展開していきたいと思っています。」

常に前へ!既成概念にとらわれない大野氏の挑戦が農業の可能性を広げていく。

大野泰裕氏プロフィール

1964年北海道芽室町生まれ。1986年両親が経営する農場に就農、経営を法人化し有限会社大野ファームを設立(2007年株式会社大野ファームに組織変更)。1989年オーストラリア肉牛牧場の実習先で、Drエリック川辺氏と出会い仲間5人と川辺氏の土づくりコンサルを受けてSRUを立ち上げる。1995年大野ファーム代表に就任。本格的に肉牛経営に乗り出す。2007年畑作・肉牛肥育から新たに株式会社大野キャトルサービスを設立し肉牛の哺育・育成経営を始める。現在食肉の加工販売・カフェレストラン、太陽光発電、バイオガス発電など経営の多角化を進めている。

「大野ファーム」データ

年商:グループ全体売上高 24億円
従業員数:24名
株式会社大野ファームHP: https://oonofarm.jp/