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トップランナー紹介

六星 軽部英俊氏

Update : 2023.11.01

生産現場を守る“お米の6次化” 日本のお米と食文化を世界に発信

時代と共に変化する食文化。多様化が進むにつれ、国内の消費量が減っているものが「お米」だ。さらに、生産農家の高齢化が顕在化し、生産量も減少傾向が止まらない。縮小の一途を辿る米産業だが、魅力ある商品開発を柱に、消費者ニーズを喚起する六次化で成長している企業が石川県・白山市にある。“お米の6次化”に取り組む株式会社 六星のビジネスモデルに迫る。

ターニングポイント
雇用を生み出す農業経営

六星の創業は1977年、地域の若い5人の生産者が集まり設立した「中奥六星生産組合」が前身となっている。当時はレタスと米の生産がメインで、冬場の仕事を確保するため「かきもち」の加工事業を開始。“手作り感”が人気を呼び、商品は大ヒットした。地元スーパーなどへの卸売りを始めたことを機に、6次化モデルの土台を確立。ちょうどその頃(1997年)、現在の代表取締役の軽部英俊氏が入社した。

「私は東京生まれ、東京育ち。縁があって六星に転職した移住者です。文字通り“畑違い”の仕事だったのですが、やるからには全力で取り組みました。」と軽部氏は語る。

上写真:六星本社 下写真:軽部英俊氏

新規雇用から
「つくる力」と「売る力」の両輪を強化

軽部氏が入社した当時、「かきもち」などの商品力はあったものの、販売力が弱かった六星。そこで、大手建材メーカーで営業をしていた経験を活かし、積極的な売り込みで取引先を全国の百貨店などに広げながら、自社の直営店での小売りにも力を注いだ。加えて2007年に会社を引き継いでからは、積極的な人材雇用を開始した。

「社長に就任してからは、地元のみならず、他県からも新しい人材を雇いました。というのも、人が事業を創ると私は考えています。若い人材や、他の業種の経験がある人材など、いろんな人が一緒になることで 会社が成長できると思ったからです。」

これまでの6次化モデルをブラッシュアップするため、農地の管理から食品加工はもちろん、新商品の企画や品質管理、営業・販売の要員を増員。人材の育成を通じた組織づくりを一から行い、“米づくり”以外の部門も強化した。その過程で“消費者が求めるものは何か?”という、マーケットインの発想を重視した商品開発を進め、加工・販売部門を拡大させていった。

左写真:かきもち 右写真:餅工場

素材が良くないとダメ!
妥協しない米づくり

“実りの秋”を迎え、黄金色に色づく田んぼではコンバインが稲刈りの真っ最中。「今年は猛暑でしたが、大きな影響もなく良質なお米が出来ました。」と丹精込めたお米の出来栄えに満足気な軽部氏。地域を潤す豊富な水が強みと話す。六星の耕作面積は現在、177ヘクタール(東京ドーム約30個分強)と広大だが、そのほとんどが周辺の農家300人以上から借り受けた田んぼだ。背景には、高齢化や跡継ぎの問題があるという。

「私達は食品メーカーではなく、農家です。本来であればよいお米をつくることに専念できればよいのですが、地域農業が抱える問題を解決していきたいという信念もあります。お借りしている田んぼで、うるち米ともち米、 そして酒米を生産していますが、この規模の田んぼを守っていくためには、どうしても自分たちで売る必要があります。」と軽部氏は言う。

ビジネスモデル
コメ・コミュニケーションで信頼関係を築く

自社で生産したお米やもち米を原料に、加工食品を製造している六星にとって、トレーサビリティは重要だ。霊峰・白山から注ぐ、豊富な雪解けの水の恵みがあるこの地域で、化学肥料や農薬に頼らない栽培方法にこだわる。なぜなら、このお米をもとに加工・販売するため、素材がいいことが原点になるからだ。

「私達のモットーが“コメ・コミュニケーション”。お米を通じて、お客様とコミュニケーションを図るという思いがあります。すべての商品の元となる“米づくり”には一切妥協はしません。素材が良くないと信頼関係は構築できませんから。」

良質な米づくりもさることながら、相互理解を深めるうえで積極的に情報も発信。新たな販売チャネルとして金沢市内に直営店舗「むつぼしマーケット金沢長坂店」をオープン。ここでは様々なお惣菜を取り揃え、いつもよりご飯が美味しくなる食卓を提案している。

「お米を食べる時はおかずとセットですよね?美味しくご飯を召し上がっていただくキッカケとして、お惣菜の事業を新たに強化しました。その過程で、実際にパック詰めするお惣菜をランチとして販売して、味に納得いただいてから購入していただくことを考えました。」

むつぼしマーケット金沢長坂店

昼どきともなれば賑わう店内。なかでも人気が「6DELIランチ」だ。日替わりのお惣菜が楽しめ、なにより美味しいと大好評。このほか、バリエーションがあった方がお客様は嬉しいという観点から、自社品以外にも和食に中華、イタリアンなど、近隣の飲食店とコラボしたお弁当も販売。もちろん六星のお米が使われており、お米を通じたコミュニケーションで地域を活性化している。

「長年の取り組みのおかげで、お客様との信頼関係は構築できていると私は思っています。それを前提として“六星が紹介するものは間違いないだろう”と食べるキッカケが生まれ、美味しいと好評をいただいています。」

上写真:むつぼしマーケットのお弁当
下写真:6DELIランチ

ターゲットを広げるため“今どきの和菓子”をブランディング

コメ・コミュニケーションを加速させる取り組みとして、「昔ながら」と「今どき」を調和させた和菓子、“豆餅すゞめ”をブランディング。他社の製品と差別化させるためには“手作り感”と“本物の味”が重要なポイントと軽部氏は言う。しかし、和菓子にはどこか古めかしいイメージが伴うので、若い層をターゲットにデザインを一新した。

例えば『塩豆大福』は、従来の“ぼてっとした”ものから、食べやすい小ぶりなサイズにし、噛み応えのあるコシが強いお餅の食感を引き出す仕様に。おはぎは、もち米の粒を感じる“昔ながら”の作りにこだわり、郷愁を誘う味わいだ。六星の魅力を選んでひと箱に詰められる“お福分け”もスタイリッシュなパッケージが贈り物に最適と好評だ。

「作り方は昔ながらで、味は本物です。和菓子は、季節感なども楽しめます。その時々の旬を織り交ぜながら、季節ごとのラインナップも更新しています。素材の味と鮮度感を楽しんでいただきたい。」と軽部氏は語る。

左写真:塩豆大福 右上写真:おはぎ 右下写真:お福分け

成長戦略
日本の食文化を活かしたニーズの開拓

消費者のニーズを捉えながら、進化を続ける「お米の6次化」だが、時代が変化しても『六星の味』だけは普遍だ。

「一般的に販売されているお餅と、我々のお餅の違いは、塩味かどうか。お米本来の甘味を引き立たせるために、この地域では塩を入れます。なぜここに拘るのか。格好よく言うと、我々が地元で食べているものを全国や世界の方々に“お裾分け”するスタンスなのです。自分たちの味付け・文化などを、そのまま提供することが大切です。」

消費者から選ばれるためには「食文化」の付加価値が鍵となると軽部氏は言う。六星が受け継ぎ40年以上守り続けている伝統こそが、今後の成長に欠かせない要素なのだ。

上写真:餅米に塩を入れる
下写真:昔ながらの切り餅

6次化×食文化で海外マーケットに進出

六星ではお米の販路の更なる拡大を進めるため、続く取り組みとして海外マーケットに狙いを定める。販路を海外へと広げるなかで、お餅を食べる習慣のない外国人にどうやってPRすべきか、そこで出した答えが「餅つき」。日本の食文化を発信するコメ・コミュニケーションとして、アメリカ・ロサンゼルスなどで餅つきイベントを開催。
欧米では馴染みのない“お餅”の魅力を広めながら、将来的には和菓子といったスイーツの販売を視野に入れている。中国などアジアへ向けては、“お雑煮のセット”や海苔とお惣菜をセットにした“おむすび”として日本食の文化を発信したいと語る。そのためには、本来は自社単独ではなく地域や業種の枠を超えたオールジャパンとして海外マーケットへ挑む必要があると、大きな方針は明確だ。

海外での餅つきイベント

「地域の田んぼは我々が請け負っていますし、他のエリアの農家とも連携が進んでいます。この先、単位でいえば石川県の農業を引っ張っていきたい。僕は移住者なので地域に貢献したい思いは強く、爪痕ではないが、なにか軌跡を残したいと思っています。」

生産現場を守るための“六星の6次化”は、この先も、日本のお米と食文化を支えていく!

軽部英俊氏プロフィール

1967年、東京都町田市生まれ。中央大学法学部を卒業後、トーヨーサッシ(株) (現(株) LIXIL )に入社。主に営業担当として約7年勤務した後の97年、家族とともに石川県へ移住するのに合わせ有限会社六星生産組合へ入社して就農。前職での経験を生かし、経営の近代化や農産物の販路拡大に奔走する。2007年、株式会社六星への移行のタイミングより現職。2019年より白山商工会議所 副会頭。

「株式会社六星」データ

売上高:13.5 億円
従業員数:121名
株式会社六星HP: https://www.rokusei.net/