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トップランナー紹介

さかうえ 坂上隆氏

Update : 2024.1.31

農業を通じた社会課題の解決 地域資源を活用した新たな循環モデル

日本の農業界は高齢化や後継者不足の課題に直面しており、これは生産力の低下だけでなく、管理できない農地である「耕作放棄地」の増加にも影響を与えている。さらに、産業としての成長力が低下し、若者の農業キャリア選択や新しい技術の導入が妨げられる悪循環も生まれている。これらの課題を克服するために、地域全体で農業の持続可能性を追求するトップランナー「株式会社さかうえ」の活動に迫る。

ターニングポイント
『継続的に発展できる強い組織づくり』

会社を率いる坂上隆氏は、「経営感覚」をキーワードに据え、これまで農業の見える化など、生産現場の改革を推進。特に、若者が主体的に考えながら農業技術やマネジメント力を向上させられる組織づくりに力を注いできた。その結果、2019年に約50人だった従業員(パート・アルバイト含む)は3倍近くまで増加し、売り上げも5億円から13億円と、大きな成長を遂げた。

“さかうえ”が経営規模を拡大する一方で、高齢化や後継者不足によって周辺地域の現状は年々悪化。廃業を選択する農家から「農地を引き受けてくれないか」といった依頼も増えた。衰退していく地域産業を目の当たりに、個別農家を支援するだけでは太刀打ちできない。組織として、さらに強くなる必要があると痛感した。

「つくってから売る」のではなく
「販売してからつくる」

「3~4年前から夏場のピーマンもあわせた、周年供給をして欲しいと要望がありました。それまでは11月~6月(秋から春)にかけての栽培でしたが、夏場の供給となると、圃場の一部を冬春作から夏秋作に切り替える必要がある。そこで、冬春作の一部で2月頃に栽培を中断し、夏場のピーマン生産を開始しました。本来であれば6月まで収益が出る部分を落とすという大胆な切り替えを行いました。」

営業部・部長の中川さんは、“年間を通じて色のいいピーマンを販売したい” というバイヤーの要望に応えるべく、品種の選定にも注力。これまで一般的に鹿児島県で栽培されていた品種から、果色が濃くツヤがあり、サイズも大きい『みおぎグリーン』に全量切り替えを実施したと話す。一般的なピーマンとの差別化を図り、好評を博し販路を拡大することに成功した。

左写真:中川昌聡営業部長 右写真:みおぎグリーン

さかうえ流『一割モデル』

「日本はオーバーストアと言われています。卸先のスーパーも激戦を繰り広げるなかで、どうやったらお客さんに喜ばれるか。例えばピーマンを例にとっても、品質が今日買って“良かった”が明日買ったら“あまり良くなかった”が起こる。それは、仕入れ先の農家が多ければ品質が均一にならないからです。であれば、高品質なピーマンを大規模生産して、安定供給することによって、消費者もスーパーも喜ぶ。そういった事業展開が必要です。

坂上隆氏

我々は、施設のピーマン・ナス・キュウリに関して市場の一割を供給する『一割モデル』を掲げています。ピーマンでは、全国で1.5%まできている。残り8.5%の達成に向けて今後は取り組みを加速させていきます。」と坂上氏は語る。

事業強化による成長戦略
相乗効果の高い有機物循環

組織戦略の強化と同時に、事業戦略もアップグレードした。“さかうえ”では、連作障害の対策と、使用していない畑を活かす目的で、飼料としてデントコーンを栽培。これらを地域の畜産農家に供給する一方で、畜産農家から処理に困っている牛糞を堆肥として受け取り、自社農場で有機肥料として有効活用する有機物循環モデルを実践してきた。この取り組みの中で、近年になって近隣農家からの農地提供の要望が増加しており、それに応える形で自社でも畜産を開始し、中山間地域を有効に活用する『里山牛プロジェクト』を立ち上げた。

デントコーンを飼料に

「農地の保全という意味では利用率が上がります。大きい機械が入れない・日当たりが悪い農地は、だんだんと耕作放棄地になってしまいます。そういったところを有効活用するために、牛を放牧するといった畜産と組み合わせた新しい循環モデルに取り組んでいます。」

増え続ける休耕地を放っておけば、耕作放棄地になってしまう。この農業課題に対処するため、農業と畜産を組み合わせ、持続可能性を追求。立地や面積、日当たりなどの条件が悪い農地において、牛を放牧することで、雑草は餌となり糞尿はそのまま堆肥として土に還る。人が管理することによって鳥獣害も減り、畑としての機能を回復させながら中山間地の保全を実現した。

また、放牧は「アニマルウェルフェア」(牛の育つ環境と身体的及び心的状態)の考え方にも合致した生産方式だ。さらに坂上氏は、中山間地の農地を守っていくことは、昨今起きている飼料価格高騰への対策にもなるという。

坂上氏はこう語る。 「牧草のモデルはもう20年以上前からやっているのですが、去年初めて、その在庫が切れてしまいました。そういう意味で野菜のニーズが落ちた際には牧草をつくって、利用率を上げることもできます。農地を守ることは里山の風景、ひいては地域の資源を守ることにも繋がります。」

休耕地に牛を放牧

里山牛の循環モデル

安全・安心の“里山牛“

“里山牛“は、放牧と粗飼料による育成により、風味が豊かで柔らかい赤身と適度な脂身が特徴。健康志向の消費者から注目を集めている。また、地域の資源を有効に活用しながら、飼料から全て自社の循環モデルで生産されているため、美味しさと安全性を両立している。

“里山牛“製品

新たな事業戦略『流通改革』

事業戦略はこれだけにとどまらず、隣接する熊本県や宮崎県で生産された野菜の流通も開始。生産農家と『GAP認証』の取得など基準を揃え、同社の集出荷、パッキング機能を整備・拡充し、周辺農家との連携関係を深める。顧客ニーズに応じたパッキング等を行い、さかうえブランドとして市場へ供給。南九州産の野菜の安定供給を強化するとともに、各地域の生産力の強化を図る。

「現状はピーマンしか運べず、トラックの荷台に空きがあるならば地元の野菜や果物を一緒に販売する、一人でも買う人が増えれば地元野菜の価格が上がるので、それが一番の貢献になります。」と坂上氏は語る。

左上:集荷した野菜をパッキング 右上:さかうえブランドのパッケージ
左下:顧客ニーズに応じてパッキング 右下:荷台を最大限に活用

農業ビジネスで地域を発展させることを目指して

農業の持続可能性として、この先に見据えるビジョンの一つが農業事業と畜産事業モデルを基盤とした農業版シリコンバレー“アグリバレー” だ。 この“アグリバレー”では、その役割を「農業を中核に人材が集い、気候風土を含む地域資源を最大限に活用することで、イノベーションが自発的に起こり、付加価値が連続的に発生。拡大するビジネスの舞台装置」と定義している(https://sakaue-farm.co.jp/agri-valley/) 。

具体的には、農業を志す若者の参入を支援するために大学や他の企業などとも連携を図り、IoTなどの先端技術の導入や、利益の出るビジネスモデルを通じた人材育成を強化していくことで、全国で増え続ける過疎地、中山間地域、ひいては日本農業全体の活性化を目指す。まずは志布志でモデル(成功例)を作り、全国への波及が目標だ。

様々な取り組みで『成功モデル』を作っていく

 「ピーマンをつくれば上手くいく、一緒にやりませんか?といったように、ナスや“里山牛”でも“成功モデル”をどんどんつくり、農業をしたい人を引き込む。あるいは農業ビジネスをしたい人と繋がることができると思う。それが総じて“アグリバレー “ 、多くの人が農業に興味を持ち、農業をキーワードにビジネスをする人を増やしていきたい。」

鹿児島県・志布志から“アグリバレー“として日本の食料生産ビジネスの仕組みを形づくる。坂上氏が次世代へつなぐ農業のバトンが日本の未来を明るく照らす。

坂上隆氏プロフィール

1968年、鹿児島県志布志市生まれ。私立鹿児島実業高、国際武道大学を経て24歳で実家の農業経営に携わる。1995年、有限会社坂上芝園を設立し専務に。2009年に有限会社さかうえの代表取締役に就任。株式会社化してからも引き続き代表取締役を務める。2009年に農業経営者A-1グランプリ大賞を受賞。2012年 九州大学大学院修士課程卒業。2018年九州大学大学院博士課程単位取得退学。2022年「里山牛プロジェクト」で「Sustainable Japan Award 優秀賞」受賞。

「株式会社さかうえ」データ

年商:13億円
従業員数:130名(パート・アルバイト含む)
株式会社さかうえHP: https://www.sakaue-farm.co.jp