Update : 2024.10.10
1958年、地域密着型の「主婦の店」として創業したバローホールディングス。食品の小分け売りという、当時としては画期的なサービスをいち早く導入し、顧客のニーズに応えながら成長を続けてきた。現在では東海地方を中心に1,365店舗を展開し、食品スーパーチェーンとして確固たる地位を築いている。
今後の成長戦略のキーワードは「繋ぐ」。このビジョンが農業分野にどのような発展をもたらすのかを探る。
価格、品揃え、アクセスなど、顧客が店を選ぶ基準は多様化し、スーパー業界の競争は激化の一途を辿る。バローは、創業当初のセルフサービス型スーパーから、ショッピングセンター、物流センター、ドラッグストア、ホームセンターへと事業を拡大。その中で他社に負けない「商品力」を武器に、顧客満足度を高める戦略を推進している。
「我々が一番大事にしたいのは、現場の店舗をどう強くするかということ。そこを“デスティネーション”という言葉を使っているが、これは“目的来店性”を表しており、『バローならいい商品がある』という期待に応えられるお店にしようとしているんです。」
デスティネーション・ストアとは、「そこに行けば必ず欲しいものが見つかる」という期待を抱かせる店のこと。品揃えの豊富さだけでなく、商品の魅力を高め、他店との差別化を図ることが重要だと小池社長は語る。
バローは特に、生鮮食品の強化に注力する上で、「原価を安くするモデルは限界に来ている」と従来の大量仕入れによる低価格戦略から、製造から物流、販売までを一貫して行う「製造小売業」で、商品や店舗の魅力を高める戦略へとビジネスモデルを転換した。
「岐阜でスーパーを始めた頃は、名古屋の市場から商品を持ってきてもらえませんでした。鮮度の良い商品や野菜を仕入れるために物流が必要になり、自分たちで物流を担うことで、コスト削減だけでなく、新たな利益を生み出す仕組みをつくることができるようになりました。そして、そこで得た収益をグループ内でちりばめることができるようになってきました。」と小池社長は語る。
内製化により、中間コストを削減し、リーズナブルな価格を実現。さらに、物流センターに製造・加工機能を統合した「可児総合物流センター」を稼働させ、効率的なサプライチェーンの構築を実現した。これにより各店舗のバックヤードでカットやパック詰めを行うインストア加工に比べ、人員配置や生産量の面でもいろいろなメリットを生むことができた。
「商品を自分たちの欲しいサイズで作れるようになりました。例えば、田舎の方には小分けの商品、大家族にはお得な大容量パックなど。いろいろな選択肢を増やすことも、効率を上げながらできています。」
生鮮加工を内製化する最大のメリットは、品質の向上。熟練スタッフによる検品やカットで、品質のバラつきをなくすとともに、食品ロスも削減。さらに、地域ごとのニーズに合わせた魅力的なパッケージ提供も可能となった。
コールドチェーンとは、温度管理が必要な商品を生産から消費までの全過程で、途切れることなく低温かつ最適な温度を保ち続けることで、鮮度が命の食品物流においてはなくてはならないシステムだ。
「青果PCでは生産者から届いた商品は、葉物、リンゴなど、食材に最適な3つの温度帯で徹底管理しています。加工も温度管理されたセンター内で行い、ヒートショックを防ぎます。商品が店舗に並ぶまで、常に安定した温度管理を徹底することで、鮮度と品質を保っています。」と語る小池社長。
可児総合物流センターは常温、冷蔵、冷凍の3つの温度帯で食品を適切に保管・輸送することで、商品が店舗に並ぶまで、とれたてのおいしさをキープしている。これが、顧客の「欲しい」に応える商品力に繋がっている。
デスティネーション・ストア戦略をさらに進化させ、来店経験のない顧客にもアプローチするため、新しい驚きや感動を提供する売り場作りに注力している。
「頭から尻尾まで見える魚屋」というコンセプトの通り、丸ごとの魚を扱うことで、鮮度の良さをアピール。顧客に魚を選ぶ楽しさとともに、安心感も提供している。また、対面販売や無料の魚捌きサービスによってコミュニケーションも深まり、顧客満足度向上にも繋がっているという。
一方、フラワーショップは、徹底した温度管理と丁寧な加工・ラッピングにより、花の美しさを最大限に引き出し、長く楽しめる。季節の花々が彩る華やかな空間は、日常に彩りを添え、心豊かなひとときを提供。買い物ついでに気軽に立ち寄れる便利な立地も魅力の一つだ。
「魚を合理化しようとすると、旬とは異なる商品ばかりになってしまう。サーモンやマグロにイカなど、いつも同じ商品が並ぶようになる。魚の本当の魅力はそこではない。このエリアで取れる魚が『この時期に美味しい』『一味違う』、これが我々にとって必要な武器になってくると思っています。
花もプロセスセンターでコーディネートし、鮮度管理をすることで、品質が良いと評価されています。これもまた武器となる。差別化できる商品を作っていくことが、今後の課題です。」と小池社長は言う。
バローは、食品リサイクルループや物流の効率化など、社会との繋がりも重視している。フルーツの加工過程で出る残渣を加工して牛の飼料として活用し、地域の酪農家を支援。育った牛から得られる牛乳を販売する食品リサイクルループにも取り組んでいる。
「SDGsは、ビジネスの流れに沿って取り組まなければ長続きしません。地域の農家と連携し、持続可能性を高めることが重要です。」と小池社長は話す。
人手不足などの課題解決に向けて、新しい技術の活用も積極的に進めている。シャトル&サーバ・パレット自動倉庫やオリコン自動段積機の導入は、物流センターを自動化する画期的なシステム。仕分け作業に割かれていた人員を、他の作業へ配置転換することが可能になり、人員の最適化が実現した。
小池社長は、農業との連携強化が今後の鍵だと語る。従来の縦割りだった流通拠点間に横串を通す新たな発想として、農作物の納品に現在使用している段ボールをオリコンなどに置き換えることや、輸送時のトラックの積載効率の改善に向けて、生産現場と出荷状況を密に共有するなど、流通の中間コストや無駄を削減することで、生産性向上だけでなく、新たな価値やサービスの創出を目指している。
「生産者の皆さんとさらに連携を深めていく。例えば、今考えているのは、『明日は何個必要かわからない発注』ではなく、『バローは約束通りの量を定期的に買う』ので、物流を一番安くするために一緒に研究する。そのための人員シフトも調整できるようになると良いと思います。
今の流通の効率が悪い理由は、お互いのことを知らないだけ。もっと会話をして互いに困っていることを持ち寄れば知恵が出てくる。これからは農産のバイヤーも含めて取り組むべき課題だと思っています。」と小池社長は語る。
スーパーマーケットと農業現場が連携し、双方にとってメリットのあるWin-Winの関係を構築しながら新たな価値を創造する。バローホールディングスが、未来へ向けた持続可能な生産の架け橋となる。
名古屋大学文学部卒業後、95年4月、バロー(現バローHD)入社。社長室長、物流部長などを経て、2018年4月、中部興産代表取締役社長(現任)。19年1月バローHD IT戦略室長兼情報システム部長、同年6月取締役(現任)。20年4月流通技術本部長(現任)兼システム部長、22年8月社長代行に就任、23年6月社長に就任(現任)。同年8月(株)バローフィナンシャルサービス代表取締役社長(現任)、ルビット事業部長(現任)。
年商:約8,077億円 1,365店舗
従業員数:正社員約9,518名、パート20,175名
株式会社バローホールディングスHP: https://valorholdings.co.jp/