牛肉や小麦、ワインのみならず、青果類の生産・輸出でも成長著しいオーストラリア。その現場を、日本のバイヤーや研究者が訪れ、関係者と知見を交換する機会が生まれた。2024年10月に実施された「日豪園芸産業代表者交流プログラム」だ。
日本からの代表団は、豪州の東部3州を訪問。ブドウやブルーベリー、レタスやブロッコリー、マカダミアナッツなどの生産拠点9か所を視察した。気づきと学びの連続となった交流プログラムについて報告する。
日本の20倍強という広大な国土を持つオーストラリア。その35%を砂漠が占める一方、農地も4億ヘクタールを超え、農業生産は非常に盛んだ。人口が2,600万人と少ない分、豪州の農業は輸出に力を入れており、全産業の輸出総額に占めるシェアは約10%。近年の年間輸出額は900億豪ドル(2024年通年の為替レート変動幅は1豪ドル=94~107円台)前後で推移しており、政府は農産品輸出1,000億ドルを目標に掲げている。
輸出の品目別シェアでは牛肉、小麦、羊毛・羊毛製品、ワイン、乳製品などが上位につけるが、最近大きく伸びているのが青果関連だ。直近2023/24年度(23年7月-24年6月)には果物・野菜・ナッツ・青果加工品の輸出額は過去最高の30億ドル近くに達した。その背景にあるのは、生産面では順調な気候推移や潅漑面積の増加、人手不足の緩和などであり、販売面では自由貿易協定(FTA)の活用や品質・品揃えの向上、輸送・保存技術の改善などだ。
活況にあるオーストラリアの青果・園芸農業ビジネスにとって、日本は果物・野菜・ナッツなどの輸出先国・地域として、中国、香港に次ぐ3位の市場。2024年2月期(23年3月-24年2月)の輸出額は1億5,800万ドルに及ぶ。
このように成長著しい日本への輸出を促進するための取り組みの一環として2024年10月に行なわれたのが、「日豪園芸産業代表者交流プログラム」だ。主導したのは、オーストラリアの野菜生産者団体であるオースベジ(AUSVEG)、園芸農業生産の研究・開発を担うNPO、ホート・イノベーション(Horticulture Innovation Australia)、そして果物などの生産・供給事業者であるオーストラリア生鮮食品同盟(AFPA)などで、さらに豪農林水産省が支援した。
交流プログラムは10月7-11日の5日の日程で開催され、青果などの輸入を手がける日本企業6社のバイヤー、ALIC農畜産業振興機構の研究者、そして日本食農連携機構の担当役員が現地を訪れ、生産者や企業経営者、業界団体・政府当局のトップらと知見を交換した。
日程の中核となったのは、果実や野菜、ナッツが栽培される圃場など9か所の視察。さらに最終日には、豪州と日本のそれぞれの取り組みを紹介しあう「日豪ナレッジ・エクスチェンジ・フォーラム」が開かれた。プログラム全体での訪問先はメルボルン、ブリスベン、シドニーの周辺に拡がり、ビクトリア、クイーンズランド、ニューサウスウェールズの東部3州にわたった。
以下、主な視察先についてポイントを紹介していこう(地名は訪問した事業拠点の所在地)。
メルボルン近郊のビクトリア州ウェロビーで60年前に創業したフレッシュ・セレクトは、レタスやキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツなどの生産でオーストラリア最大級となる企業だ。現在ではクイーンズランド、サウスオーストラリア、タスマニアの3州にも圃場を運営しており、洪水や旱魃などの気象災害が増える昨今、この広域展開がリスク分散の効果を上げている。
出荷先は国内の大手スーパー(業界2位のコールズ)向けと青果市場向けが主で、輸出は現在のところシンガポール向けのみ。だが、自社とホート・イノベーション、豪国立科学研究機関(CSIRO)の3者合弁で設立した子会社が規格外野菜の商品化にも乗り出していることから、今回の交流プログラムでは、この子会社、ニュートリV(NutriV)を視察した。
フレッシュ・セレクトの野菜は、生産量の20-30%が規格外として廃棄処分されてきたが、ニュートリVはその全量を乾燥粉末化し、野菜パウダーを生産。現在は年間1,200トンの規格外野菜を処理して集荷し、高齢者施設での流動食や学校での給食などで用いられている。
メルボルン東郊のビクトリア州ナラ・ワーレンに本拠を置くモンタギュー・ファームズは、75年以上にわたってリンゴや洋ナシ、ストーンフルーツ(核果。スモモ、ネクタリンなど)を生産。リンゴで国内8%のシェアを持つほか、飲食(果樹園レストラン)、物販、観光(リンゴ狩り)などの事業も展開している。栽培事業では労働コストの高さが大きな経営課題となっており、2021年、最新円の洗浄・選果機を導入した。
国内の集荷先は量販チェーン大手(業界1・2位のウールワースやコールズ、米系コストコなど)が中心。輸出は45年ほど前からリンゴとストーンフルーツで行なっており、主な輸出先は中国。2022年には上海に現地法人、モンタギュー・ファームズ・チャイナを設立した。
リンゴの消費は菓子との競合などによって国内外ともに減少が続いており、モンタギューでは栽培品種をジャズなど小玉・硬質・酸味系の定番からシナノゴールドやエンディなど大玉・軟質・甘味系の新顔に切り換えつつある。新品種は国内の中国系消費者向けや中国輸出で人気を集める。
日本向け輸出は手がけていない。これは、火傷病やコドリンガ(小型の蛾)の検疫に対応するには40度での燻蒸が必要で、品質が悪化するため(ニュージーランドは2週間かけて行なう低温燻蒸で対応)。台湾以北の国・地域への輸出にはミバエ対策も必要となる。現在、オーストラリアから日本に輸出されるリンゴはタスマニア州産に限られている。
アイアンバーク・シトラスは、ブリスベンの北西300kmほどに位置するマンダベラで35年にわたりオレンジ系の柑橘類を栽培。計200ヘクタールの圃場でロイヤルハニーマーコット、ハニーマーコット、タンジェリン(デコポン)などを生産する。ブリスベンは温暖で、湿度も南部より高いため、高品質で外皮の薄い柑橘類の栽培に適している。出荷時期は4~9月。
従業員は平常時で100人、ピーク時に195人規模となり、パプアニューギニア、トンガ、ソロモン諸島などの出身者が多い。労働コストが年2-3%ずつ上昇しており、収益を圧迫しているものの、季節労働力の確保を目指して2022年に導入されたワーキングビザ、PALM(太平洋オーストラリア労働力モビリティ)スキームビザを最初に活用したり、200人の従業員を収容できる施設を整備したりと人材確保に力を注ぐ。
輸出は20年以上、手がけており、現在は生産量の9割にあたる8,000トンを、中国、タイ、ベトナム、日本といったアジア諸国の他、中東諸国にも送り出ししている。マーケットごとに異なるニーズにあわせ、産品は3グレード・14カテゴリーに選別する。日本向けの場合、船便はブリスベン発で12日、シドニー発で14日を要する。収穫からパッキング、コンテナの積み込みまでを自ら担うのは、輸出での長期輸送による品質低下のリスクを減らすため。
日本向け輸出では、植物検疫で求められるサンプル量が1コンテナあたり2%と、他国の8倍となっており、負担が大きい。検査の内容も、他国が外観の目視のみなのに対し、日本ではヘタをめくってのチェックがあるなど、ハードルが高いと認識しているという。
スマート・ベリーズは、アイアンバーク・シトラスと同じマンダベラなど東部に加え、西部の西オーストラリア州や南部のタスマニア州、ニュージーランドなどでも、ブルーベリー、ラズベリーなどを栽培。通年出荷を実現しており、年産量は160トン弱で、その97%がオーストラリア向け。輸出は3%で、香港、インドネシア、シンガポールを対象とする。日本は最も輸出したい国なのだが、地中海ミバエ発生の懸念から2011年以降、輸入をストップしているのが残念だという。
ブルーベリーは地植えではなく鉢植えとし、さらにネットをかけることで鳥害を防いでいる。1ヘクタールあたり5,000鉢を置き、1鉢あたりの平均収量は3.5kg。植栽の翌年から7年目まで収穫が可能で、終了のピークは4-5年目だという。
アイアンバークと同様、人材の確保を課題としており、PALMビザを活用。潅漑のメンテナンスに100人、収穫に500人を要する従業員を太平洋島嶼国などから確保している。
1888年創業の果物店を起源とするコスタ(Costa)・グループは園芸農業のオーストラリア最大手で、2015年には国内株式市場への上場を果たしている。アボカド、バナナ、柑橘類、ブドウ、キノコ類、トマトなど幅広く手がけているが、主産品はベリー類。
ベリー事業を手がけるコスタ・ベリーズはニューサウスウェールズ(NSW)、タスマニア、クイーンズランド、西オーストラリアの4州で栽培を展開。視察したNSW州コフズ・ハーバー(ブリスベンから南へ400km弱)の事業拠点では、220haの圃場でブルーベリー(年間3,500トン)、ラズベリー(1,600トン)、ブラックベリー(600トン)を生産しており、このうちブルーベリーの品種は最多で15種に及ぶ。出荷シーズンは7-12月で、手摘みを担うピッカーは最多で600人。
栽培における鉢植えや防鳥ネットの利用などは同業のスマート・ベリーズと同様。栽培や品種開発の技術レベルの高さで知られ、2023年には1粒20.4gという大きなブルーベリーを収穫し、ギネスブックに世界最大のブルーベリーとして登録された。
国内向けの出荷をメインに据えており、輸出はシンガポール向けが中心。今後、中国やインドネシア、モロッコなど、通商アクセスのいい市場への拡大を目指している。日本向け輸出は、2011年以降、地中海ミバエを理由とした禁輸が続いているため、果たせていない。
マンダベラとビクトリア州サンレイシアで食用ブドウを栽培するRNJ。出荷先は国内と海外が半々で、輸出先は韓国(出荷先シェア50%)をトップに、ベトナム、インドネシア、香港、タイ、マレーシア、シンガポール、中国、ニュージーランドなどに拡がっている。
2024年以降、輸入を解禁し、品種制限も緩和している日本については、大きなマーケットになると認識。当面は廉価な品種であるトンプソン(白ブドウ系)やクリムゾン(赤ブドウ系)を中心に対応を進める。ただ、旧来からの品種は新品種への置き換えを進めており、今後は新たな価値を持つ高価格帯品種の輸出を強化していく意向だ。
なお、日本の輸入ブドウ市場では、先行してきたチリとアメリカが優位にある。後発のオーストラリアは、同じ南半球にあるチリとの価格競争にさらされる一方、日本では低価格志向が強まって高価格品需要が細っており、豪州産ブドウは輸出促進に向けて高度な戦略を求められている。
ブリスベンから北に300km離れたクイーンズランド州バンダバーグは、オーストラリア最大のマカダミアナッツ産地。かつてはサトウキビ栽培が盛んだったが、ブラジルとの競合が激しくなったことからマカダミアへの作目転換が進んだ(マカダミアの実は豪州の先住民の間で尊重されてきた食材)。2000年以降、作付面積は5倍に増えて1万7,000haに達し、生産量(殻付き重量)は2万5,000トン、国内シェアは53%となっている。
バンダバーグでのマカダミア栽培が急増した理由は、気候が温暖・湿潤(年間降水量1,000mm)であること、収益性が高いこと、機械化・効率化の効果が高いことなど。潅漑施設が整い、圃場が大区画化(1区画あたり100ha以上)されているなど、サトウキビ産地としてのインフラが流用できたことも大きかった。また、転作にあたっては、専門のコンサルティング企業がハイレベルな技術指導を手がけたという。
マカダミアの実の収穫は苗木の定植から3・4年で可能となり、20年目をピークとして40年目まで可能。視察したマーキンズ・マカダミアは1983年創業で栽培・加工・販売の国内最大手だが、圃場面積が800haに及ぶにもかかわらず、機械化を進めたことから、作業にかかる人手は収穫で15人、選別で4人に抑えられている。
販路は輸出が8割を占め、中国、ベトナム、韓国、日本などに出荷している。国際市場で競合するのは生産量世界1・2位の南アフリカやケニアくらい(豪州は3位)で、マカダミアナッツには希少性もある(ナッツ類に占めるシェアは3%)ため、ビジネスはブルーオーシャン状態。高い収益性が安定して続くため、バンダバーグのマカダミア栽培には他産業や他国からの投資が流れ込んでいるという。
以上、駆け足で日豪園芸産業代表者交流プログラムでの主な視察先における見聞をお伝えした。
日本食農連携機構は在日オーストラリア大使館を特別会員に迎えており、緊密な協力関係を基盤として2023年3月にもビクトリア州メルボルンを軸に豪州視察を実施している。また、2024年3月、2025年3月には豪州からの来日視察をコーディネイトし、同大使館・AFPAのメンバーとともに日豪間で食農ビジネスの展開を目指し、相互理解と信頼関係を深めている。
2度のオーストラリア視察では、豪州が日本の食農産業にとって非常に大きな可能性を持っている国であることがあらためて認識できた。両国は、同じ緯度圏、似た気候圏にありながら、南半球と北半球という緯度圏の違いから季節がほぼ正反対であり、農産品の生産と消費において相互に補完できる立ち位置にある。すでに牛肉や小麦、ワイン、乳製品などにおいて日豪はお互いにとって欠かせない存在となっているが、この関係性が青果などの園芸作物に拡がっていく可能性の非常に高いことが、現地を見ることで感じとれる。
前回の視察での訪問先は、農業事業者のみならず、アグリテックや環境対応、都市農業(植物工場)などに取り組む企業・NPO、青果市場、ワイナリーなど、幅広かった。一方、今回の交流プログラムでは視察先について、エリアを東部3州に拡げながら、業種は生産者に絞った。そこを巡って見えてきたのは、オーストラリアでは、園芸作物においても農業生産が成長産業と見なされ、国内外からの投資を惹きつけていることだ。
そして、成長産業であるオーストラリアの青果生産ビジネスは、日本を有望な市場と見なし、輸出などの取り組みを強化しつつある。それは、輸入する側の日本の食農産業にとってもチャンスだ。また、生産の改善と輸出の強化に取り組む彼らの姿勢と実績は、日本の生産者にとって大いに学ぶべき対象でもある。日本と相互に補完しあうビジネスパートナーとなりうるオーストラリアは引き続き、いや、ますます目が離せない存在である続けることだろう。
(インタビュイー :常務理事 木村 吉弥)
(インタビュアー :ライター 岡田 浩之)
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