今回は、いちごや亜熱帯作物を中心に様々な品目の生産に取り組むいちごポタジェ株式会社(以下、いちごポタジェという。)の田口代表に話を聞いた。当社は宮崎県内に2つの圃場を持ち、いちごやマンゴーのみならず、ライチやバナナ等、多数の品目を生産する農業法人だ。「いちごを生産しているからいちごポタジェ」という社名ではなく、不動産事業を営むいちご株式会社(当社の親会社は(株)宮交シティであり、その親会社がいちご(株)である。商号の「いちご」は「一期一会」に由来。以下、いちご(株)という。)から農業部門として誕生し、後に農業参入した農業法人である。
後述する通り、いちごポタジェは切り口が多く、様々な角度から切り込むことができる。「不動産会社が農業参入」、「県内の食品事業者とコラボレーションしながら農業から食に関わる様々な事業に取り組む」、「食と農だけでなく、観光とも繋がりを作る取り組みを実施する」等、様々な視点から1つ1つ丁寧に田口代表に話を伺い、どのような想いで農業や農業を通じた食へ取り組んでいるか、深掘りしていきたい。

いちごポタジェ株式会社 田口代表
いちごポタジェが誕生したのは、2023年8月。いちごの生産と果樹の生産をしていた2経営体をまとめる形で誕生している。この事実だけを聞くと、突如、いちごポタジェが農業参入したように見えるが、実はそうではないという。いちごポタジェが創業する以前、いちご(株)は、農業支援事業として、2019年に農業参入しており、その事業を引き継ぐ形で、2023年にいちごポタジェが創業しているのだ。
昨今、異業種からの農業参入が多い中、なぜ不動産業をするいちご(株)が農業に参入したのだろうと疑問に思ってしまう。不動産業であれば、一般的には例えば、ショッピングモール等の建物を保有し、その地域にあったテナント事業者を募集したり、建物を管理したり、という業務が主となるからだ。過去には不動産会社が農業に参入した事例もあるが、それは現地の農業法人と合弁会社を作り、本格的に生産するというもので、その地域に生産基盤が無いと大規模に取り組むのは難しい。
では、いちご(株)はどのような農業参入をしたのだろうか。
いちご(株)では農業参入を「農業支援事業」と呼び実施していた。一般的な農業参入とは異なり、農業支援事業では、「不動産業の考え方を農業に当てはめられないか」という考えの基、ビニールハウスの賃貸を実施した。日本の農業再生に志のある若手農家の夢の支援をするため、IoT技術を活用したスマートビニールハウスを(株)宮交シティが建設し、それを生産者が借り、ビニールハウスを使って自由に生産するというものだった。ビニールハウスの賃料は、ハウスが生み出した売上から支払ってもらう形で運営するという。なんとも不動産業らしい農業への参画方法だ。
先述の通り、いちご(株)は農業支援として農業設備の賃貸を実施していたが、事業を実施する中で、2023年8月にいちごポタジェとして農業部門を独立させ、本格的に農産物を生産する側として農業参入した。現在は、9名の正社員と21名のスタッフで常時圃場を管理しているという。2か所に分かれる圃場を取りまとめる本社は、2か所の圃場の中心地でもある宮交シティ(当社の親会社である(株)宮交シティが運営する大型ショッピングセンター)内に構えており、田口代表はじめ、スタッフがどちらの圃場にも向かうことができるような状態にしている。

圃場で生産されるいちご

ライチもパッケージに入れて販売する
宮交シティ内では、「良食市場 みやざきサンクスマーケット」を運営しており、県内外の農産物のほか、自社の圃場内で収穫された農産物も取り扱っている。特に宮崎県内の農産物や商品の取扱いに力を入れており、自社の圃場で穫れた農産物を活用した加工品の開発・販売もする。
取り組みは、消費者への販売にとどまらない。J2リーグのサッカークラブ「テゲバジャーロ宮崎」の選手向けの食堂も運営している。その他、ホーム戦の際にはVIPテラスラウンジの食事提供も実施する等、活動の幅を広げている。田口代表は、「宮崎県はキャンプ地として、多くのスポーツ選手や選手を応援するファンが来県する。自社がスポーツと観光、食を繋げる取組を拡大していきたい。」と語る。2027年には国体が宮崎県で開催されることから、今後、田口代表の取組が推進力を増して、活発な活動となることが期待される。
いちごポタジェは、2つの圃場にて、いちごやバナナ、ライチ、マンゴー、胡椒、カカオ等の多様な農産物を生産する。これでもかなり多品目だが、試験的に生産をしている他の作物もあるそうで、多様さに驚く。特にいちご狩りも実施する圃場での生産では、珍しい品種を含む9品種のいちごを生産し、消費者に食べ比べをして楽しんでもらえるように生産している。いちごは自社店舗やカフェの他、みやざきサンクスマーケット、ホテル等様々な販路を持ち、多くの消費者に楽しんでもらっている。その他、胡椒の生産加工にも取り組んでおり、特にいちごポタジェの胡椒は香りが強く評価が高いという。消費者への販売だけでなく、飲食店でも使ってもらえるように、取組を拡大していきたいと、田口代表は目を輝かせていた。

めぐりペッパー
農園のコンセプトは「地元の物を農園に活かし、農園で生産されたものを県内に活かす」であり、未利用資源を活用したオリジナルの肥料を製造し、2か所の圃場での生産に使っている。肥料は、県内の蕎麦屋で出汁を取る際に使われる鰹節の出汁殻を活用し、こんぶの出汁殻や米糠等を活用し、オリジナルの配合にしている。田口代表は、「日々、美味しい農産物を生産するための素材を探していて、持続可能な取組にしていきたい」と今後も継続していく意欲を示す。実際、蕎麦屋の出汁殻は、宮崎市内の蕎麦屋から提供を受けているものであり、製造が必要なタイミングで出汁殻の供給を受けることができ、蕎麦屋や生産が続く限り、持続的な取組である。
このコンセプトのもと生産された農産物は「めぐり」シリーズとして、循環型農業の取組であることを消費者に伝えており、これまでマンゴーやライチ、胡椒が販売されている。オリジナル肥料の取組はまだ始まったばかりであるが、実際に効果が出ており、生産面では収量の増加、消費者からは味が良くなったと話が届いているようだ。これからのいちごポタジェの循環型農業からも目が離せない。

農園を説明する田口代表
いちごポタジェは、グループ内で農福連携を実施し、飲食事業も手掛ける。
いちごポタジェは農産物の生産だけでなく、その加工にも力を入れており、一部の農作業やヘタ切り等の加工作業については、いちごグループで働く、障がいを持つ社員に担ってもらっている。

いちご愛のあふれるいちごポタジェスタッフ・季節のパフェ
飲食事業については、いちごの圃場近くにて、通年でカフェ「COICH CAFÉ」を運営している。旬の時期には、いちご狩りも楽しむことができ、いつ訪れても楽しめる。カフェメニューは季節によって変わるが、なんといっても、月ごとにメインが変わるパフェはインパクトとワクワク感があり、消費者を飽きさせない。いちごパフェは12~5月に楽しむことができ、その他の季節はマンゴー、シャインマスカット、栗など宮崎県産の旬の果物を使ったパフェが楽しめる。ドリンクメニューには、いちご100%使用のジュースもあり、また、ギフト用として、自社生産のいちごを使ったいちごバターやいちごのコンフィも販売しており、観光客が楽しめる仕掛けも取り入れている。

カフェ近くの圃場ではいちご狩りも楽しめる
最近の新たな取組として、福岡行のバスや新幹線を活用した物流網作りがある。収穫後から鮮度が落ちる農産物を当日輸送することで、消費者へいち早く届ける仕組みを模索している。マンゴーやライチで実証実験をしているところであり、今後は自社で生産する他の品目も検討していく予定だという。その他、いちごグループのホテルHOTEL IL PALAZZOの飲食店での連携も試験的に実施している。
このような様々な取組もあってか、若手の入社や若い消費者の購入に繋がっているという嬉しい影響も出ている。田口代表は、「いちごグループにも協力してもらい、生産だけでなく、加工や飲食事業も実施することで、流通・消費までの全体の流れを見ることができる。販売できているという実感を得られる点が魅力的に映るのかもしれない。」と話す。
以上のとおり、いちごポタジェでは、田口代表をはじめとして、いちごポタジェならずいちごグループのメンバーが一団となって農産物の生産や食と農を繋ぐ取組を実施している。これからも県内外の事業者との取組を検討・推進していく、いちごポタジェから目が離せない。また、いちごポタジェは宮崎県のLFP事業(地域の食料システムに関わる多様な事業者が連携し、地域の食材や資源を活用した新たなビジネスを創出する取り組み)に参加しており、今後は県内のみならず県外の事業者との連携・コラボも検討しているという。まだまだ様々な構想を持っている田口代表に、これからのいちごポタジェの取組に、注目していきたい。
(執筆:公益財団法人流通経済研究所 研究員 菅原彩華)
企業概要
会社名:いちごポタジェ株式会社(ウェブサイト)
代表者:田口 沙緒理
所在地:宮崎県宮崎市大淀4-6-28
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