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2021年6月29日

「スマート農業」の課題と今後の可能性

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 「スマート農業」に注目が集まって久しい。「スマート農業」とは「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業」のことであり、全国各地で実証実験が取り組まれている。本題に入る前になぜ「スマート農業」に注目が集まっているかについて簡単に説明したい。「農林業センサス」によると基幹的農業従事者数は2015年の176万人から2020年には136万人に減少、また基幹的農業従事者数に占める65歳以上の割合は2015年の64.9%から2020年には69.8%にまで上昇しており、全国の農村では担い手の減少および高齢化が喫緊の課題となっている。その対応策として、地方では外国人研修生を受け入れることで担い手不足を補っていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって人の移動が制限されてしまったことも追い打ちをかけた。その結果、改めて「スマート農業」に注目が集まっているのである。

 その一方で、「スマート農業」については賛否を問う声も多い。過去にTBSのドラマで取り上げられたこともあり、特に多くの人が「スマート農業」と聞いてイメージするのが無人運転の「ロボットトラクター(コンバイン)」。確かに広大な田んぼを無人運転のコンバインがGPSで制御されながら収穫するシーンは多くの人に「スマート農業」の可能性を感じさせた。しかし、一方で日本は耕地面積の狭い地域が多く「ロボットトラクター」等は現場に合わないという声も生産者から直接聞いていた。
 そんな中、筆者は5月に高知県北川村を訪問し、スマート農業実証事業の様子を視察する機会があった。北川村は高知県東部にある人口約1,200人の村であり、山々に囲まれているまさに中山間地にある。産業としては隣にある馬路村と並び「ゆず」が特産品となっており、その「ゆず」の栽培で「スマート農業」を導入していた。最初に訪問したのがEUの厳しい基準をクリアしてゆずを青果でヨーロッパへ輸出している㈱土佐北川農園である。こちらでは、農作業者に専用アプリの入ったスマホを持たせて作業履歴を管理しているが、ゆず畑は急斜面での作業も多いので何かあった場合にはすぐにアラームで知らせるようにもなっており、危機管理の役割も兼ねている。また、ゆず畑の防除作業では索道を利用して防除機械を吊り下げたり、ロボット運搬台車による農薬散布を行っていた。次に訪問したのは平地のゆず畑であり、そこでは実証と同じ機種の機体を使用したドローンによる農薬散布のモニター体験を行っていた。ドローンによる農薬散布では飛散(ドリフト)のリスクがよく指摘される。しかし、そこではドローンがGPSで位置情報を確認しながらゆずの木の真上に移動し、そこから1本ずつ真下へ農薬を吹き付けており、飛散(ドリフト)のリスクもあまり感じられなかった。

ドローンによる農薬散布(音が出ますのでご注意ください)

 北川村でのスマート農業の実証風景はまさに「百聞は一見に如かず」であり、実際に見てみないとわからないことだらけであった。そして、「スマート農業」とは現場の課題負担を解決したり、作業効率を上げるための手段であるということを改めて感じた。一方で、気を付けなければならないことは、その地域や品目に合わせて「スマート農業」をカスタマイズする必要があり一概的に横展開は難しい。しかし、それは日本人にとっては得意分野でもあり「スマート農業」に可能性を感じざるをえなかった。
 「スマート農業」の実用化に向けては、冒頭の述べた担い手不足や高齢化という課題を解決するために取り組まれているものの、現状では導入コストやランニング費用などを踏まえると現在の生産コストと比較して設備投資面では割に合わないことがほとんどである。しかし、日本の5年後、10年後を見据えて取り組んでいかなければいつまでたっても「スマート農業」の実用化は夢のまた夢であろう。そして、実用化のためにも産官学が連携することによって現場に寄り添った開発を期待したい。

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