2021年7月29日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
今年度から農林水産省にて新しい取り組みである「地域食農連携プロジェクト(LFP:Local Food Project)推進事業」がスタートした。これは都道府県が、地域の食と農に関する多様な関係者が参画したプラットフォームを形成し、地域の農林水産物等の地域資源を活用した持続的なローカルフードビジネスを創出することを目的としており、今年度は全国で22の道府県が採択されている。
奇しくも、筆者が今年3月まで通っていた明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科(MBA)で研究した修士論文のテーマもこのLFPと似ており、筆者はそのプラットフォームを「食農コミュニネット」と名付けている。今回はその「食農コミュニネット」について紹介したい。
筆者は農林漁業分野に2011年12月に飛び込んで以降、生産から加工・流通・販売までを一体的に取り組む6次産業化について研究してきており、実際に全国各地を回って先進事例の調査も行ってきた。そこで見えてきた課題が、生産者だけで6次産業化に取り組むには2次・3次分野の知識やノウハウ、またマンパワーや設備投資のための資金など様々なハードルがあるということであり、そのために異業種との「連携」や「ネットワーク」の重要性を訴えてきた。しかし、私はこれまで全国の現場を回り、農林漁業を変えるために、生産者と2次・3次事業者との連携や「食」ネットワークの必要性について提言をしてきた。一方で、農林漁業を根本から変えるには何かが足りないと感じていた。
今回、MBAにて修士論文を執筆するに当たり、改めて全国のネットワークやコミュニティによる先行研究や全国の成功事例を研究した。その結果、上手くいっている取り組みは農林漁業者や2次・3次事業者といった横の繋がりである「従来型ネットワーク」を構築したうえで、地域住民や消費者まで巻き込む「コミュニティ」化をしていることを発見した。消費者までの全フードサプライチェーンを巻き込んだコミュニティを「食農コミュニネット」と名付けた(ネットワーク×コミュニティ=コミュニネット)。
この「食農コミュニネット」を形成することによるメリットは「共同」である。共同購入、共同販売、共同R&D、共同研修、共同品質管理、共同ブランディング、共同イベントなど、それぞれの事業者が単独で行うには費用面やリスク面で負担が大きいタスクを「食農コミュニネット」の参画メンバーが「共同」で行うことによって負担を減らしつつ、かつ効果の最大化を図ることが可能となる。
しかし、「食農コミュニネット」の必要性を理解できたとしても、「具体的にどうやって食農コミュニネットを形成するか?」が課題になるところである。そこで、筆者はもう一歩踏み込み、先に述べた先行研究や成功事例を調べた結果、上手く機能しているネットワークやコミュニティには必ず内部を動かす「コーディネーター」の存在があることを突き止め、それを本研究では「食農コーディネーター」と名付けた。
食農コーディネーターの役割は主に4つ、①食農コミュニネット内の課題を特定し、②参加メンバー同士を結び付け、③「場」づくりの企画・推進をし、④ビジネスモデルを構築することである。現実問題としてこの4つの役割を実行するためには、それぞれに必要なスキルも異なり簡単なことではなく、この「食農コーディネーター」をいかに育成していくかが成功の鍵を握っていると言っても過言ではない。
最後に、「食」は人が生きるために必要なものであり、食の根幹をなす「農林漁業」はさらに必要不可欠である。つまり、地方において「農林漁業」の課題を解決し、新たな「フードビジネス」を創出することは、LFPの目指す「社会的課題の解決」と「経済的利益」の両立、ひいてはSDGsにも合致していると言える。筆者は岐阜県で取り組むLFP(岐阜県LFP)の事務局として運営に携わる機会をいただいており、まさに自身で研究した「食農コミュニネット」を実践する機会だと考えている。他の地域のLFPでも是非「食農コミュニネット」を参考にしていただけたら幸いである。
「食農コミュニネット」による「食産業」への進化
https://shokunoumuso.jp/wp/wp-content/uploads/2021/03/communinet.pdf