2022年9月28日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
「地域商社」という言葉をご存じだろうか?地域商社事業とは「他地域との連携、観光等異分野との連携なども進め、域外から投資を呼び込めるようなビジネスモデルをプロデュース」する機能で、2016年に地方創生の一環として「地域商社事業」が始まり、地方創生推進交付金により、これまでに全国で100か所以上の地域商社が設立されている。一方で、蓋を開けてみると「地域の農産物が集まらない」「単なる卸事業に終始している」など課題も浮き彫りになっている。本稿では山形県鶴岡市にあるヤマガタデザイン株式会社を例に挙げて、地域商社のポイントについて考察する。
同社は2014年8月に設立された山形県庄内地方の「街づくり会社」であり、「山形県庄内地方の地域課題をクリエイティブに事業としてデザインして解決する」ことがヤマガタデザインの社名の由来ともなっている。
同社が一躍有名になったのが、“田んぼに浮かぶ木造ホテル”をコンセプトにした「スイデンテラス」である。世界的な建築家である坂 茂氏が設計したことでも有名であり、館内には宿泊施設の他に、地域の食材を味わえるレストランや温泉&サウナ、ジム、ライブラリ、バーなど長期滞在でも飽きることのない設備が整っており、「観光事業」が大きな柱となっている。
また、庄内で働きたい人・暮らしたい人に対して庄内地方の魅力を発信するサイト「ショウナイズカン」を運営することで移住促進にも取り組んでいる。
スイデンテラスの隣にあるドーム型の施設が、全天候型の教育施設「KIDS DOME SORAI」である。施設内には高さ6メートルのオリジナル遊具が設置された「アソビバ」や、約1,000種類の素材を200種類の道具で自由に工作ができる「ツクルバ」がある。また、施設内には約800冊の本が置かれている。ここは、地域の子供達が学校の後に集まる「放課後児童クラブ」と一般客や観光客が参加できる「児童館」の両面を持っており、地域内外の人達の交流の場にもなっている。
新電力事業にも参入し、「ソライでんき」として販売した電気代の一部を「KIDS DOME SORAI」の運営や、地域の高校に対してAIプログラミング教育を通じたデジタル人材育成プロジェクト「やまがたAI部」のために活用している。
農業分野では「生産事業」、「担い手育成事業」、「スマート農業事業」の3つに取り組んでいる。一つ目の「生産事業」では、ヤマガタデザインアグリ㈱を2018年に設立。当初12棟でスタートしたハウス栽培は2021年には51棟にまで拡大している。また、2019年には地域の農産物の卸事業にも開始。「SHONAI ROOTS(ショウナイルーツ)」というブランドで地元産農産物のブランディングにも取り組む。
二つ目の「担い手育成」では、鶴岡市立農業経営者育成学校(通称SEADS)の運営を鶴岡市と共同で行っている。SEADSは農業の担い手を育成することを目的として、遊休施設となっていた「(旧)いこいの村庄内」をリノベーションして作られた全寮制(2年)の施設であり、卒業後の地域内での就農を見据えて農地のマッチングや就農支援も行っている。
最後の「スマート農業事業」では、2019年に東京農工大学と共同で大学発ベンチャーとして有機米デザイン㈱を設立。「アイガモロボット」により除草作業を省力化することで有機農業(有機米)の支援に取り組んでいる。
ヤマガタデザイン㈱は「スイデンテラス」という「観光」を核としながら、「SORAI」では未来の子供達へ対して、「SEADS」では農業の担い手育成としての「教育」に取り組み、また、「ショウナイズカン」では地域や企業の魅力を発信することで雇用や移住促進に繋げることで「人材」の流動化に繋がり、そして「ヤマガタデザインアグリ」や「有機米デザイン」による「農業」の4つの柱で成り立っている。
注目すべくは「観光」「教育」「人材」「農業」がそれぞれ独立的に成り立っているのではなく、例えば「スイデンテラス」のレストランで地域の農産物を提供する「農業×観光」や、「SEADS」の「農業×教育(育成)」など多面的に絡み合っている。
地域商社というと当初、地域の農林水産物や特産品を集めて都心へ販売するという「卸事業」に偏ってしまう傾向がある。実際に地域商社事業にはその機能を求められており、間違いではない。しかし、改めて考えなければいけないのはあくまで“農林漁業”も地域産業の一つであり、どの地域にも様々な産業が存在しているはずである。これからの地域商社には農林漁業だけでなく地域のライフスタイルを支える多面的な機能が必要ではないだろうか。