2024年7月26日
(公財)流通経済研究所
農業・物流・地域部門 部門長/主席研究員 折笠 俊輔
最近の消費者はPQハンターであると言われる。PQハンターとは価格の安さ(Price)と品質(Quality)の両方どりを狙う消費者のことである。
上記の図に示すように、価格が高くても品質の良いものを選ぶ消費者をQハンター、品質が低くても、とりあえず安いものを選ぶ消費者をPハンターとしたときに、その良い所どりを狙う消費者をPQハンターと呼ぶ(田村2006)。
安くても高品質―それは成り立つのだろうか。しかし、考えてみて欲しい。ユニクロ、ニトリ、ワークマン、無印良品などは決して安くはないが、高価というほどでも無いにも関わらず、品質や機能が評価され、人気を博している。ニトリのキャッチコピー「お値段以上」はまさにPQハンター向けのメッセージと言えるだろう。
SNSやWEBによって消費者が商品を選ぶときに得られる情報は、10年前と比べて爆発的に増加している。どれがPQ商品なのか、情報を得やすくなっていることもPQハンターの消費拡大に貢献していると言えるだろう。
そこで商品の作り手サイドで、最も知りたい情報は「どうすればPQ商品を作れるか」ということになる。基本的に品質の高いものを作ろうとすればコストがかかり、高価になってしまうし、価格の安いものを作ろうとすると製造コストを削らざるを得ず、品質は低下してしまう。これは農業も同じだろう。一般的に高品質と言われる農産物(見た目が綺麗、糖度が高いなど)を作ろうとすればコストや手間をかけざるを得ない。
まず考えるべきは、ユニクロやニトリ、ワークマンなど、PQ商品をつくる企業に共通している「製造小売業」という企業のあり方である。これは製造から販売までを一貫して行うことで余計な流通コストを削減し、同じ品質の商品を仕入れて販売するよりも安価に販売できるメリットがある。
ただし、これだけでは「PQハンターに人気の商品」を生み出せる理由にはならない。ここで注目するべきは、商品における一部の機能や品質への「特化」である。
例えば、ある防寒具があった場合、全ての機能を高めようと思えば高価になってしまう。下図の左端の図である。そこで、安価に仕様として全ての機能(品質)を下げた場合、真ん中の図のようになり、「安かろう悪かろう」になってしまう。ここで消費者のニーズの高い機能に絞って高品質にすること=一部の機能に特化することで、高品質なのに低価格、つまりはPQハンター向けの商品が生み出せるのである。
ユニクロのヒートテックやエアリズムなどがこれの代表だろう。素材や保温、涼しさといった機能に特化することで、高機能な商品を安価に提供できるのである。
消費者の求める特定の機能に特化して高品質な商品をつくり、安価に提供する。かつ、それをできるだけ余計な流通コストをかけずに販売する。それがPQハンターに対応するポイントであると言えよう。気を付けたいのは機能に対して安価である、ということで決して「絶対的に安い」必要はないということである。
農業経営においても、6次産業化やEC販売、直接営業などを通じて製造小売業的な経営を行っている生産者は多い。特定の機能に特化することで安価に生産し、販売するPQハンター狙いも考えてみてはいかがだろうか。例えば、糖度を高くしつつも、見た目を良くする工数を減らし、収量を上げて安価に提供する、といったアプローチなどである。
参考資料:田村正紀『バリュー消費 「欲ばりな消費集団」の行動原理』日本経済新聞社 2006