2024年11月27日
(公財)流通経済研究所
農業・物流・地域部門 部門長/主席研究員 折笠 俊輔
今、手元にあるものを販売し、対価をもらうことを現物をやりとりするので、「現物取引」と言います。それに対し、将来の売買を約束する取引を「先物取引」と言います。先物市場は、この将来の売買の約束を行う金融市場です。もう少し詳しく説明すると、商品先物取引は、将来の一定期日に一定の商品を売買することを約束して、その価格を現時点で決める取引のことです。
米の先物取引は、2024年8月に堂島取引所でスタートしました。堂島取引所の先物市場を説明すると、将来の一定期日(これを限月(げんげつ)と言います)に、自分で決めた量の米(50俵単位で指定)を売買することを約束して、その価格を現時点で決めて取引するものです。現在、開設されている「堂島コメ市場」では、12ヵ月以内の偶数月(2月限、4月限、6月限、8月限、10月限、12月限)が限月として設定されています。
つまり、2月限の先物取引で100俵を単価2万円で売る場合、「1俵2万円で来年2月に米100俵を売る(買う)契約を今、結ぶ」ということになります。
ここで気になるのは、「来年2月になったら必ず米を100俵、売らないといけないのか?」ということだと思います。もちろん、売り手と買い手が米の現物で最後に決済する合意をしている場合は「米で清算(最初に売買が成立していた価格と量)でする」ことも可能ですが、必ずしも実際に米を売買する必要が無いのが先物取引です。米の先物市場は、「買いまたは売りを約束した時点の価格」と「決済時点での価格」の売買によって発生した損益(差額)を受渡する差金決済取引なので、実際の米の売買を行わなくても、当初の売買価格と現在の価格を相殺して、差額をお金で決済することも可能なのです。
なお、今の「堂島コメ市場」は米の指数取引なので「〇〇県産コシヒカリ」といった個別銘柄での取引ではなく、「国産うるち米1等」の全国の平均価格で売買を行うことになります。
ここでは、図を使って説明しましょう。例えば、播種前の米の価格が1俵2万円だったとします。この生産者は1,000俵生産する予定で、そのうち500俵は播種前契約で売り先が決まっています。ただし、その価格は引き渡し時の相場価格とするという契約です。ここで生産者は将来の米の価格低下を懸念して、生産予定量1,000俵分を先物市場12月の引き渡しで売りに出しました。
出来秋になり、無事に予定通り1,000俵収穫できたとします。しかし、単価は1俵18,000円に下がってしまいました。事前契約の500俵も、残りの500俵も何とか相場価格の18,000円で売り切ることができましたが、播種前の見込みは1俵2万円だったので播種前と比べると、その差額分(20,000円―18,000円)である2,000円×1,000俵=2百万円が、見込みよりマイナスになってしまいました。
ここで先物市場が機能します。播種前に2万円/俵で売りに出していた米、1,000俵の単価が18,000円/俵まで低下したことで、1俵あたり2,000円の利益がでるのです。2,000円×1,000俵分=2百万円が先物市場での利益となり、現物で発生した損失と相殺されることで播種前の計画からのマイナスが発生しないことになります。
先物市場では、「2万円/俵で1,000俵を売る契約」をしたのち、その後、価格が低下(18,000円/俵)した場合、低下した価格で自分で購入する形で決済を行うことで、2万円で売った米を1万8千円で買うことになり、差額が利益となるのです。
今、コメの売買については、新たな現物市場(みらい米市場)と先物市場(堂島コメ市場)が開場しています。今、手持ちの米を販売する現物市場と、将来の米の売買を約束する先物市場を上手に組み合わせることで、播種前にあらかじめ売上を固定することができます。
例えば、米の現物市場(みらい米市場)では、注文取引として買い手からのオーダーに生産者が応える場合、播種前の契約も結べます。播種前の事前契約をしっかりと現物市場や営業活動で取り付けつつ、価格変動(価格の低下)のリスクについては、同時に先物市場で価格を決めて「売り」を行うことで、出来秋以降に価格が下がった場合でも先物市場からの収益はプラスになるため、現物の米の価格低下を補填することができるのです。
ぜひ、現物市場と先物市場を上手に活用してみてください。