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食×農の現場から
REPORT | 2021年7月30日

多様なニーズに応え、新たなニーズを拓く 〜千田みずほ・ジャンボリア

足下、「コメ余り」が大きな問題となっているが、昨今のコメの生産量は記録的な冷夏と言われ、不作となった1993(平成5)年を下回っている。また、食糧需給表によると、一人あたりの米の消費量は、1962(昭和37)年度の118.3kgをピークに2018(平成30)年度には53.5kgまで減少しており、消費量の減少が生産量の減少を上回る。

米の収穫量の推移。近年の収穫量は不作と言われた平成5年、15年を下回る


米の過剰在庫の問題が深刻化し、米の消費をいかに維持・拡大するかが課題となるなか、減少が止まらない米の消費に少しでも歯止めをかけるために、米販売の現場ではどのような取り組みが行われているのか。今回は、米の需要開拓の最前線を担う米穀卸・加工の千田みずほ株式会社(以下、「千田みずほ」という。)とグループの米飯加工会社である株式会社ジャンボリア(以下、「ジャンボリア」という。)にお話を伺った。

千田みずほ・商品部妹尾部長

ジャンボリアの皆様。右からデリカ営業部原部長、商品部高野次長、製造部山口次長

「いつもお米に一生懸命」

千田みずほは、大正8年(1919年)に創業。以来100年以上にわたり、「お客様の満足向上を計り、常に信頼される製品を提供することが、日本の食文化を大切にする」を経営理念に、お米とともに歩む横浜の「お米の総合企業」だ。
同社では、主食用のお米の販売はもちろん、特定米穀を日本酒や味噌、和菓子やおせんべい製造などの食品メーカーへの販売を行う。また、米飯加工を行うグループ企業のジャンボリアでは、同社の扱うお米を加工し、首都圏の学校、病院、飲食店やスーパー等に炊飯米やお弁当・おにぎり・巻き物などとして供給する。

同社では幅広くお米を消費者に届ける際、生産者の想いを伝えることに積極的に取り組むのが特色で、安定した品質と供給を実現するため、産地と連携し信頼関係を構築することに力を注ぐ。この一例として、同社では「生産情報公表JAS」小分け業者の認証を取得し、お米の生産情報(生産者、生産地、農薬及び肥料の使用情報など)を正確に記録・保管・公表する産地・生産者とタッグを組むことで、生産者情報を食卓へ届けるというような地道な取り組みに、その姿勢がうかがえる。

主食用米への取り組みは「当たり前過ぎてスルーされがちです」と千田みずほ・妹尾部長は語る。同社では、銘柄にこだわることなく、食べる人や食べ方、シーンに合わせた米を提案することを大切にしていると話す。
ブランドにとらわれない品質優先のお米などとともに、特別栽培米や有機栽培米等の販売にも力を入れており、特に有機栽培米は一般のお米より2倍以上の価格ではあるものの、コロナ禍の中でも徐々に市場を伸長させているという。また、家庭で調理しやすく環境に優しい無洗米の市場拡大にも継続的に取り組んでおり、現在、千田みずほでの取扱量のおよそ3分の1が無洗米になっていると話す。無洗米の拡販を通じ、調理の時間短縮に加え、米のとぎ汁による水質汚染防止にも役立っているという。

また、千田みずほでは、従来から自社商品取り扱いの範囲だけでなく、米が作られ、食べられていく環境やそのまわりに広がる社会全体にも意識を強く向けていると力を込める。最近更新したホームページでもSDGsの17項目中14項目をカバーすることを紹介しているが、かねてより食品に対する安心安全を提供することの重要性に対する社内での共通意識を高めるべく、自社で定めた食品安全方針を毎朝朝礼で唱和していると話す。

産地から出る米はすべて取り扱う

千田みずほでは、主食用の一般精米を扱う横浜工場のほか、米菓や酒類、お味噌といったさまざまな食品メーカーの需要に応じた精米加工を行う新潟工場の2拠点を有する。
「2つの工場を持つことのメリットは2つあります。ひとつは、産地から出る米を(品位にかかわらず、用途ごとに)すべて取り扱えること。もうひとつは(消費と生産、それぞれの)末端の実需を知ることができるということです」と妹尾部長は強く語る。

多くの産地では、主食用の米にとどまらず、業務用に適した品種の生産も行っている。米といっても、酒米のように用途が異なるものや、冷凍チャーハンなどに供される粒の大きいもの、一般の主食用米に比べて業務用に向く収量が多い品種(多収量米)などさまざまな品種があり、それぞれ生産技術が変わってくるという。
同じ品種だけをたくさん作るのは、生産技術面では単一化によりレベル向上が図りやすいものの、田植えや収穫の時期が重なって作業が集中する。さらに天候などのリスクの影響を受けやすいこと等から、生産規模を拡大している生産者にとっては、需要に合わせてさまざまな品種を作ることがリスクヘッジも兼ね、販路多様化等のチャンスにつながるとの考え方も拡がっているようだ。
他方、食品メーカーにとっては、一般の主食用米のような”家で炊いて食べるお米”が自社の加工に合った米とは限らない。粒が大きいほうがいい、粘り気が少ないほうがよいなど、加工ニーズにあわせた品質の米が必要量集められるのは大きな強みといえる。
産地とメーカーの双方の現場を知る千田みずほは、メーカーの様々なリクエストに積極的に応えることを通じ米の消費につなげている。加えて、需要家ニーズを踏まえて、主食用米と業務用米の両方を扱うことで、産地との関係をより深めていくことで安定供給等ができると力が入る。

「米屋のおいしいごはんを提供する」

グループ会社のジャンボリアは、1980(昭和55)年に、自社精米の付加価値を向上させるべく設立された。この頃は、持ち帰り弁当専門店が登場、コンビニエンスストアの拡大により、外で調理されたものを持ち帰る食文化が広まったことから、「中食」という言葉が生まれた時代だ。
米の生産面積も消費量も1960年代末をピークに減り始めた中、変わりはじめた生活様式にいち早く合わせることに取り組み始めたのは慧眼といえよう。

今回訪問した2008(平成20)年から稼働の現工場では、1日12トンほどのお米を炊くことができるという。白米はもちろん、スーパーの惣菜コーナーではなかなか作れない雑穀米や健康米を使ったお弁当も提供しているとのことだ。ジャンボリアでは、自社グループから調達した米をひと釜単位で浸漬(米の中心部まで十分に吸水させること)させ、必要なタイミングでこまめに炊きあげられるよう炊飯ラインを工夫していると話す。浸漬には時間がかかるため、効率だけ考えると、まとめて浸漬する企業が少なくない中、ご飯の味付けや炊飯タイミング等の多様なニーズに応えられるのは強みといえるそうだ。
製造ラインは、おにぎりから丼もの、豊富な種類のおかずを盛り込んだものまで、オーダー(ニーズ)に合わせ多種多様の商品を作り出す。こまめな配送とセットながら、店頭に届け家庭に持ち帰られるまでの時間を十分確保できるよう、さまざま工夫が加えられていることはもちろんだが、品質管理には細心の注意を払っている。また、炊く前の米の状態を千田みずほが、炊けた後のごはんの状態をジャンボリアが相互に確認し情報共有することで、自社グループ全体の品質向上にもつながっていると山口次長は語る。

炊飯釜はひとつずつプログラミングされ、用途に合わせ細かく管理される

ジャンボリア・山口次長

一方で、昨今のあらゆる原料や資材が高騰している中で、なかなか売価に転化できないという悩みは共通だ。そのような状況下、ジャンボリアでは、さらなる生産性の向上に力を入れていると話す。おにぎりの機械の更新や肉を効率よく調理するジェットオーブンの導入等により、生産性が2割から3割向上できたという。
さらに、炊飯技術の向上にも余念がない。炊飯器メーカーの技術者を招いた勉強会を開いたことで、炊き上がりの観察項目などの見直しが進み、「炊飯を科学する」姿勢が定着してきているとお話を伺ったジャンボリアの皆さんは自信を示す。

おにぎりの機械

製造ラインの皆さん

実需と結びついた市場開拓

新型コロナウイルス感染症の問題発生前までは、中食市場はどんどん拡大しており、ジャンボリアの業績は右肩上がりの傾向が続いていた。しかし、コロナ禍によって中食・外食に大きな逆風が起こり、直近では見通しが立てづらい状況となっていると話す。
世の中では、2020(令和2)年は外出を控える風潮のなか一気に内食需要が増加したものの、少しずつ中食に戻っていくだろうという見通しが多い。しかし、ジャンボリアでは、顧客ニーズがコロナ禍の前にそのまま戻るとは考えておらず、より「味にこだわったお店に近いもの」が求められるだろうと予測し、商品開発に余念がない。

山形県産つや姫を使ったおにぎり。口に入れるとほろりと米粒がほどける

今春開発したスパイシーチキン丼。スパイシーな味わいが大ヒットしているとのこと

他方、千田みずほでは生産側に向けて、「コメ余り」が続いてきたとはいえ、生産者も減っていることから、いつか米の生産と供給がマッチする日が来るはずと見通す。その時にもいい米を確保し続けられるよう取り組んでいく重要性を強調する。
そのために、同社では積極的に需要喚起に取り組んでいくと力が入る。

ひとつが、海外への展開だ。農産物の輸出拡大は国の大きな政策である。しかし、ただ精米した米をスーパーに納めるだけでは、価格競争に巻き込まれてしまう。また、現地の環境や消費者の好みに合わせた商品展開をしなければ、日本産の米の価値を下げてしまいかねないことを心配する。
そこで、同社ではシンガポールに精米機やいなり寿司の成形機を持ち込み、実際に店頭で販売する取り組みを行うことで、需要開拓に成功したと話す。
現地の店頭で市場調査を行ったところ、いなり寿司はシンガポールで人気があり、訪日時に食べたことがある人も多いとのことで、狙いを定め、市場開拓に取り組んだ。炊飯ひとつにしても水も機械も日本とは違うものの、衛生管理などの理論はそう変わらない。今回のいなり寿司の成型機の持ち込み等も含めて現地の事業者へ技術指導を徹底することで、シンガポールに止まらず東南アジアでの横展開を目指したいと目標は明確だ。

千田みずほ創立100周年を記念して作成した企業紹介動画

英語のほか、中国語、ベトナム語字幕をつけたものを制作、世界に向けた発信を強く意識している

上記でご紹介した動画は千田みずほホームページからご覧いただけます

一方、国内に目を転ずると、同社では業務用米の市場開拓にも力を入れている。
近年、規模拡大を目指す若手生産者に、先に触れたように積極的に作付け品種を分散させる傾向が見られると話す。面積が多くなればなるほど多収性があり作りやすい業務用米を選ぶ傾向が見られるとのことで、JAや集荷業者を通じてだけでなく、長期的に業務用米を作る生産者と付き合うケースが増えていくことを見通す。
しかし、多収米もいいことばかりではないと妹尾部長は語る。気候によって収量は大きく上下するし、収量が多いことで機械の消耗も激しい。産地に通い、ともに理解を深めながら、従来の「採れたものを使う」から「必要な農産物を作っていただく」取り組みを広げたいというのが同社の考えだ。「千田に買ってもらうとちゃんと使ってくれる」と、同社を受け入れてくれる生産者との縁を深めながら仕入先の開拓を続けることで、川下の需要にも応え続けたいと先を見据える。

足下の消費拡大に関しては、顧客先と協同して、ごはん大盛りキャンペーンから健康米や雑穀米を活用した商品、具材をはさんだ大きなおにぎりやサンドむすびなどの商品開発に余念がない。また、近年伸長しているドラッグストア等多様な小売業態への対応のため、温度管理などの工夫による消費期限の延長化にも取り組んでいると話題は拡がる。

また、日頃から産地に通う妹尾部長によると、生産の現場に行くたびにIT農業が浸透しており、農作業の風景が変わって見えるという。「お米は(農家の)足音を聞いて育つという。かつて八十八の手間がかかると言われたお米だが、八十八でなくなるように感じる」と話す。「第一次産業は働き方改革と真逆な面もある。ITを補助的に活用してくれたら」と、産地の未来に想いを馳せながら、ごはん食と文化の継続に力を注ぐ千田みずほの取組みを通じた米の消費拡大に期待は拡がる。

(中部支部事務局長 内田文子)

<会社概要>
千田みずほ株式会社(http://www.gohansuki.com
創 業:1919(大正8)年
代 表:代表取締役社長 千田 法久
資本金:9,000万円
所在地:神奈川県横浜市保土ケ谷区峰岡町
事業内容:主食用及び加工用米穀の仕入・精米/加工及び販売

株式会社ジャンボリア
設 立:1985(昭和60)年
資本金:3,000万円
所在地:神奈川県横浜市保土ケ谷区峰岡町
事業内容:炊飯・おこわ・フィルムおにぎり・直巻きおにぎり・いなり・巻物・シャリ玉・弁当・包餡商品・惣菜等製造販売
主要販売先:外食産業、量販店、商社、受託食堂等