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食×農の現場から
REPORT | 2021年9月10日

地域の魅力をまるごと訴求するプラットフォーム〜ジバスクラム恵那

恵那市は、岐阜県南東部に位置する人口約5万人の街。名古屋から電車で約1時間の場所にあり、景勝地で有名な恵那峡を有する。名古屋圏のベッドタウンで観光地でもあるという同市では、2016(平成28)年11月に市長に就任した小坂喬峰市長のリーダーシップのもと、「はたらく」「たべる」「くらす」「まなぶ」の四本柱で市を元気にしようと数々の施策が行われている。
今回は、その施策のもと、市観光協会と市の共同出資により設立されたDMO(観光地域づくり推進法人)候補法人兼地域商社である一般社団法人ジバスクラム恵那(以下、「ジバスクラム恵那」という。)を訪問し、事務局長の田村猛さんと農林担当の横光哲さん、スタッフの小池菜摘さんにお話を伺った。

田村猛事務局長

横光哲さん

なお、恵那市では2019(平成31)年から、同市「人材育成基本方針(第3次)」に基づく職場外研修として、国、県及び民間企業等への派遣研修が実施されており、今回、ご案内いただいた横光氏はその初代メンバーとして当機構で1年間のトレーニー業務に従事された。その経験も活かし、恵那市に帰任後、このジバスクラム恵那の立ち上げに取り組まれたという。また、同法人の実務者トップ(業務執行理事)の戸取氏は、この制度の双方向派遣として市での業務に従事されている日本航空(株)社員ということで、地域活性化に向けた小坂市長の施策は、そのそれぞれが現実化に向け有機的に結合しているようだ。

地場と外の「あいだ」を編集するプラットフォーム

ジバスクラム恵那は、「持続可能な地域づくり〜地場スクラムを組んで、恵那らしさを追求し、稼ぐ観光都市恵那を目指す」を目標とし、域内の

  • 地域の総合的戦略産業としての観光業の育成
  • もうかる農林業への転換
  • ビジネス支援の強化

の役割を担うことを目指し、2020(令和2)年1月にスタートした。

まだ世に知られていない恵那の優れた産品や観光資源など、恵那をまるごと国内外に売り込むのがジバスクラム恵那のミッションという。「国内外のニーズを探り、恵那のどんな産品や場所をつなぐことでそれに応えられるのかを考える、地域と域外をつなぐ『あいだ』としての組織でありたい」と田村氏は語る。活動にあたっては、「地域に密着した活動を展開」「新たな地域の担い手の発掘と育成」「外部事業者との連携」をサブミッションとし、地域事業者(商工、農林、宿泊、飲食)や地域住民と域外の市場をつなぐプラットフォームとしての役割を強く意識している。

ジバスクラム恵那では、恵那らしさを体現するための規模感を具体的に示すことで、より具体的なプラットフォーム像を提示している。
ホームページで語られているのは、「恵那が目指すのは50万人や100万人、1000万人都市の幸せではなく、5万人の街の幸せ。東京の真似をするのではなく、恵那という地域に沿った事業を行うことこそが、恵那の地域商社としての役割であると考えています。」(戸取業務執行理事)ということ。大都市圏からの誘客のためだけに地域を疲弊させるのでなく、あくまでも地域に寄り添って地域の魅力を最大限に発揮すること、それを魅力に感じる顧客への価値を磨いていこうとするのがジバスクラム恵那のビジョンのようだ。
本稿では、企業誘致や公共事業導入といった「外からの産業振興」と、地域が自らの資源を活用して経済の活性化を目指す「内からの産業振興」の両輪を活用して強固なスクラムを組もうとするジバスクラム恵那の取り組みを紹介したい。

地域の魅力をドローンでまるごと感じる

今年6月、恵那市上矢作町内で「1泊2日ドローン空撮大会at上矢作〜町全体がドローン飛行場と化す奇跡の2日間〜」と題したイベントが開催された。主催は、ドローンを活用した地域の活性化やまちづくりを目指す株式会社ROBOZ(以下、「ROBOZ」という。)。参加者は、2日間上矢作町内を主にドローンを使って撮影し、3分以内の町のPR動画として発表するというもの。発表された動画はすべてYouTubeの市公式チャンネルで公開され、撮影者自身が町のあちこちを駆け巡って見つけた驚きや喜びがあふれた作品を楽しむことができる。

(ドローン空撮大会で発表された上矢作町のPR動画のひとつ。Youtube恵那市公式チャンネルではすべての参加作品を視聴できる)

2020(令和2)年3月に恵那市、ジバスクラム恵那、ROBOZとの連携協定が結ばれた。現在、ドローンの操縦や撮影は許可されたごく限られた場所でしかできないが、地元住民の理解と協力のおかげでこのイベントでは上矢作町内全域でのドローン飛行が実現できたと田村氏は語る。ROBOZは上矢作町に通年でドローン体験ができる拠点を作り、これを受け、上矢作町はドローンでのまちづくりを標榜した。さまざまなイベントや交流を通じ、地元住民の理解も深まっているという。
今回のイベントによって、恵那のあるがままの美しい自然をさまざまな角度から伝えることができ、域外の観光事業者や消費者、そして地元住民にも地域資源の魅力を再確認することに結びついたであろうことは想像に難くない。

また、ジバスクラム恵那では、美しい自然に触れてもらった後には地元の豊かな食材も楽しんでもらおうと、ドローンをきっかけに恵那に訪れた旅行者が宿泊するコテージ等へ、恵那をまるごと味わってもらえるようバーベキュー用の肉や野菜など旬の地域食材を届けるサービスを企画しているという。さまざまな事業者をコーディネートし、限られた滞在期間ではなかなか発掘しきれない地域ならではの食材をワンストップで提供しようというのは、地場のさまざまなプレイヤーが関わりを持つジバスクラム恵那だからこそできることだろう。

テロワールを感じさせる「恵那山麓野菜」

ジバスクラム恵那では本年7月に、恵那駅前に事務所を移転、1階に「Aeru Shop」をオープンした。目玉商品として、地域の生産者の出荷チームによる「恵那山麓野菜」と農産加工品が並んでおり、この店舗は恵那山麓野菜の集荷場も兼ねる。そして、ここを担当するのがスタッフの小池菜摘さんだ。

「出アエル・知りアエル・繋がりアエル」がAeru Shopのコンセプト

小池菜摘さん

店内には恵那山麓野菜や、地域の野菜や果物を使った加工品が並ぶ

名産の細寒天も

恵那山麓野菜のプロジェクトを担いつつ、ジバスクラム恵那のスタッフでもある小池氏は大阪出身。あちこちに暮らした経験のもと、この地域の「圧倒的においしい野菜」に感動したことをきっかけに、農業への取り組みを始め、恵那市・中津川市の若手農家を中心とした野菜の共同販売を担う恵那山麓野菜というブランドを立ち上げたという。
ブランド化のポイントを尋ねると、「『なんかおいしい』というクオリティが普通に手に入る。野菜の味が濃い。」「育て方もあるけれど、環境(が野菜をおいしくする)が決め手」と小池氏とさりげなく答えてくれた。
おいしい野菜が普通に手に入るからこそ、地元の人はその良さがわからない。まして、中山間地の恵那市・中津川市では平野部以上に農地が点在するため、農業の経営効率がどうしても上がらない。このため、この地域では単一の作物を生産する小規模な農家が主体となっている。しかし、効率化を重視した流通の中では、小さな産地の良さを輝かせることが難しい。
小ロットでも野菜の価値を保ったまま流通を効率良くするには、「作る人の想いを引き継いで売る人」の役割が必要だと、その役割を小池氏自らが担おうとしたのが恵那山麓野菜のはじまりであり、ジバスクラム恵那の活動との結びつきだという。

恵那山麓野菜は、単に地域や年代でつながったものではないし、農法もさまざまだ。とはいえ、地域の農家なら誰でもいいわけではない。
まずは、持続可能であること。中山間地の農地は、山や川といった自然と隣り合っている。そこに暮らす生き物はもちろん、川下の生活にまで思いを馳せた農業技術が、農という営みの中でいつも意識されなければいけないと小池氏は言い切る。
加えて、「(こちらの)めんどうくささに対応できるかどうか」と小池氏は笑う。恵那山麓野菜は、出品したい人が自ら集荷拠点まで届けなければならない。締め切り時間もある。当たり前のことのように思えるが、Aeru Shopがある駅前をはじめとする集荷拠点までは、それぞれになかなか遠い。
「買い取り価格はいい」(小池氏談)というが、トマトやいちごは予め通年での値決めをし、その価格で出品できるかどうかを確認する。農産物は、市況によっては他産地の影響等を受け、驚くほどの高値がつくことがあるが、それでは持続的ではないというのが小池氏の考えだ。また、生産者によって仕入れ価格が異なる品目についても、それを無理に調整するのではなく、それぞれの仕入れ価格を生産者間で公表・共有するに止めているという。
また、買い取りにあたっては買い取り可能な最大量を示し、その範囲で生産者は出荷できる量を自由に納入できる方式となっている。集まった野菜は、「環境を同じくする野菜の仲間たちを一緒に食べることで味わいが豊かになり、価値が高まる」という恵那山麓野菜のモットーに基づき、「おまかせセット」や、野菜と加工品のセットでの販売を中心としている」と話す。他方、名産であるトマトのように数量がまとまるものは県内の大きな直売所にも出荷されるのだそう。

持続可能であることの徹底は、これだけではない。
小池氏は2018(平成30)年に、規格外・傷物・廃棄野菜専門加工場である「もったいない工房」を立ち上げた。出荷規格に合わない野菜を使うこと、可能な限り地場の原材料を使うことをモットーに、焼き菓子や瓶詰め、レトルトの惣菜を製造・販売する。
どんなにがんばっても余るものはある。フードロスを1グラムでも救うこと、さらに環境を同じくする野菜と調味料を合わせることで地域の価値を高められるという想いは、ジバスクラム恵那の想いに重なる。

あらゆる面での「持続可能」を追い求める恵那山麓野菜は、小池氏の揺るがない価値観と目利きに裏付けされた行動から生まれたネットワークである。他方、小池氏単独ではできない集荷のやりくりや新規販売先の開拓等はジバスクラム恵那が引き受ける。地域農業を持続可能な形で成長させるのは、横光氏ほかメンバーの行動力とコーディネート力があってこそといえよう。

販売イベントにも参加する

恵那山麓野菜を支えるみなさん

コロナ禍だからこそ、ジバスクラム恵那があってよかった

ジバスクラム恵那は2020(令和2)年1月の立ち上げ以降、コロナ禍の逆境の中、取り組みを進めてきた。田村氏は「外に出られず、行動範囲が狭まったからこそ、中の準備ができた」と手応えを語る。既存のビジネスがストップする中、アフターコロナを見据えて打って出る準備をしなければならない。既存組織と棲み分ける差別化も意識しやすい。有事だからこそ、とがったことをしようという意識も生まれるし、そうした人たちが集まれる。「ジバスクラムがあってよかったねと言われるんです」と田村氏は微笑む。

とはいえ、まだまだ草創期、悩みも多いという。
ひとつは成長を見据えた組織づくりだそう。現在は、小池氏を始め、自身の事業とジバスクラム恵那の方向性が一致した「複業」人材がジバスクラム恵那の運営を支えている。しかしながら、事業が安定して成長するためには、「専業」人材も育成していく必要があると横光氏は将来を見据える。

もちろん、人材確保のためには収益確保の見通しが欠かせない。
駅前のAeru Shop はもともと物流拠点である。駅前立地とはいえ、店舗のみでの収益均衡は厳しいようだ。事業検討を進める中、この8月にサービスを開始したのがWebサイト「Aeru Shop Online」(https://www.aerushop.jp)だ。
こちらでは、現在恵那山麓野菜をはじめとするバイヤーがセレクトした恵那・中津川地域の魅力あふれる商品を買えるショッピングコーナーと、地域での宿泊やアクティビティを予約できる「Aeru Stay」がスタートしている。今後は、折々の地域の良さを伝えるウェブマガジンも提供し、集客の拡大を目指す。横光氏が「内容の充実はこれから」と語るとおり、コロナ禍に負けず、走りながらコンテンツの充実・強化を図るフットワークの軽さが、ジバスクラム恵那の魅力といえよう。

多様なメンバーが集い、自由な発想で歩みを進めるジバスクラム恵那が、地域商社の新しいかたちを創っていくことを願ってやまない。

(中部支部事務局長 内田文子)

<会社概要>
団体名:(一社)ジバスクラム恵那(https://zivascrumena.com
創 業:2020(令和2)年1月
代 表:代表理事 阿部 伸一郎
所在地:岐阜県恵那市大井町293-9
職員数:15名(常勤3名(出向等3名)、非常勤12名)
連 携:(一社)恵那市観光協会、恵那市商工会議所、恵那市恵南商工会、地域鉄道会社、東美濃農業協同組合、恵那市森林組合、恵南森林組合、地域金融機関 等)