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食×農の現場から
REPORT | 2021年8月17日

仲間と力を合わせ、ひとりでできないことを実現する 〜サニタスガーデン

津軽地方というと米やりんごのイメージが強いが、高い緯度を活かし、夏季にはレタスやキャベツの栽培も盛んだ。今回は、前回ご登場いただいた佐藤拓郎さんに続き、黒石市で野菜生産に取り組む有限会社サニタスガーデン(以下、サニタスガーデンという。)代表の山田広治さんを訪問した。

同社は、以前、当機構の「トップランナー紹介」にご登場いただいた澤浦彰治社長が率いる野菜くらぶ(本部:群馬県昭和村)の青森での拠点機能を担うとともに、地域に根差した経営体として、佐藤代表らとともに東北全体の農業を見つめつつ、令和元年度からの「東北食農塾」に参加いただいている。
本稿では、野菜くらぶの「独立支援プログラム」により、黒石市で独立就農を実現し、野菜生産に取り組む山田代表から、新規就農での想いや今後の展望等についてお話を伺った。

サニタスガーデン代表・山田広治さん

「天空のレタス」を育む沖揚平での就農

山田代表は、世界有数の豪雪地帯としても知られる八甲田山中の酸ヶ湯温泉にほど近い黒石市の沖揚平(おきあげだいら)で農業を始めて20年近くになる。
現在は、標高約750メートルという冷涼な沖揚平地区と黒石市内平野部の両方で、レタス、キャベツ等の葉物野菜とじゃがいも、豆もやし等を栽培する。同代表は、野菜くらぶの独立支援プログラムの1期生であり、ここで作られたレタス等は野菜くらぶ青森として、グループでのリレー出荷の一翼を担う。

黒石市は青森市、弘前市、十和田地域のほぼ中心に位置し、平野部から八甲田山までの標高差を有する

山田代表は、2001(平成13)年に独立就農に向け野菜くらぶで研修を始めた。独立就農を目標に研修を続けながら、週末には澤浦社長と産地探しを重ねるなかで、沖揚平とそこに住む人々に出会ったという。

沖揚平は、戦後まもない頃入植者が開拓した地区で、森林を切り開いての開墾、住宅建設、道路開設には長期を費やし、入植者が半減するほど困難なものだったそうだ。その後、1960(昭和35)年頃から高冷地野菜の栽培が始まり、高評価を得てブランド化されたが、連作障害に苦しめられる等、厳しい環境のなかで入植者が団結して営農を続けてきた地域という。

沖揚平の風景

そんな地域に山田代表と澤浦社長は注目し、地区外からの参入に抵抗感のあった地域の方々と粘り強い対話を重ね、2003(平成15)年にこの地で農業を始めることができた。スタート当初だけ群馬での生産と両輪で取り組んだが、2005(平成17)年から青森に集中したと山田代表は当時を振り返る。
立ち上げ時のご苦労は、野菜くらぶのホームページ「産地物語(青森編)」(https://www.yasaiclub.co.jp/sanchi/sanchi2-1.html)に譲ることとして、この地域の課題について、山田代表は、「『天空のレタス』と呼ばれる栽培好適地だが、いいことばかりではない」と直截だ。
最大のポイントは、5月中旬から11月中旬のたった半年という農作業ができる期間の短さのようだ。
経営効率を考えると、植え付ける時期を少しずつずらし人員を効率よく配置し、植え付けと収穫という多くの人手が必要な作業を分散させたい。しかし、冬は3メートルもの雪が積もる沖揚平では、春になっても雪が大地を覆っているという。「雪が溶けたら全力でスタートしなければならないんです」と山田代表は語る。
顧客の要望に応えるため沖揚平だけでなく平野部も活用しながら、人手のやりくりをしていかなければならない。この制約に、「(研修を受けた)群馬では(野菜を作れる期間が)8ヶ月あるから、もっと少ない人数で回せる」と山田代表の表情は険しい。「収穫後の土作りもしたいし、開拓地の名残の石拾いも未だに残る。やりたいことはたくさんあるけれど雪の季節に間に合わない。もうちょっと効率的にしていきたい」とその目標をきっぱりと語る。
その言葉の背景には、この沖揚平を「いい状態にして次世代に渡したい」との強い想いがある。自分たちを受け入れてくれた沖揚平の中心世代はすでに70代。苦労を重ねて切り拓いたこの地を、どうやって未来に繋ぐかが自身としての大きなテーマのようだ。

「いいものをつくる」

山田代表は神奈川県藤沢市の生まれ。学生時代にフィリピンを旅行した際に出会った農業に魅入られたことが農業を志すきっかけになったという。各地で農業を学んだ後、海外青年協力隊の一員として、アフリカでの野菜の栽培指導も経験した。帰国後、早く自分の農業をやりたいという気持ちが強くなるなか、就農支援フェアで澤浦社長と出会い、野菜くらぶの「独立支援プログラム」(https://www.yasaiclub.co.jp/dokuritsushien/)に参加する。
野菜くらぶの「独立支援プログラム」は、単に独立就農に向けた知識と経験を身につけるだけでなく、野菜くらぶの顧客が求める年間を通じた安定供給と社員の独立志向の両方を満たすべく開発されたプログラムだという。野菜くらぶを通して出荷すること、同社と共同出資する会社を設立することで、独立就農時に苦労しがちな販売ルートの確立を実現するとともに、初期の資金調達もしやすくなる点が強みといえるそうだ。
そのメンバーについて山田代表は、「有機栽培から慣行栽培まで、多様な生産者がいる。野菜くらぶとしての画一的なやり方というのはないんです」と、それぞれの自律度を説明してくれる。他方、グループ出荷といっても、自分の作った野菜が届くお客様はしっかり見えているし、直接の交流もある。
これまで、うまく行かない時もお客様が支えてくれた。自分がやってこられたのは野菜くらぶと同社を通じて交流してくれるお客様がいたからこそとも、山田代表は感謝する。

「どこで何をやるかも大切だが、誰とやるかがもっと大切」というのが山田代表の考えだ。
毎年1haずつ栽培面積を広げ、現在は、レタス各種、キャベツを中心に白菜やじゃがいも等16haほどの栽培面積を持つ。
生産は常勤スタッフ3人と季節雇用のスタッフ2人とともに取り組む。いつも一緒に作業をしてきたので意思疎通は十分だ。土の状態を見ながら、誰もが計画に則って自分で考え行動できるという。子どもを通じて縁ができた地元の方が「おもしろい農業をしている」と来てくれたケースもあると山田代表は微笑む。カチッとした研修体系を設けるわけでなく、初期から来てくれた人がそれぞれの作業体系を形づくり、それをブラッシュアップしてきた。これを共有することで、作業場所が離れることも少なくないなか、LINE等のツールも活用しコミュニケーションを取りつつ、仕事が進められていると自信を示す。

サニタスガーデンのみなさん(写真提供:山田広治氏)

雪の半年間を掘り起こす

長い積雪期間中の仕事として、サニタスガーデンでは、雪室じゃがいもと豆もやし栽培という新規事業を創り上げた。
雪室じゃがいもとの出会いは、村の仲間が自家用として雪に埋めていた芋を食べさせてくれたことだったと話す。あまりのおいしさに、どうしてこんなに甘くなるのかを調べたところ、氷温近くで貯蔵をする事で、通常、糖度5度前後の芋が糖度を高め、10度を超えるまでになることがわかったという。秋に収穫したじゃがいもを倉庫に格納すると、12月の下旬には雪が積もって雪室になる。そこでじっくりと冬を過ごした雪室じゃがいもは、「じゃが甘くん」というネーミングで、個人通販や、前稿で紹介した「DAITADESHIKAフロム青森」等で販売され、人気を博す。

(じゃが甘くんの紹介ビデオ(提供:DAITADESHIKA from青森)。じゃが甘くんは、2月中旬〜3月下旬にかけて、サニタスガーデンのオンラインショップのほか、DAITADESHIKA店内でも販売されている)

また、豆もやしは、もともと津軽の伝統野菜だそうで、30センチ余りの長さがある。かつては津軽の冬の食卓を彩る野菜だったが、今日の安価な緑豆もやしに代わられてしまったという。これを2013(平成25)年、サニタスガーデンのスタッフ山﨑さんが中心となり試験栽培を始め、風味や食感はもちろん、形状や栄養価といった幅広い観点から選定を進め、北海道の黒千石という黒豆にたどり着いた。
この黒千石は北海道の在来種で、1970年代に栽培が途切れていたものが2001(平成13)年に再生、地元の方々の努力により復活された品種という。ハウスの近くから湧き出る20℃くらいの温水を活用して栽培された豆もやしは、黒石市内の飲食店等で新たな名物となっているそうだ。
「雪の半年間をうまく掘り起こせたら、こんなにおもしろいところはない」と山田代表は言い切る。地元の知恵が、積雪の制約を強みに変え、他地域にない宝物を創り出す。

雪室じゃがいも(写真提供:山田広治氏)

豆もやし(写真提供:山田広治氏)

どのように価値を生み出し続けるか

サニタスガーデンは、このコロナ禍でも業績は伸びたという。野菜くらぶのお客様は、一部の業種に集中せず、さまざまな先がある。自分たちもお客様も多様だったから、大きな影響を受けずに済んだと、これまでのモデルを分析する。
一方、山田代表は、物流がこれからのリスクになると警戒する。政府の働き方改革により、2024(令和6)年4月1日から自動車運転業務(運送業ドライバー)に年間残業時間上限960時間の規制が設けられる。この影響により運送便の確保が難しくなるとともに、結果として運賃が割高にならざるを得なくなる可能性が高いと見立てを語る。首都圏からは離れ、決して交通の便が良いといえない立地にあるサニタスガーデンで、割高な運賃に見合う価値が出せるか、山田代表の懸念は大きいようだ。
これまでは、リレー出荷等の大きな枠組みの中で、首都圏周辺のマーケットに着実に出荷することを優先して考えてきたが、青森という立地を考えると、8時間圏内にある仙台をターゲットにし、その中でうまく回せる仕組みを考える等の工夫が必要になると先を見据える。

他方、天候等により野菜の供給が不安定となり、価格の乱高下が続くなか、世の中全体に余裕がなくなってきていることが気掛かりと山田代表は指摘する。消費側に余裕がなくなり、農産物だからといって、天候等による欠品や品質低下が許されなくなってきている傾向が強まり、これからの新規就農者を育てる場がせまくなっているのではと心配する。取り巻く環境の変化に、野菜くらぶの一員として青森支部を担う同社がどんな戦略を立てていくか、新たな経営判断が求められる日は近いかもしれない。

ただし、そんな環境変化を見据えるなかでも、山田代表は「強みは人です」と力を込める。同社も野菜くらぶも自律的に活動する多様なメンバーで支えられている。相互に補い合いながら、環境の変化に対してもしなやかに戦い、価値を生み出し続けられると期待できるのは、地域を超えて、想いや理念でつながった仲間とともに歩んできていた蓄積が生み出すものだろう。

インタビューを始めた時、「経営者であるというより、いいものを作りたいんです」と物静かに語り始めた山田代表ではあるが、日本の今後の農業の全体像までも経営者として広く見据えている。
野菜くらぶの一員として地域で長年活躍してこられた仲間との絆と黒石市の環境や立地を最大限に活かした、サニタスガーデンのさらなる進化に目が離せない。

(中部支部事務局長 内田文子)

<会社概要>
会社名  :有限会社サニタスガーデン(https://www.sanitas.jp
代表者  :山田 広治
所在地  :青森県黒石市大川原蛭貝沢201
経営面積 :約16ha(レタス、キャベツ、じゃがいも、黒豆もやし等)