2021年(令和3年)の農林水産物・食品の輸出額は1兆2,382億円となり、初めて1兆円を突破した。一方、政府は2030年の農林水産物・食品の輸出額目標を5兆円に設定している。この金額は日本の農産物・食品生産額の10%に満たないが、足元の輸出額から考えると大きな数値目標に思える。
この目標の実現に向け、政府では様々な施策を打ち出しており、輸出に関心を寄せる生産者も徐々に増えているように見受けられる。この施策のなかで、農林水産物・食品の輸出を目指す多様な事業者に寄り添い、プラットフォームとして支援しているのがGFPである。
今回は、3月4日(金)に開催されたGFP超会議にお邪魔し、GFP事務局の小栗史也氏(アクセンチュア(株)シニアマネージャー)と、GFP参加者の一員で輸出に携わる地域商社である株式会社萌す(きざす)の後藤大輔代表取締役にお話をうかがった。
GFPとは、農林水産省が推進する日本の農林水産物・食品輸出プロジェクトで、Global Farmers / Fishermen / Foresters / Food Manufacturers Projectの略称である。2018年(平成30年)8月に「GFPコミュニティサイト」を立ち上げて以降、全国各地から農林水産物・食品の輸出を意欲的に取り組もうとする生産者や加工、販売に携わる事業者など幅広い参加者が集まる。今年3月に登録者数6,000を超え、マッチング件数も4月の段階で1,200件を超えているという。
GFPに登録すると、まずは輸出に関するさまざまな情報提供が受けられるようになる。さらに希望者に対し、地元の農政局、自治体やJETROなどの輸出関係者による「訪問診断」を受けることができる。(当初は現地訪問、現在はオンラインでの対応となっている。)
訪問診断を受けるにはGFPに登録(登録申込みはこちら)のうえ訪問診断を申し込む必要がある。この診断作業により、参加者の輸出に関する全般的な課題についてヒアリングし、参加者が輸出に対して持っている情報を整理し課題を関係者一同での共有を進める。このことで、先々輸出に取り組む際に、関係者が事業者へのサポートを円滑に行えるようにしていくという。加えて、GFPコミュニティ内でのマッチングイベントや交流会の開催のほか、商社等とのビジネスパートナーマッチングが積極的に行われている。
GFPの特徴として、これまでになかった輸出に取り組む「コミュニティ」の設定が挙げられる。
GFP参加者のターゲット層として、経営規模や輸出の熟度などは特に設けていないという。その上で、実際にGFPを活用している参加者に目立つのは、
・一度輸出向け展示会に出展したことはあるが、定期出展には至らない。
・生産規模の維持・拡大が必要な中、販路確保の手段として輸出をしたい。
といった、いわば「輸出をしたいけれど、どうしたらいいかくすぶっていた」人が多いそうだ。
輸出に主体的に取り組もうとする生産者や商社がコミュニティで積極的に発信しコラボレーションを求めることで、情報交換が熱を帯び、ネットワークが自然と構築されていく。参加者の発信をキーに情報の共有が進むというのはコミュニティならではの機能といえよう。
「必要なのは、経営規模や輸出に対する熟度の大小より『輸出に対する気持ちの大中小』だと思います」と、GFPコミュニティで大きく成長したひとりという後藤さんは言い切る。
後藤さんは、今回のGFP超会議で取り組みを発表されたことをはじめ、このコミュニティにおいてGFP輸出塾の講師などを務める。本業では沖縄県内の漁港でせり落とした鮮魚をシンガポールや台湾、香港、ベトナムなどのローカル飲食店・ECサイト等へダイレクトに卸す貿易事業に加え、「地域商社」として日本各地の地域の産品(青果物・和牛・加工食品等)を輸出しながら地域の抱える課題解決にも挑む。
同氏は沖縄県外の出身で、しかも異業種から2015年(平成27年)に当社を創業してからわずか6年で、全国各地から年間270日輸出するようになった。ライブコマース(ライブ配信で商品を紹介し、配信者と視聴者で双方向にコミュニケーションを取りながら商品をその場で確認し販売する手法)のような新しい販売促進手法を活用するのはもちろん、他の商社との連携も柔軟に行っていると話す。
「年間270日輸出するようになったことで商品を海外に送る基盤ができます。そのベースを活かして、小ロットやテスト販売ができるようになりました」と後藤さんは自信を示す。定期的に流通する流れが確立された結果、今まで流通していない新しいものに対して投資できるようになったという。輸出先に対してこまめに目新しい商品をいち早く紹介できることで信頼関係がより深まり、生産者に対しても生鮮品のようなリスクの大きい商品を買い取ってテスト販売できる余力が生まれているという。
後藤さんが開くオンラインでの商談の場では生産者が同席することも少なくないそうだ。現地の店舗、生産者、商社の3者が一堂に会し、数量や価格などすべて隠すことなく真剣なやり取りを繰り返す。そのなかで、お互いの信頼関係が高められるだけでなく生産者が自身の生産物を目の前で評価されることを通じ、「うちの(商品)でいいんだ」という自信を持つことができ、輸出ペースが一気に加速するケースも多いという。
商談の場に生産者が同席し地域の価値を自ら語ることで、その食材が誰にとってどんな価値があるかを生産・販売双方が理解できることも大きい。「(オンラインで熱を帯びたやり取りを重ねたことで、)実際には会ったことがなくても会った気になれる。会えないからできない、ということはありません」と後藤さんは明快だ。
GFPコミュニティの活性化推進の核となる事務局の小栗さんは、コロナ禍によってオンラインで会うことが前提になったことも参加者の主体的なコラボレーションを加速させたと分析する。
従来輸出に取り組もうとする場合、年数回行われる展示会に出展して、商社とのつながりを作るのが一般的だった。展示会への出展の場合、ごく限られた機会に止まることが多く、その限られた機会を活かすべく事前に準備を徹底しても実際の商談は旬の時期に影響されるし、少ない機会のなかで輸出の手続きなどで手間取るケースも散見されたという。
GFPに登録する商社などのビジネスパートナーは150社程度とのことながら、そのうち10社程度は後藤さんのように小規模での販路開拓に長けているだけでなく、GFP事務局の呼びかけにも積極的に呼応してくれるため、さまざまなコラボレーションにつながっていると話す。
事務局は、GFPのプラットフォームの枠組みのなかでビジネスパートナーと生産者を適切につなぎ、生産情報から生産者が輸出にどんな不安を持っているかまでを整理したうえでビジネスパートナーに情報を提供する。このひと手間を介することでコミュニケーションロスを少なく抑え、安心して輸出に取り組むことができると自信を示す。
後藤さんは、「意欲のある人が多いから、加速するのが速い」と、これまでの実績を振り返る。輸出という新たなマーケットを目指し、共に組み立てに取り組む仲間だからこそ、すぐに儲けようと考えないで情報交換や商談に臨むことができると笑う。商社同士も情報交換を重ね、時には自社が担当する産品を分担することで、今後は物流などの共有にもチャレンジしていきたいと後藤さんは将来に向けて展望する。
小栗さんと後藤さんは、今後、「各地にチームGFPを作りたい」と力を込める。後藤さんのように各地を飛び回るプレイヤーと、地域に根ざしたコーディネーター兼事務局を担う拠点が増えることで輸出が加速するとふたりは笑う。
「チームGFP」の事務局は第三者の視点から困りごとを聞くことができ、商社とは機能が異なる。各地に事務局ができ、産地のトレーニングやコーディネート、次世代の担い手の発掘と育成を行うことで、各地に輸出拠点を確立していく動きが進み輸出の可能性が飛躍的に高まるだろうと小栗さんの構想は明確だ。
生産者の中にはSNSを使わない人もいるし、リアル(生産)の場でこそ雄弁に語れる人も少なくない。地域に根ざしたコーディネーターがいればそうした状況にも柔軟に寄り添うことができる。すでに国内に大規模な生産・販売網を構築している法人等の営農組織にとっても、後藤さんのような事業者の手を借りて小規模なテスト販売を行うことはもちろん、現在展開されている「GFPグローバル産地づくり推進事業」等を活用することで大規模な輸出にも効率的に対応することもできると将来を見据えている。
3月4日の「ネットGFP超会議 ~輸出ベンチャー・大学生が切り拓く輸出の未来~」において、農林水産省の杉中淳審議官(輸出促進審議官兼輸出・国際局)は、国内の食品市場の縮小とアジアの伸長を指摘し、「日本の農林水産物の輸出は他の先進国に比べ遅れている。国内市場しか向いていない稀有な国」と話す。そのうえで、これまでが「決められた作り方でものを作れば自動的に流れるしくみ」で、マーケットインでなかったと振り返る。
これからは、頼りにしてきた国内市場も縮小する一方で、1千万人の現役世代の引退に伴い生産規模も縮小する2040年問題の危機にも言及する。そのうえで、海外マーケット向けの産地の育成、海外にチャレンジする食品事業者の育成、効率的な輸出物流の構築にチャレンジする流通事業者の育成を政策として最重要課題とし、その第一歩として、“チャレンジャー”を発掘・育成するのがGFPであると、この事業の取り組み目的を解説する。
(GFP超会議での杉中審議官講演)
今日のGFP超会議で取り上げられたもうひとつのチャレンジャーは大学生だった。GFPのインターンやアルバイトを通じ輸出業務に携わったきっかけから直接の輸出活動に挑んだり、学生ならではのツールを活かしたプロモーションが生まれたりといった、さまざまな分野で未来の輸出の担い手が生まれているようだ。
発表を行ったひとり、京都芸術大学マンガ学科3年の石塚千夏さんは、沖縄の泡盛を海外にPRするストーリーマンガを作成し、あわせて泡盛のラベルもデザインした。マンガはシンガポール(英語)や台湾(中国語)・ベトナム語に翻訳され、泡盛とともに海外の飲食店やホテル向けに販売されたという。
彼らのような大学生の中から、地域で輸出をコーディネートするなど、さまざまな形で農産物輸出をサポートする人が出てくる日もそう遠くないように感じられた。
輸出という手段をもとに地域の生産から流通までの活性化を目指すGFPが、これから海外を目指す生産者等の起爆剤として多くの事業者の皆さんに利用されるよう、引き続きその活動を注目したい。
(中部支部事務局長 内田文子)
<団体概要>
団体名:GFP農林水産物・食品輸出プロジェクト(https://www.gfp1.maff.go.jp)
設 立:2018年8月
登録者: 約6,200団体(2022年4月現在)