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食×農の現場から
REPORT | 2022年6月9日

需要者ニーズに応え、JAとの連携で活動の幅を拡げる~株式会社ジェイエイてんどうフーズ

株式会社ジェイエイてんどうフーズ(以下、てんどうフーズ。)は2001(平成13)年、天童市農業協同組合 (以下、JAてんどう。)の“特販事業”をメインに移管を受け、株式会社として設立した。
当初は、JAてんどうの青果物の通信販売事業、コメの搗精および販売事業、店舗小売業、葬祭事業を別会社化する形でスタート。その後、JA産品販売拡大の取り組みとともに、需要サイドのニーズへの機動的な対応に向け、JAてんどうと密接な連携のもと、順次、JAてんどう以外にもその活動エリアの拡大を続ける。

今回は、てんどうフーズを訪ね、その活動を牽引する森谷浩行代表取締役社長(以下、森谷社長。)と営業部の小林修一シニアマネージャー(以下、小林SM。)、清水祐介課長(以下、清水課長。)にお話を伺うとともに、諸施設を拝見させていただいた。

ジェイエイてんどうフーズ・森谷 浩行代表取締役社長

事業概要

てんどうフーズが位置する山形県天童市は、山形盆地のほぼ中央部に位置し、最上川の清流が水田を潤す。山に囲まれた地形により、昼と夜、夏と冬の寒暖差が大きく、積雪の多いイメージが強い山形県の中では比較的降雪は少ないという。山形市と仙台圏に近く交通の便もよいこの街では、コメに加え、全国1位の栽培量を誇るラ・フランスやさくらんぼなど果樹栽培が盛んだ。

ラフランスセンター周辺風景。果樹園を囲むように耕作地が並ぶ

てんどうフーズでの農産物取り扱いは、お米部門、果物部門、通販部門を持つ営業部と店舗部門から成る。
同社設立の萌芽は、1993(平成5)年ごろ、当時 JA内にあった特販部門が、生産者の手取り収入を高めるため、市場中心の営業に加え地元の有力な産品である果物ギフトの末端販売を強化したことから始まった。その後、1995(平成7)年の新食糧法の施行を契機に、当時の組合長が管内で10万俵作られるコメも自分たちで販売しようという方針を固め、ライスプラントを設立、販売強化に着手したという。
当初は地元の旅館などへの販売からスタートしたものの、ほどなく、大手商社系のコメ販売業者とも連携して、より市場の大きい関東へと展開することになった。これと歩調を同じくして、競争力強化のため、経営の意思決定を早めようと株式会社化に進んでいったと、その狙いを話す。

「お米部門」は、管内のコメを中心に、自社工場で精米したものを炊飯会社、加工米飯会社、総菜弁当会社等の中食・外食産業や量販店等へ販売する。
現在、圧倒的なウェイトを占める業務用米の販売拡大の狙いは搗精工場の稼働の効率化にあったという。コツコツと販売を拡げてきた量販向けに対し、業務用米は比較的納入スケジュールが明確なことから工場等の稼働計画が立てやすく、効率運用が可能となる。一方、販売量の拡大や需要者側のニーズへのきめ細やかな対応に向けて品揃えの拡大と量の確保が必要となり、JAてんどう以外からの集荷も拡げていくこととなったと話す。この決断に向けては、営農指導や集荷を担うJAてんどうと時間をかけて意思疎通を図っていったと振り返る。

このコメ事業に限らず、同社の幅の広い事業活動の背景には、JAてんどうはもちろん山形県内の農産物を高く売っていこうという目標がベースにある。同JA管内にとどめず他JAや他県の農産物をも集めることを通じ、安定的に効率よく販売することが可能となる。最終目標は、JAてんどうと同様、農家組合員の手取り収入の拡大を目指すことにあるので、同社の取り組みに同JAからの理解は得られていると自信を示す。なお、この取り組みを通じ、同社のコメの取り扱いは年80万俵を越え、同JAの生産量を大きく越える。

「果物部門」では、さくらんぼ、ぶどう、桃、ラ・フランスなど山形全域の果物を青果店、百貨店、量販店などに販売するほか、特産の果物を加工したゼリー、アイスクリーム、ジュースなどの自社ブランド商品も販売する。
「通販部門」は、直営インターネットショップ「天の童(てんのわらべ)」の強化に取り組むとともに、大手ショッピングモールにも出店する。
「店舗部門」は、道の駅「天童温泉」に隣接する産直店「サン・ピュア」で青果物、土産物を販売するほか、同じ道の駅内でラ・フランスをメインとしたフルーツパーラー「Tento La France Factory」の2店舗を運営する。

自慢の果物がたっぷり詰まったゼリーは人気商品(てんどうフーズ通販サイト「天の童」より)

フルーツパーラー「Tento La France Factory」で人気のご当地ジェラートはカップアイスでも販売される(てんどうフーズ通販サイト「天の童」より)

また、この他に葬祭事業も担っており、JAてんどう経済事業との役割分担も進む。

通販サイト「天の童」トップページ

お客様に寄り添い、お客様が求めるものを用意する

繰り返しとなるが、JAてんどうの子会社でありながら、同JA管内の生産物に限らず幅広く取り扱うのがてんどうフーズの特徴である。
コメでは、先述のとおり県内・県外各地のJAとのネットワークや米穀取扱業者との連携のうえ、さまざまなコメを集荷する。「お客様の欲しいものを用意します。管内ははえぬきがメインの品種ですが、それだけでは業務用米向けには弱い」と森谷社長は語る。
販売先は業務用が中心となっており、外食・中食など幅広い。業務用では高い水準の品質要求に比べ価格は抑えられている点で運営は厳しいが、発注量が事前にわかり、オーダーに合わせ当日精米・出荷できるのは何よりの強みだという。

また、業務用向け販売について、「弊社設立時に品質管理の厳しいところと付き合ったことで、自社製品の品質を高めることができました」と森谷社長は当時を振り返る。
業務用では大きな釜で大量に炊飯する。機械化された炊飯ラインで常に安定して炊飯するためには、必要量のコメを、精米レベルはもちろん、吸水に影響を及ぼす品質も安定して揃えることが求められる。加えて、納品先によっては外袋に細かいチリがついただけでも受け入れてもらえなかったこともあったと話す。「自分たちの甘さに気づけましたし、品質を高めたことがその後の営業活動での自信につながりました」と森谷社長は笑う。

本社に隣接する新工場では、①最新設備の導入により、荷受けホッパから計量タンクまでコメの流れる距離を短くし、衝撃回数を減らすことで砕粒発生率を削減、②インデンツシリンダーを採用し大・中砕米の除去を可能に、③高精度の色彩・異物選別機3基、インデンツシリンダー1基、シフター2基による重層的なチェックにより異物除去を徹底し、クライアントの厳しい要求水準を満たしつつ引き受けたコメを無駄にしないシステムを実現した。
これらの最新設備導入等を通じ、同社では、生産から販売に至る一貫した管理システムを構築し、おいしく安全なコメの供給を進めていると自信を示す。

精米ラインの稼働状況を常にモニタリングする

異物選別機。ファクトリーオートメーションが進んでいる

てんどうフーズでは、業務用米の販売でのこうした経験を果物や野菜部門にも積極的に取り入れていこうと試みる。
一例として、2004(平成16)年度から稼働のJAてんどうのラ・フランスの選果・出荷施設「ラ・フランスセンター」で導入している果物では初めてというトレーサビリティシステムの活用を挙げる。この仕組みにより果物1個ごとにコード化したラベル(計測情報)を貼り付け、生産者・選果日を伝えることができる体制となっているが、今後は、同JAとの連携を深めつつ、同社においてこの機能のさらなる活用・拡充を図りたいと構想を拡げる。

施設を含めた業務体制の整備

2020(令和2)年には、お米・果物・通販部門の情報集約と連携を高めるため、それまで分散していた3部門を一元化できる新社屋へ移転した。新社屋は高速インターチェンジの目の前で物流経路に恵まれる。敷地面積に比較的余裕があることから、運送会社と連携して保管施設を整備し、ここを拠点に物流網の整備を進めたいと話す。その取り組みのなかでも、JA組合員の手取り収入の拡大に向け、「目指す方向が同じJAがあれば一緒にやりたい」と森谷社長は積極的だ。

また、研究開発による現場の合理化にも力を入れる。
2021(令和3)年度に参加した農水省の流通合理化の実証実験では、四角いフレキシブルコンテナバッグ(以下、フレコン。)を用いた試験を行っている。この実験では、従来の紙袋での流通と、推奨フレコンでの積み降ろし作業の比較と、出荷時に測定・作成する玄米の品質検査結果をQRコード化しフレコンに添付する形式での情報共有の効果を測定・検証した。
それまで、フレコンは1枚あたりのコストが高い、使い回しができないなどのリスクが考えられ敬遠されてきたが、今回の実証実験の結果、紙袋から推奨フレコンに変えた場合、作業時間、調達コスト、運送コストの面から大幅な時間、コストの削減につながる事が確認できたという。また、使用した推奨フレコンは素材的にも糠の搬出用として再利用ができることも確認した。
測定した玄米データをQRコードで管理する実験では、玄米の受け入れ業務がスムーズになることはもちろん、QRコード化することで等級以外の多くの情報を添付することができることから、販促にも役立てる可能性を見出している。

実験結果の抜粋

この実証実験に付随して、小林SMと清水課長は、物流現場の大きな変化を実感していると話す。
もともと現場では、効率化への対応以前の問題として、従来の30kg袋を手作業でいくつも積む作業を強いるようではトラック事業者が来てくれないという危機感があった。今回の実験結果はそれらへの対策として有効であることはもちろん、彼らが感覚で掴んでいたフレコン利用の優位性等を数値化したことを通じ、流通コストが確実に下げられることが分かったという。一段と競争の激化が見込まれるコメの販売事業をにらんで、物流改革へのさらなる検討にも力が入る。

省力化のため、パレットに積むロボットを取り入れている

てんどうフーズ清水課長

流通を全体的に捉えた再構築が必要

小林SMは青果流通に携わった前職の経験を活かすべく、請われて、“シニアマネージャー”として、てんどうフーズに加わった。そんな小林SMは、流通の再構築の必要性を指摘し、そのために、JAてんどうを含め自分たちが「生産者との関係性を修復する必要がある」と話す。
背景には、足下でのコメと果物、それぞれの市場環境の変化があるという。
令和3年産のコメは全国的に価格が下落し、生産者はたいへん厳しい状況となっている。コメの消費量が明らかに減る中、全国各地でそれぞれが工夫を重ね作られているコメは品質と価格の両方で選ばれる産地にならないと生き残れない。このため、集荷にかかる競争もどんどん厳しくなっているという。
他方、さくらんぼでは過去2年間天候不良で不作が続き、市場でも商品が不足し卸や集荷業者間での取り合いになったという。しかし、管内の作況以上に、JA向けの出荷が減ったことが、組合員にJAの販売力が評価されていないことの表れと心配する。
生産者にとって、JAは販売に向けた実需者との“接点”であり、“接点”が信頼を受けてこそ、てんどうフーズの活動が活きることとなる。“接点”となるJAは、集荷した農産物をいかに高く売ることができるかにより生産者の信頼を引き寄せることができる。この信頼を得られるようJA職員の意識を変えることが今まさに求められ、これを通じて、「生産者との関係性の修復」が進むのではと小林さんは期待を込める。

地域生産者のさくらんぼの樹。月山錦という黄色い実をつける珍しい品種で、大きな樹のあちこちに花がかたまって咲く。(撮影:4月下旬)

てんどうフーズ・小林SM

てんどうフーズはJAてんどうの子会社ではあるものの、約100名の従業員のうち同JA出身者は森谷社長含め3人しかいないという。実際の事業運営においても、同JAとてんどうフーズは互いの機能を補完する関係ではあるものの、常に歩調が揃うとは限らないようだ。
小林SMは、JAてんどうは“顧客”が「組合員」であるのに対し、てんどうフーズの“顧客”は「消費者」であるという顧客の捉え方の違いに起因すると分析する。この違いをベースに認識しながら、てんどうフーズでは顧客である「消費者」が何を求めていて何を提供できるのかということを基準に、たとえJAてんどうの希望と異なったとしても、同社の立場を先に伝えることを心掛けているという。
ただし、意見がぶつかるように見えても、ベースの想いは同じだ。同社にとっても、組合員が事業の持続的発展に欠かせないパートナーであることは変わらないという点で、両者の連携に不安はない。

小林SMは、「農業を魅力的な仕事にし、安定した働き先のひとつとして選ばれることで地方の人口減にも貢献できるはず」と語る。JAてんどうでも、現在、「日本一農家に寄り添うJA」となり、農家の所得向上のためにそれぞれのプレーヤーの意識を変えようと改革を進めているという。まさに、地域農業の魅力向上に向けて、両者の連携はますます重要となることはいうまでもないだろう。

販売戦略を練り直し、コロナ禍を乗り越えた産直店「サン・ピュア」

天童市は観光業が盛んで、「サン・ピュア」はこれまで観光客が来店客の7割を占めていた。しかし、このコロナ禍で観光客が来なくなったため、売上も激減したという。そこで、直ちに、観光客に変わるターゲットへの対応の検討を進めたと話す。市場からの農産物仕入れも行い、年間通じ地元客にも喜ばれる品揃えを目指し、大きな変貌に向け取り組んでいる。この変貌を通じ、「サン・ピュア」の販売は順調に回復しつつあると自信を示す。さらに、地元客集客の強化を通じ、野菜の出荷会員も240人を数えるようになり、昨年比130%くらいの回復となっているそうだ。
一方、近隣に類似店舗がないことから、今後の観光需要の復活もにらみ、地元有名店の商品の仕入れも増やしていきたいと、このてんどうフーズの中核施設での観光客対応の活性化にも意欲をみせる。

道の駅に隣接した直営店「サン・ピュア」

他県産のものを先んじて市場から取り寄せ陳列することで、地物が並ぶ時期への期待が高まるという(撮影:4月下旬)

さくらんぼは早くもハウス栽培のものが並んでいた(撮影:4月下旬)

数多くの品種のさくらんぼが山形の初夏を彩る(撮影:4月下旬)

今後を担う人材の確保

てんどうフーズでは、今後の更なる発展に向け、人材の確保と育成に力を入れたいと森谷社長は力を込める。
農業が主役である当地において、業容拡大を進める同社の求人に人が集まらないことへの社長の危機感は強い。自社の魅力を高めるべく、若い職員の能力を引き出せるような組織運営に努めていると話す。その際のポイントは「スピード感」、「挑戦」の2つと明快だ。
「スピード感」は、森谷社長が若かりし頃の苦い経験に基づいたものというが、即断即決できる体制であるべきという考えは社内のさまざまなところに息づく。「スピード感」を維持、加速するため、「どうしますか?」と聞かない、自らが判断し「挑戦」する精神も重視していると話す。
もちろん「挑戦」だけではなく、一方で「止めることも大事」と事業面での安全確保への歯止めも忘れない。スピード感をもって取り組み、必要であれば中止や撤退も厭わないという方向性を社内で明確にしておくことで、職員は安心してスピード感をもって挑戦を続け、成果を挙げることができる。そして、これが人材成長にもつながるのだろう。

エリアの制約にとらわれず、県内・県外の他地域とも連携して山形県をいかに売っていくか、県内農業の発展に注力するてんどうフーズの発展と若手職員の方々の一層の飛躍を期待したい。

(中部支部事務局長 内田文子)

<会社概要>
株式会社ジェイエイてんどうフーズ(https://www.ja-tendofoods.com
創 業:2001年4月2日 天童市農業協同組合より事業移管
代 表:代表取締役社長 森谷 浩行
資本金:5,000万円
所在地:山形県天童市大字蔵増1475番地10