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食×農の現場から
REPORT | 2024年10月11日

地域のりんごの生産を守り、次の世代に繋ぐ! ~ (株)RED APPLE(赤石農園/青森)

はじめに

 今回は、当機構が令和元年度に立ち上げた「東北食農塾」参加メンバーのなかから、青森県でりんご生産等に取り組む(株)RED APPLE(レッドアップル)[赤石農園](以下、レッドアップルという。)の赤石代表に話を聞いた。
 当社は弘前市や藤崎町に圃場や選果場を持ち、22haでりんご、6haで米を生産する農業法人だ。りんごについては、自社で270t、連携する農家からの仕入れを含め約500tを取り扱う。21名の正社員を擁し、10名以上の従業員で常時圃場を管理する。「ふじ」を中心に、消費者の求めるりんごの提供に向け25種類程度のりんごの生産を行うとともに、試験圃場では、「V字トレリス」栽培をはじめ、日本に合った様々な高密植栽培の研究に取り組む等、日々、新たな挑戦を続ける。
 「青森県内のりんごの生産を守り、次の世代に繋ぎたい」と話す赤石代表の話から、これまでの経緯と目指すもの、そして、その想いを探りたい。

農業に良いイメージが無かった

 赤石代表は、実家でりんご生産を行い、農業が身近な存在でありながらも、「朝から晩まで仕事をしていて、農業で食べていくのは苦しい」というイメージがあったと笑う。そのため、就業当初は、建築や営業など、農業とは異なる仕事に就きながら、家族に頼まれて収穫等の簡単な農作業を手伝う程度だったと、当時を振り返る。一方、実家での生産に段々と人手が必要になるなか、必要に迫られて、27歳の時に、農業に良いイメージが無いまま就農したという。
 実際、就農してみると、「朝から晩まで仕事をしていて忙しい」というイメージ通りで、就農してから3年ほどは想像していた以上に苦労することが多かった。もちろん現在は、農業が好きだが、当時は農業が嫌いだったと明言する。

株式会社RED APPLE 赤石代表

同年代の生産者との交流と師匠との出会い

 忙しい日々が続くなかではあったものの、赤石代表は、これからに向け、周りの生産者との情報交換や研修会等に積極的に顔を出すようにしたという。
 青森県りんご協会が主催の基幹青年農業生産者向けの初心者研修会に25期生として2年間参加したことで、農業(生産)に対する印象が変わったと振り返る。赤石代表は、当時を思い出しながら、「研修会には、同年代の若者がいた。若い世代とは、飲み会で交流を深めることが多く、これまでは自分は、農産物を販売する方(流通側)が面白いとばかり考えていたが、研修会やその後に開かれる飲み会に参加して、生産にも魅力があると考えが変わった。」と話す。
 さらに、2年間の研修会が終わった後、師匠となる生産者に弟子入りをしたことで、生産が楽しいものだと思えるように変わってきたという。このような、同年代の生産者との交流や師匠との出会いをきっかけに、農業(生産)に一生懸命に向き合い、次第に、実家の農業の実状(赤字)に目を向けるようになっていった。そして、この状況を改善させるため、学んだ技術を活かし生産を強化するとともに、あらためて販売にも注力していくようになったと話す。

周り助けもあり、どんどんと農業の虜に

 赤石代表がまず力を入れたのは、ウェブサイトでの販売だった。開始直後は、知り合いの専門業者と連携しウェブサイトで販売をしていたが、現在では、自社サイト等での販売を拡げている。販売でも生産でも、困っていると助けてくれる人がいたからここまでやってこられたと話し、人とのつながりが、自分が農業にのめりこんでいく大きな要素だったと振り返る。
 また、最近では、栽培面でも人とのつながりを活かし、工夫を進め、生産技術の向上に取り組む。一例として、近隣でりんご栽培を行う(株)日本農業と連携し、高密植栽培を先進的に取り入れている長野県や海外で生産をするニュージーランドの圃場等を視察し、「V字トレリス」栽培を含め、日本に合った栽培方法を探求していると話す。
 高密植栽培では、大量の専用の苗木やトレリス(果樹棚)等が必要になるため、イニシャルコストがかかるが、収穫できるりんごの量は、慣行栽培と高密植栽培を比較すると、慣行栽培が2t/10a(14年程度の木)に対し、高密植栽培では、(樹形にもよるが、)6~10t/10a(5年程度の木)と、明らかに優位と自信を見せる。
 ただし、自身ではイニシャルコスト負担も勘案し、新規に取得した園地(慣行栽培)転換は急ぐことなく徐々に進めていく方針という。しかしながら、この高密植栽培は剪定技術がシンプルで、慣行栽培のように特殊な技術が不要な点で、これからの園地拡大に向けては必須の取組みと力が入る。

高密植栽培の1つ、V字トレリスで生産する圃場にて説明する赤石代表

わい化栽培の圃場

 一方、赤石代表は青森県りんご協会の第7期剪定士としても活動する。どの果樹であっても剪定は、その年の収穫や次年度以降の生産にも関わってくる大切な作業の1つ。次世代へ剪定の技術を継承するため、剪定士として後進の指導にも余念がない。
 加えて、土壌水分や成分等を考慮したデータ活用や前記のとおり栽培方法の研究等にも力を入れており、国内(青森)でのりんご生産の採算向上や持続可能な経営の確立についても、前出の(株)日本農業と共同で研究を行う。
 このように周りを巻き込んだ様々な取組みに、赤石代表の農業に対する探究心と好奇心、地域のりんご生産振興への想いを強く感じた。

りんごの木の誘引の様子

りんごを多くの消費者に届けるために

 レッドアップルでは、前述のとおり先代から実施しているFAXやDMでの販売や自社ウェブサイト食べチョク等の他社サイトでの販売を行うが、様々な方法で販売をする場合、日常の問い合わせに対応することが重要となる。
 繁忙時や休日等、人繰りが難しいケースも発生するが、当社では日常の受け答えの大切さを最優先に、必ず誰かがタイムリーに対応できるように人員をやり繰りしシフト調整していると話す。確かに、食べチョクのレッドアップルのページを確認すると消費者からの質問に対して、一つ一つ丁寧に回答していることが確認でき、注目に値すると言えよう。

消費者からの問い合わせに対応する様子

 当社では、このように多様な販売方法とLINEやInstagramFacebook等のSNSでの積極的な情報発信を通じ、自社のりんごだけでなく活動状況等のPRも行っている。消費者の求めるりんごの提供に向けた情報発信と収集、農作業におけるプチ情報や新人生産者の生産の取組みを消費者へ届けており、自社のファン作りへの目配りも十分だ。

日々成長するレッドアップル

 レッドアップルは、若手の採用、育成にも積極的に取り組む。新入社員は20代が多く、前記のとおり自社の情報を多数発信することで、農業に興味のある若者に、自社や青森県内におけるりんごの生産を知ってもらう機会を増やしている。
 加えて、若者が働きやすい環境づくりにも力を入れており、多数の圃場をQRコードの位置情報で管理をすることで、移動がスマートにできるほか、日報を通じた振り返りの場を設けることで、日々の農作業を単なる「作業」にするのではなく、しっかりと「勉強」と「成長」の場として活用している。

従業員とのコミュニケーションも大切にする

 また、選果場の整備・強化に取り組んでおり、大型の自動選果機や選果や集出荷データのデジタル化を進め、常に集出荷データの本部との共有を実現するなど、業務効率化への投資にも前向きだ。データ活用では、選果したりんごのデータを全て蓄積するなかで、その日に収穫した木と紐づけて、その木のりんごの生産の良し悪しを考えることができるようにしているといい、業務効率化とともに、次年度へ向けた生産力強化に向けたデータ活用にも余念がない。

選果場内の様子と選果機

終わりに

 以上のとおり、レッドアップルでは地域のりんご生産の維持・発展に向けて多岐にわたる取組みを実施している点で注目に値するが、その全てに共通する「青森県内のりんごの生産を守り、次の世代に繋ぎたい」という赤石代表の想いの重さは見逃せない。
 青森県内では、りんごの生産量が減少しており、自社が圃場面積を拡大するなかで、レッドアップルでは、生産を止める生産者から、極力、圃場を譲り受けているという。自社として、そのような生産者の受け皿となれるように取り組むことはもちろんだが、自身の多くの取組みを通じ県内の各地域に自社のように受け皿となるような農業法人が生まれると良いという視点を忘れていない。生産者を守ることも大切だが、その根幹にあるのは地域でのりんごの生産そのものを守りたいという想いがひとつの大きなポイントとなっているようだ。
 青森県内のりんごの生産を守り、次の世代に繋ぐための赤石代表の想いとその取り組みに、今後も注目していきたい。

(執筆:公益財団法人流通経済研究所 研究員 菅原彩華)

 

企業概要

会社名:株式会社RED APPLE(レッドアップル)[赤石農園](ウェブサイト
代表者:赤石 淳市
所在地:青森県弘前市三世寺字色吉312-2