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食×農の現場から
REPORT | 2021年4月14日

新鮮なものを速く・快適に運ぶ 〜JR東日本の新幹線荷物輸送サービス

農産物流通の課題のひとつに、最もおいしい状態の完熟した果物や野菜を消費者に届ける難しさがある。そもそも配送自体に時間がかかることはもちろん、大型トラックやコンテナでの輸送では、どんなに気を配っても、移動行程のなかで品物が傷みやすいという点が避けられない。
JR東日本では、この高鮮度に付加価値を求められる農産物輸送の解決策として新幹線の速さと乗り心地に着目した。通常は乗客の輸送のみのサービス提供を行ってきた新幹線の余剰スペースの活用を検討、もともと車内販売用ワゴン等を収納していた新幹線の荷室スペースを使い、小口の荷物輸送を請け負うサービスを2017年から始めたという。

今回は、サービスの実際の様子を見せてもらうため、JR東日本事業創造本部経営戦略部門列車荷物輸送・SCMプロジェクトの島本様に東京駅をご案内いただいた。

ご案内いただいたJR東日本の島本様

「新幹線荷物輸送サービス」(仮称)とは

JR東日本では、通常運行している新幹線に荷物を乗せてスピーディに安全に運ぶという「新幹線荷物輸送サービス」(仮称)を売り出している。さまざまにイベントを展開、すでに(株)ポケットマルシェとの間で農産品を産地から新幹線で運び産直マルシェに取り組む等の報道でご存じの方もいると思う。
JR東日本が訴えるこのサービスの特長は次の3つのポイントという。

○速達性

JR東日本が運行する新幹線は、国内の営業列車のなかで最速を誇る320km(東北新幹線の一部区間)で運行を行う。たとえば、秋田駅から東京駅までトラックでは9時間ほどかかるというが、秋田新幹線こまちでは約4時間(※)で届けることができるという。(※秋田駅東京駅行のこまち20号の場合)
たとえば、これを利用すると、朝、畑で収穫された野菜や果物を秋田駅に持ち込むと、夕方には都内の駅構内で、無理なく販売できることになるようだ。

(資料提供:JR東日本)

○高度な輸送品質

新幹線は、たくさんの乗客を快適に運ぶべく、スピードの速さと振動の少なさを両立させている。前段で新幹線の速達性について触れたが、振動も在来線の貨物専門の陸上輸送に比べて、間違いなく小さそうだ。また、新幹線の定時運行性の高さも魅力的である。
加えて、最小で1箱からの輸送ができるというのも魅力と言えそうだ。JR東日本では、さくらんぼや高糖度のとうもろこし、活魚などを届けた事例を次々に発表している。デリケートな食品や地産品のほか、小型電子部品などにも拡大させたいと力が入る。

○各地に広がる新幹線ネットワーク

このサービスは、現在のところ、荷物の積み下ろしに十分な時間が割ける新幹線の始発駅と終着駅の2点間の輸送に限られている。しかしながら、東京を起点(もしくは終点)に、JR東日本の新幹線ネットワークは、東北、北海道、北陸の各地に広がっており、路線ごとに数か所の始発、終着が並ぶ。さらには、今後、在来線特急の利用等も計画されているという。

積み込みの現場を見学して

冒頭でご紹介の島本様のご案内により、早速、東京駅で、実際に荷物を積み込むところを見学させていただいた。
朝8時50分すぎ。ラッシュ時間は過ぎたとはいえ、どんどん新幹線が到着・発車する中、今回荷物を積み込む「なすの255号」が入線してきた。

入線する新幹線

到着した新幹線が折り返す間に積み込みを行う。

荷物の積み込みは、一般のお客様が乗り込む前、車内清掃と同時のタイミングで行われる。

積み込みをご担当されるジェイアール東日本物流のご担当

荷物は手渡しで車内に運ばれる。

積み込みの間、乗客は車内に入れないようになっている

始発時の車内清掃のごく限られた時間を利用して荷物を積み込むので、時間はほんの数分であるが、テキパキと積み込み作業が進む。今回はワゴン1ケース分ながら、積み込みが完了するまでの所要時間はわずか3〜4分だった。こうした技術やノウハウが新幹線の高い定時運行を支えていることに改めて感心する。

積み込みの模様を拝見した後は、積み込んだ荷物がどのように駅構内まで運ばれたかを見学させていただく。
ホームの下にはダクトなどと一緒に巨大な通路が縦横無尽に張り巡らされていた。その通路を使い、荷物やスタッフの方が移動する。島本さんのお話では、この通路は東京駅鍛冶橋駐車場までつながっているとのことで、首都高速からのアクセスもよい。駅で待ち受けて、即現地まで運ぶといった機動性を求める輸送との相性は想像以上に良さそうに感じられた。

鍛冶橋駐車場(写真提供:JR東日本)

東京駅の地下からホームまでつながっている(写真提供:JR東日本)

サービス化に向けて

「新幹線荷物輸送サービス」は、現在は駅構内での催事向け輸送などスポット的な利用に限られているとのことながら、JR東日本では、今後定期輸送を拡大していきたいと話す。
現在は、新幹線車内での積載するスペースが限られていること、輸送ルートは新幹線の始発駅と終着駅の間のみで途中駅での積み下ろしができないこと、始発駅と終着駅の駅舎外は荷主自身が配送の手配をしなければならないことといった制約があるが、JR東日本は徐々にサービスを拡大・向上させていきたいと意気込む。

JR東日本によると、この冬の間の企画だけでも、完熟いちごなど各地の農産物を都内で販売する一方、首都圏の駅弁や日持ちしない菓子を地方都市で販売するといった取り組みも積極的に展開されている。
完熟した果物や採れたて野菜のおいしさは、都会の人々にお裾分けしたくてもなかなかできない。食べて良さを知ってもらえれば、新幹線の速達性等がもたらす価値はきっと多くの人々に理解されることだろう。
コロナ禍で思うように外出できない時期が続いているが、新幹線が各地のよいものをスピーデイかつ丁寧に運び、都会と地方の往来のギャップを埋めてくれる未来を期待したい。

(中部支部事務局長 内田文子)

「新幹線荷物輸送サービス」のお問い合わせ
東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部 経営戦略部門
列車荷物輸送・SCMPT 島本 陽介 様
TEL:03-5334-1265