2022年4月27日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
「人を募集しても優秀な人が来ない。」筆者が全国各地で生産者と意見交換をしている中で度々聞く言葉である。雇用する側としては誰しもが「優秀な人」を雇用したいというのが本音だろう。一方で、より具体的に話を聞いてみると雇用する体制が整っていない場合も多い。今回は、「担い手の確保」という課題から法人化について考えてみたい。
図表1は法人化している農業経営体数の推移のグラフである。2005年に19,136経営体から2020年には30,707経営体へ約1.6倍に増加している。また日本政府は2023年までに法人経営体数50,000法人にすることを目標にしており現状ではかなり厳しい状況ではあるが、増加しているのは間違いない。
また、農林水産省では法人化のメリットとして図表2のように「経営管理」「経営判断できる体制」「経営の継承」「投資財源の確保」「雇用の確保」の5点を挙げている。特に「雇用の確保」にある、経営規模の拡大や販売・加工への体制づくり、また若年層の雇用による組織のバランスは経営方針にもよるが、持続可能な体制を構築するという点でも賛同できる。
人を雇う場合に二つの選択肢に分かれる。一つはパート・アルバイトであの雇用であり、もう一つが正社員としての雇用である。前者の場合は収穫の時期などの季節雇用も含まれるが後者の場合は年間雇用として農作業だけでなく、経営人材や管理職人材など、様々な役割を求められる場合が多い。
ここで冒頭の「優秀な人が来ない」という悩みに戻るが、パート・アルバイトで「優秀な人」を求めている場合が多いというのが筆者の印象である。しかし、働く側としてはパート・アルバイトの立場で経営や管理職等の責任を負いたくないという人がほとんどであろう。そのため、経営人材や管理職を求めるのであれば正社員としての雇用することを考える必要がある。
現実問題として多くの生産者が正社員を雇用するための給料や健康保険・年金等の福利厚生面等の体制が整っていないのが現状である。その理由として大きいのが個人事業主か法人かの違いが大きいと筆者は考えている。
個人事業主の場合、売上から経費を差し引いて残った金額が所得になる。そのため、特に農業であれば年によって生産量も単価も変わるので売上も変わり、また資材や燃料費なども変動するので経費も変わるため当然所得も年によって異なる。個人事業主が正社員を雇った場合、正社員の給与より事業主の所得が少ないということが起こることもありうる。
一方、法人であれば事業主は役員として「役員報酬」を計上しなければならない。そのため、個人事業主の残った金額ではなく、会社として決めた報酬を受け取ることができるのである。この話をすると、生産者からは「どれだけ売れるかわからないので報酬を決めれない」という声を聞く。確かに事業主の所得を役員報酬として固定した結果、売上よりも経費が多くなると「赤字」となってしまうのは間違いないが、「自分が報酬をもらうためにはいくら以上売上がないといけない。経費はどのくらいに抑える必要がある。」ということもわかるので経営という視点でもメリットがある。
ここで事業主・経営者側から働く側に視点を変えてみたい。働く側としては個人事業主と法人のどちらで働きたいと思うのだろうか。給料は払える金額などの問題は別としてどちらで働いても毎月もらえる。しかし、問題は健康保険や年金である。個人事業主の場合、正社員でも個人で国民健康保険・国民年金に入る場合が多い(個人事業所の厚生年金の適用についてはここでは割愛)。一方、法人の場合は会社として協会けんぽ等への健康保険や厚生年金への加入が義務となっている。特に国民年金よりも厚生年金の方が手厚いので働く側としては個人事業主より法人で働きたいと考える人の方が多いだろう。
経営者側からすれば正社員を雇用することによって給料以外に福利厚生等の費用もかかるので経費は上がることになるので個人事業主から法人に切り替える場合にギャップが生まれやすい。
農業以外の業界も含めて人手不足は喫緊の課題となっている。図表3は産業別従業員数過不足DIの推移を示したものであり、マイナスであればあるほど人手不足が深刻な状況となっている。2020年前半は新型コロナウイルス感染症の影響によって短期的には解消されているが、2020年後半から経済が回り始めてからは再び全産業において人手不足が深刻化している。
日本の人口が減少していくことは間違いない事実である。また日本社会全体として人手不足も深刻化している。その環境下において農業における「担い手の確保」は今後さらに厳しさを増していくことが予想される。地域の基幹産業の一つとして切っても切り離せない農業を継続していくためには、「担い手」として働く側の立場を考えた上で、事業主側も「法人化」という選択肢を改めて考える必要があるのではないか。