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なぜ日本はだんまり?

2022年3月30日

G7首脳たちが語った食料安全保障。
なぜ日本はだんまり?

ニュースソクラ 農業ジャーナリスト、山田優

 3月24日にベルギーのブリュッセルで開いた北太平洋条約機構(NATO)や、主要7カ国首脳会談(G7)に参加したバイデン米大統領ら首脳は、記者会見などを通じて世界に緊急の食料増産を呼び掛けた。
 ロシアのウクライナ侵攻によって世界で食品価格が高騰、多くの国で飢餓が広がる恐れがある。一方で日本の岸田文雄首相は食料安全保障にほとんど触れていない。主食である米の過剰を抱え、食料増産の旗を降りにくいという事情があるからだ。

岸田首相 CC BY/切干大根

 「その通り。われわれは食料不足問題をG7で話し合った。現実に起きる課題だ」
 記者に問われたバイデン氏は欧米と日本の首脳たちが、食料安全保障を長い時間をかけて協議したことを認めた上で、米国がカナダと協力して不足が顕著な小麦増産のための対策を進めていることを強調した。混乱を招く食料の輸出規制などもしないよう世界に呼び掛けたと明らかにした。
 同氏とフォン・デア・ライエン欧州委員長との共同声明でも、「プーチンによる戦争をきっかけにした食料危機を防ぐために双方が国際的な食料安全保障の強化に努力する」ことを盛り込んでいる。
 地元メディアによるとフランスのマクロン大統領は一連の会合後、国際的な緊急食料安全保障プランをまとめることを呼び掛けた。
 「われわれは前例のない食料危機に直面している。1年から1年半以内に(ロシア、ウクライナ産小麦に依存してきた)中東や北アフリカなどで飢饉(ききん)が避けられない」と危機感をあらわにした。各国がこの夏に向けて協調して可能な限り増産に取り組むことや、食料の国際支援を強化することも求めた。
 欧州連合(EU)はG7会合前日に、増産に向けて農家の背中を押す異例なかたちでの補助金支給や、補助金を受け取る条件である部分的な休耕義務を撤廃することを決めた。本気で食料増産政策に転換することを鮮明にしたかたちだ。
 欧米の指導者が食料増産を強く働きかける背景にあるのは、急激な食料価格の上昇だ。
 国連食料農業機関(FAO)が毎月発表する食料価格指数(2014~16年平均を100)は、2月の時点で140・7で、今年に入って過去最高水準を更新している。元々値上がり傾向にあったところに、ロシアとウクライナの貿易シェアが大きい小麦やヒマワリ油などが高騰して指数をさらに押し上げた。
 G7首脳による共同声明でも、ロシアによる侵攻が「世界の食料安全保障をより大きな圧力にさらしている」と強く非難。世界的食料危機を防ぐために、あらゆる手段の活用を盛り込んだ。FAOなど国連機関で緊急の会合の開催を求め、ロシアを除く世界が、食料不足を回避するために足並みをそろえるよう呼び掛けた。

 一方、日本では、G7と食料安全保障を結びつけるような論議がほとんど見られない。ブリュッセルからの帰国後に開いた記者会見で、岸田首相は7分47秒に渡ってG7の説明をしたが、世界の食料危機や食料安全保障に関する文言はゼロ。欧米の首脳が危機感を持ってこの問題を語り掛けているのとは対照的だ。
 もともと岸田首相の食料安全保障に対する姿勢は熱心とはほど遠い。首相はロシア侵攻後の国会審議で「わが国の食料供給へのさまざまな影響が想定される。基本的にはできる限り(食料を)国内で生産し、安定的に確保する考え方が重要だ」と答弁しているものの、農業のデジタル化や輸出振興、農業の担い手確保、農地の集約化などの対策を挙げているに過ぎない。まさにピント外れだ。
 本来ならば、日本が世界の食料需給ひっ迫を改善するために、どのような貢献ができるのかを、具体的に語る必要があるはずだ。日本はG7の中でも突出して食料自給率が低い。毎年2500万トンもの穀物や大豆を世界から買い入れている日本が、輸入に依存するトウモロコシや小麦を国産に置き換えるような緊急プランを打ち出せばいい。国が後押しする米の減反を止めて、余った米を買い上げ安く飼料原料に使い、その分海外からの穀物輸入を減らしてもいい。
 ロシア侵攻によって世界の食料安全保障が脅かされていること、価格高騰で苦しむ人たちが世界中で増えることを首相が国民に語り掛け、国内で増産する米などの食料をもっと食べてもらうよう説得したらどうか。そうした熱意が全く感じられないのは残念だ。

(ニュースソクラ www.socra.net)

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