2022年8月30日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
2011年3月に「六次産業化法(現在の六次産業化・地産地消法)」が施行されて以降、全国で推進されてきた6次産業化であるが、今年度より農林水産省から表立って「6次産業化」の文字がなくなり、農村振興局内の「農山漁村発イノベーション」に組み込まれた。これが一体何を意味するのか?2011年以降、6次産業化に携わってきた身としてその意味を考えてみたい。
6次産業化とは、農業について、生産だけでなく加工・流通・販売等も統合的に取り扱うことで、事業の付加価値を高める取り組みである。(1次×2次×3次=6次産業化)。つまり、これまで生産にしか携わってこなかった生産者が加工・販売まで一体的に取り組むことで所得向上を目指すのが6次産業化である。
また、6次産業化に取り組むための「総合化事業計画」の認定数は2,620(令和4年6月末時点)となっており、全国各地で6次産業化の取り組みが行われている。
農林水産省によると「農山漁村発イノベーション」とは、“農林⽔産物や農林⽔産業に関わる多様な地域資源を活⽤し、新事業や付加価値を創出することによって、農⼭漁村における所得と雇⽤機会の確保を図る取組のこと”と定義したうえで“6次産業化を発展させて、地域の文化・歴史や森林、景観など農林水産物以外の多様な地域資源も活用し、農林漁業者はもちろん、地元の企業なども含めた多様な主体の参画によって新事業や付加価値を創出していく”と述べている。
つまり、「農山漁村発イノベーション」とは「6次産業化」をさらに発展させたものであり、農林水産物を加工・販売するだけでなく、他の産業と連携して新事業や付加価値を新たに作り出すことを目的としている。
日本において「イノベーション=技術革新」と連想する人が多い。確かにこれまでの日本経済、特に電機業界や自動車業界を筆頭に技術確認によって日本経済を牽引してきたことは間違いない。しかし、イノベーション理論を提唱したシュンペーターはイノベーションを「新結合」と定義しており、①新しい製品・サービスの創出、②新しい生産方法の導入、③新しいマーケットの開拓、④原材料及び半製品の新しい使用方法の創出、⑤新しい組織の形成の5つが「新結合=イノベーション」であると述べている。
例えば、ソニーのウォークマンやアップルのiPhoneなどは①に該当し、またトヨタ事業者のトヨタ生産方式(カンバン方式)は②に該当する。しかし、農林漁業には③、④、⑤にもチャンスがあると筆者は考えている。
筆者は以前より、6次産業化の成功のためには他産業との連携が必要不可欠であると述べてきた。具体的には、農山漁村の魅力と観光需要を結びつける「農観連携」。医療分野との連携や福祉との連携による「医福食農連携」。学校給食における地産地消を推進する等の教育との連携による「食育・食農体験」。東京オリ・パラで注目された選手村でのGAP食材の推進などスポーツとの連携による「農林漁業×スポーツ」。ソーラーシェアリングや農業用水路での小水力発電機、間伐材を活用してバイオマス発電などの「農林漁業×再生可能エネルギー」。昨今注目を集めている「スマート農業(農業×IT・IoT・AI)」など、他分野との連携していくことによって従来の農林漁業のマーケットから、食および他産業へのマーケットへ拡大することで可能性が広がる。
これまでの6次産業化はあくまで農林漁業者が加工・販売することによって所得の向上を目指すというあくまで一部分に着目していた。しかし、農山漁村には地域ごとに様々な魅力や資源が眠っている。「農山漁村発イノベーション」では、地域の魅力や他産業と結びつくこと(新結合)によって、食材供給だけではない新しいマーケットを開拓(③)したり、農林水産物の新しい食べ方提案(④)をしたり、地域商社のような新しい組織を作る(⑤)など、点ではなく面で取り組んでいくことを期待されているのである。