2022年7月27日
ニュースソクラ 農業ジャーナリスト、山田優
食肉や乳製品の生産はもちろん、新世代の代替肉生産にも欠かせないのが、大豆などの植物性たんぱく質だ。世界で需要が拡大する中、欧州はたんぱく質の海外依存を減らし、域内自給を目指し始めた。地球温暖化対策、食料安全保障、地域資源の活用などが狙いだ。
「単位面積当たりでいちばん効率良くバイオマスを生産できるのが牧草類。クローバー、アルファルファなどは良質なたんぱく質源となる」
デンマークに本社を置く大手種苗企業DLFのスティグ・オッダーシェーデ広報部長は説明する。同社が得意とする牧草種子の育種を通じ効率的に高たんぱく質を得られる品種の開発を急ぐ。
牧草は多年生で、毎年種まきが必要な大豆に比べ作業が簡単。環境や生物多様性への負荷が小さい。窒素肥料の削減や土中の炭素を増やすことができるため、温室効果ガスの削減にもつながる。
これまで牧草中のたんぱく質を効率的に消化できるのは、胃袋を4つ持つ牛などに限られてきた。人工的にたんぱく質を効率的に取り出すことで豚や鶏の飼料原料や人間の食用に活用できる道が開かれ、注目が集まるようになってきた。
同社は他の農業関連企業と合同でバイオリファイン社を設立。昨年、同国西部に第1号のたんぱく質抽出工場を稼働させた。周辺の6000ヘクタールの有機栽培の牧草地で刈り取った「草」を農家が運び込む。
いったん牧草を搾った後、乾燥工程を経て年間に7000トンのたんぱく質を製造する計画だ。地元の大学との共同研究で、牧草由来のたんぱく質を家畜に与えても、既存の飼料と同様の成績となることを確認したという。
「搾りかすはほとんど純粋な繊維分で、布地やクッションなどへの加工が容易にできる。環境にやさしい繊維として市場性がある」と同社は説明。牧草を丸ごと活用できることから大豆などに比べて価格競争力があるとみている。
たんぱく質の劣化を防ぐには牧草収穫後6時間以内に製造工程に持ち込む必要がある。このため同社は小規模な製造工場を全国に整備する計画だ。デンマークが現在年間に160万トン輸入する大豆を置き換えていく計画だ。
こうしたたんぱく質自給の試みはデンマークに限らない。
欧州では10年ほど前からたんぱく質の海外依存を警戒する声が強まっている。小麦などの穀物で欧州連合(EU)は大輸出国だが、家畜向け植物たんぱく質源となる大豆の9割を米国や南米に依存。年間の輸入数量は1500万トンに達している。
値動きが激しい国際相場にさらされる他、大量の大豆輸入は環境面で問題があるというのが見直しの理由だ。輸入大豆の大半が遺伝子組み換え(GM)で生産され、アマゾンなどの熱帯林を開発して栽培されているものも含まれていると言われる。
遠く離れた場所の資源に依存する加工型畜産への批判もある。食品の安全性や環境問題に関心のある欧州の消費者の存在が、たんぱく質自給の原動力の一つだ。
たんぱく質海外依存からの転換に向けて大きな転機となったのは2017年夏。フランス、オランダ、ドイツ、オーストリアなど13カ国が、地域資源の活用を盛り込んだ欧州大豆宣言で合意した。
その後、各国で独自の試みが広がっている。フランス政府は20年末に植物性たんぱく質拡大国家戦略を発表。大豆や各種豆類の作付面積を3年間で4割増やす計画を明らかにした。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、EU加盟国の間で自給の機運はさらに高まっている。オランダやオーストリアなどは、国を超えて欧州全域でのたんぱく質増産のための戦略作りを提案。「既存の政策の枠組みを利用して取り組むべきだ」と慎重な欧州委員会を突き上げる動きが広がっている。
(ニュースソクラ www.socra.net)