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2022年7月27日

「スーパーインフレ時代」における農業(酪農)経営の可能性

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 経営コストの上昇が止まらない。5月31日にJA全農が発表した6~10月の肥料価格は軒並み上昇しており、特に「尿素(輸入・大粒)」+94%、「塩化加里」+80%、「尿素(国産・細粒)」+73%とほぼ倍近い価格となっている。また、値上がりしているのは肥料だけではない。原油(重油)は約14年ぶりの高値をつけ、飼料価格も高騰している。

 何より問題であるのがこのコスト上昇の出口が見えないという点である。ウクライナ情勢は長期化の様相を呈しており、また、米国がインフレによる利上げをしたことによって金利差が拡大しており、そう簡単には収まりそうにない。つまり生産者にとっては思いもよらない形でスーパーインフレ時代を迎えた。その結果、筆者の周りでも生産のための原料価格が高騰したことによって高齢者の離農が加速しているという話も入っており、喫緊の課題となっている。

図表1 令和4肥料年度秋肥(6~10月)の肥料価格

https://www.zennoh.or.jp/press/release/2022/90257.html

 では、スーパーインフレ時代における農業経営はどうすればよいのだろうか。そのヒントとなる取り組みが鳥取県東伯郡琴浦町にて酪農を経営しているリバーズファームにある。当牧場は米子と鳥取のちょうど中間地点にあり山陰自動車道から降りてすぐのところにある。飼育頭数90頭(経産牛70頭、育成牛20頭)で年間生乳出荷量600t、生乳生産以外に和牛農家と契約して肉用牛の代理出産も行っている。また、牛群改良・牛群管理・カウコンフォートにこだわった生乳の品質は高く、「第1回中国地区良質生乳出荷者」にて最優秀賞を受賞している。

図表2 琴浦町にあるリバーズファーム

 しかし、何より注目したいのは自給粗飼料率が95%という点である。牧場以外に25haの農地でデントコーンと牧草の2期作しており、デントコーンは全量自家消費をし、牧草は近隣の畜産農家に販売もしている。さらに、約90頭の糞尿を全て堆肥化して自給飼料用の圃場にまいており、「自己完結型循環型酪農」を実践している。

 当牧場の「自己完結型循環型酪農」のオリジンは川本潤一郎代表の父、正一郎氏からから始まっている。酪農経営の課題の一つとなるのが糞尿の処理であり、正一郎氏は糞尿を処理できる頭数しか飼育しないというのが方針であり、当時は最大24頭までしか飼育できず経営としては厳しい状況であった。一方、息子の潤一郎氏は若い頃にアメリカに研修に行き、そこで酪農の大規模経営を学んだが、そこでは糞尿の量が多すぎて処理しきれていなかった。

 また、日本に帰ってきた潤一郎氏が父から経営を継いだ際、毎年のように離農される方が増え、農地は空いていくという状況であった。そこで、自分の町の条件を活かした酪農経営とは何かを考え、農地を荒らさないために積極的に自給飼料の生産に取り組み農地を増やし、そこで糞尿を堆肥として撒きながら、一方で本業の酪農では頭数を増やしていき現在の90頭にまで拡大したのである。

図表3 自給飼料の生産風景

 今回の新型コロナウイルス感染症による物流の混乱からウクライナ情勢に至る一連の流れによる資源高・円安によって、輸入に頼り過ぎていた日本の農業経営の課題が明確になったとも言える。一方で日本には約42.4万haという耕作放棄地があり、例えばその一部からでも飼料用作物の栽培をするなどの可能性を真剣に考える時期になっているのではないだろうか。今回の危機を逆手にとり国内回帰への流れを作ることができれば、結果的に食料自給率の向上、ひいては持続可能な農業経営という視点でSDGsに繋がっていくと考えている。

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