EN

CLOSE

コラム

TOP > コラム一覧 > クリスマスに考えるマーケティングの話

2025年12月25日

クリスマスに考えるマーケティングの話

(公財)流通経済研究所 常務理事
主席研究員(事業・研究統括)折笠 俊輔

紋日を使ったマーケティングの歴史

 特定のイベント日、いわゆる紋日にむけて、商品の販売やプロモーションを行うマーケティングは古くから行われてきた。江戸時代には、エレキテルで有名な蘭学者である平賀源内が、夏にうなぎが売れないことを、うなぎ屋から相談を受け、「土用の丑の日」と店先に張り紙をするよう提案したと言われている。これは、土用の丑の日に「う」のつくものを食べると夏バテしないという風習と、うなぎの豊富な栄養(ビタミンA・B群)が夏バテ防止に良いと結びつけたものであり、現代まで続く大ヒット販促キャンペーンであると言える。
 また、2月14日のバレンタインデーも、西洋の文化を取り込んだチョコレートのマーケティングである。バレンタインデーの起源は、古代ローマの「ルペルカリア祭」と、その日に殉教したとされる聖人「聖ウァレンティヌス」である。聖ウァレンティヌスはキリスト教の司祭であったが、兵士の士気が下がることを理由に兵士の結婚禁止令を出していたローマ皇帝に反して、密かに兵士たちの結婚式を執り行っていたことで、2月14日に処刑(殉教)した。そのため、恋人たちの守護聖人として崇敬され、2月14日はバレンタインデーとしてキリスト教の祝日となり、主に西洋では家族で贈り物をするような風習が生まれた。
 実は、バレンタインデーに女性から男性にチョコレートを贈るという習慣は、日本が発端なのである。この風習の始まりは、昭和初期に神戸のモロゾフ製菓が始めた広告であり、その後、製菓業界や小売店のプロモーションによって一般化されていったと言われている。

日本の特徴~柔軟性とおおらかさ~

 日本人は、実のところ、宗教や思想に関してはかなり柔軟な民族であると言えよう。土用の丑の日の、丑は陰陽五行説という思想から来るものであり、バレンタインデーやクリスマスを祝うのはキリスト教の文化である。そして、クリスマスの1週間後には、仏教施設であるお寺に行って除夜の鐘を聞き、その数時間後には神道の施設である神社に初詣に行くのである。
 食文化についても同様である。フランス料理のクロケットからコロッケを生み出し、中華料理からラーメンを生みだし、イタリアから来たパスタは日本で明太子と出会い、パンは餡子と結婚し、あんパンが生まれた。海外から食材や料理を柔軟に受け入れ、自国の食文化と融合させるような取り組みは日本の持ち味であると言える。
 つまるところ、宗教行事や食文化においては、日本はかなり柔軟で、おおらかな特性があるのである。楽しければイベントを取り入れ、美味しければ食材を取り入れる、そういった風土がある。そして、それが新たな日本の文化となっていくのだろう。

日本人の特性に合わせた農業と食におけるマーケティングの方向性

 こうした日本人の気質を考えた時、そこには食と農のビジネスチャンスがある。例えば、新たな品目・品種(海外の品種など)を生産し、マーケットを拡張していく余地もあるし、新たな食べ方やメニューについて訴求していくことで、それが大きく受け入れられ、風習になる可能性もある。さらに言えば、海外の農業イベントや、豊穣祭などを日本で展開することで新たな定番イベント化することもできるかもしれない。
 現に、キリスト教の復活祭である「イースター」は、日本では認知が弱かったが、近年は菓子メーカーや小売業が展開することで、季節のイベントとして定着しつつある。また、ドイツのミュンヘンが発祥の地であるビールの祭典、「オクトーバーフェスト」も秋の食のイベントとして定着しつつある。
 食や農に「祭り」や「イベント」、「紋日」を組み合わせることで、新たな価値を創出できる可能性があるのである。例えば、イチゴ生産者であれば、チョコレートな嫌いな男性に渡すように、「バレンタインデーにはイチゴ」といったプロモーションしても良いし、イチゴにチョコレートをかけた菓子を作っても良い。米の生産者が、「ホワイトデーには白い米を贈ろう」と訴えても良い。
 イベントや紋日、お祭りなど、「わくわく」、「楽しそう」といったところから発想して、様々なチャレンジをしていくことが、新たなマーケットを作るきっかけになるのだ。

年別アーカイブ