2019年5月27日
農業は地球温暖化の原因の一つでもあり、同時に有力な解決策の一つにもなり得る。大切なのは各国が足並みをそろえて対策に取り組むことだ。
先日新潟市で開かれた主要国の農相会合は、地球規模の課題を話し合うチャンスだった。しかし米トランプ政権の頑なな態度で、ほとんど意味のある内容を打ち出せなかった。
「温暖化対策には多国間の協力が大切だが、米国は同じ方向に向かっていない」ーー帰国直前に東京駅で直接話を聞いたフランスのディディエ・ギヨーム農相は、農相会合宣言に納得できないという不満顔で米国を批判した。
20カ国・地域(G20)農相会合は4月11日から2日間新潟市で開かれ、農業の生産性向上や食品ロスの削減、持続可能な農業に向けた閣僚宣言をまとめた。
吉川農相は会見で「世界の食料問題の解決につながる重要メッセージを国際社会に発信できた」と胸を張ったが、従来のG20農相会合に比べ、地球環境問題への言及は大きく後退した印象だ。
ギョーム農相が不満を持ったのは、昨年アルゼンチンで開いたG20農相会合宣言で触れられていた「パリ協定」という文言が、今年の宣言ではばっさりと削られたことだ。
同協定は温暖化対策の国際的な枠組みで、フランスが中心的な役割を果たして15年に生まれた経緯がある。
新潟農相会合に向けた水面下の調整で、パリ協定を農相宣言に入れるかどうかをめぐって紛糾が続いた。G20の中で地球温暖化対策に後ろ向きな米国を筆頭に、英国、サウジアラビア、トルコなどが反対で、欧州の大半が賛成。議長役の日本は板挟みで、結果的にパリ協定という文言が宣言から落ちた。
G20を担当した農水省の幹部は「宣言に文言が入るかどうかは重要ではない。地球環境問題に各国の農相たちが一緒に取り組むことで合意できた意味は大きい」と自賛するが、今回の宣言を読む限り、米国の主張に引きずられた印象だ。
18年のアルゼンチン宣言ではパリ協定に触れただけではなく、土壌による温室効果ガス吸収の方策などを具体的に列挙していた。一方、今年の新潟宣言では「気候変動の緩和及び適応における農業の役割を最大化するよう努める」とそっけない表現にとどまった。
代わって宣言の目玉になったのが、どこも反対しない人工知能やロボットを利用した農業の生産性向上だった。ドローンや情報機器の利用は民間主導で進んでいる。農相が一堂に会して改めて宣言するような話題ではない。気候変動、生物多様性の危機など、もっと人類が直面する深刻な課題に切り込むことが求められていたはずだ。多国間の協調に懐疑的なトランプ大統領の存在が、G20農相会合のブレーキを掛けた。
(ニュースソクラ www.socra.net 農業ジャーナリスト 山田優)