EN

CLOSE

コラム

TOP > コラム一覧 > SDGsを実践する次世代型農業とは?

2020年5月27日

SDGsを実践する次世代型農業とは?

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 昨今、世界中で取り組まれているSDGs(Sustainable Development Goals)。2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」 にて記載された2030年までの国際目標として、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されている。実際に日本においても、スーツの襟のところに17色の丸い形のバッジをしている人を良く見かけるが、すでに大手企業から中小企業まで自社の活動を17のゴールに当てはめてSDGsに取り組んでいることをアピールする程、グローバルスタンダードになりつつある。
 そのSDGsの背景には「ソーシャルマーケティング」がある。「ソーシャルマーケティング」とは社会貢献や社会課題の解決を行うことを企業戦略と結びつける考え方であり、CSR(企業の社会的責任)もこの考え方に基づいている。筆者は「ソーシャルマーケティング」における社会課題の解決やSDGsの目的である「持続可能」こそ、農林漁業分野にとって必要であり、言い換えれば、農林漁業分野における産業振興こそSDGsの取り組みであると考えている。
 具体的な例を挙げてみる。鹿児島県志布志市に契約農家も含めて約285haの茶畑を管理する管理面積日本最大の農業法人である鹿児島県堀口製茶㈲がある。お茶と言えば、日本人では知らない人はいない日本文化の象徴であるが、昨今は厳しい状況に晒されている。自宅にて急須でお茶を飲む習慣が薄れつつあると共に2017年には国内消費量が国内生産量を下回ったこともあり、お茶の相場は過去最低を更新し続けている。世界的な和食ブームによって、お茶の輸出は伸びてはいるものの残留農薬の問題もあり、簡単には輸出もできない状況となっている。
 その厳しい環境下において、鹿児島堀口製茶㈲は『循環型農業』、『スマート農業』、『輸出』、『6次産業化』の4つの取り組みを複合的に実践している。当社では自社で煎茶工場と碾茶工場を所有しており加工の際に茶殻が出る。その茶殻を堆肥にすることによって『循環型農業』を実践している。

茶畑戦隊茶レンジャー

また、先にも述べたように当社は約285haの茶畑を管理していながら、化学農薬だけに頼らないIPM農法を取り組んでおり、茶畑戦隊茶レンジャーなど現場目線での『スマート農業』を実践することで作業の効率化を図るともに、品質の安定化に取り組んでいる。さらに、有機JAS、ASIAGAPのみならず、お茶では珍しいレインフォレスト認証を取得しており、海外の需要にも対応している。

 その結果、当社はお茶の輸出で最大の課題となる残留農薬をクリアし、欧米を含む世界10ヵ国以上へ安定的に『輸出』することができている。それだけではない。当社は1989年に法人化した際に販売会社として㈱和香園を設立している。その和香園は鹿児島県内の直営店での販売や国内外への販路開拓のみならず、「お茶×健康」をコンセプトにした「TEAET」ブランドを立ち上げ、新しい顧客層の開拓にも取り組んでいる。また、本店にある蔵をリニューアルした創作茶膳レストラン「茶音の蔵」では、季節ごとにお茶を使用した創作料理を提供しており、お茶の文化も含めて発信している。まさに生産から加工・販売まで一気通貫で行う『6次産業化』にも取り組んでいるのである。

TEAETブランド

「茶音の蔵」の茶膳創作料理

 地方の喫緊の課題として必ず挙がるのが、人口減少、高齢化の進行による担い手不足、地域産業の衰退である。しかし、鹿児島堀口製茶㈲は厳しいお茶の環境においても、複数の取り組みを組み合わせることで成長を続けており、志布志市の農林漁業の一翼を担っている。つまり、日本において農林漁業分野における産業振興こそが、地域課題の解決や社会貢献にも直結している。このような取り組みこそまさにSDGsの象徴であり、農林漁業にとって必要な取り組みではないだろうか。

 
茶畑戦隊チャレンジャー

年別アーカイブ