EN

CLOSE

コラム

TOP > コラム一覧 > 【法務】農産物取引契約の見直しを
-新型コロナウイルス感染症への対応-

2020年5月27日

【法務】農産物取引契約の見直しを
-新型コロナウイルス感染症への対応-

弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕

 新型コロナウイルス感染症は、農産物取引にも大きな影響を与えています。相次ぐ休業や売り上げの大幅な減少によって飲食店の農産物仕入れが減っていますし、高価格帯の農産物は需要が減少しているようです。
 このような新型コロナウイルス感染症への対応のためには、現状の農産物取引契約の確認をすることが必要ですが、さらに、今後のために、農産物取引を行っている事業者・企業では、農産物取引契約を見直すことも必要になっています。

農産物の供給義務・買取義務があるか

 農産物取引契約といっても、その内容はさまざまであり、農産物が必要な時にだけ農産物を売買するという形態も少なくありません。また、継続的に取引を行っている場合でも、その内容としては個別の取引が反復して行われているに過ぎず、個別の注文時に生産者が注文に応じてはじめて契約が成立しているということもあります。
 このように、個別の注文時に契約が成立する=売買の義務が生じる形態であれば、供給することが難しくなった生産者(売り手)は、必ずしも取引先に農産物を売る義務を負うものではありません。反対に、飲食業などの買い手としても、売り上げ減などにより需要がなくなった場合にまで農産物を買い取る義務を負うものではありません。
 問題は、売り手である生産者と飲食業・食品加工業・小売業などの買い手の間で、一定数量の農産物を売買することを先に合意している場合です。このような場合には、契約の内容により、売り手は決められた量の農産物を供給する義務を負っていることもあれば、買い手は一定数量の農産物を買う義務を負っていることもあります。
 このような義務がある場合には、例えば買い手が売り上げ減や休業によって農産物の買取を減らしたり、中止したりしたいと思っても、当然に減少・中止することはできません。もし一方的に買取量を減らしたり、買取を中止したりしてしまえば、それは契約違反として責任を負うことになりかねません。
 
 このように、最初に行うべきことは、現在の農産物取引契約において、農産物の供給義務や買取義務があるのかを確認することです。

実際の対応の検討

 契約内容を確認した結果、供給義務・買取義務が規定されていないのであれば、売り手は注文があっても農産物を売る義務はなく、買い手は農産物を買う義務はありません。そのため、例えばこれまで取引を続けていた飲食業者から取引を停止するという連絡があった生産者は、その飲食業者に買取を要求することはできませんので、新たな販路を探す必要があります。
 新たな販路を開拓することは容易なことではありませんので、売り手である生産者の方から買い手に対して今後の購入予定を確認しておくとよいかもしれません。そうすることで、少しでも早く動き出せることになります。
 
 契約に農産物の供給義務や買取義務が規定されている場合、義務を負う売り手や買い手において予定されていた農産物の供給や買取が現実的に難しいとしても、契約上は義務を負っていることになり、一方的に契約内容を変更することはできません。
 そのため、供給義務や買取義務をそのまま果たすことが難しい場合には、早急に取引相手に連絡をし、状況を説明して契約内容を変更してもらえるように申し入れる必要があります。
 他方の取引相手としても、契約上、供給義務や買取義務があると言っても実際に農産物が生産できていなかったり、買い取るための資金がないのであれば義務の履行を求めても意味はありません。特に、新型コロナウイルス感染症のような必ずしも事業者の責任とは言えない事態では、取引相手に義務の履行を迫るだけでは事態の解決にはつながりません。
 このような場合は、可能な範囲で契約の変更に応じるほうが得策であることも少なくないでしょう。さらに、早期に契約内容を変更することで、他の販売先を見つけるなどの対応が可能になることもあります。
 したがって、契約上の義務の有無をしっかりと把握することは重要ですが、それを踏まえて実際にどのように対応すべきか、現実的な解決策を検討することが大切です。
 

これからの農産物取引契約における対応

 今回の新型コロナウイルス感染症のような事態を想定していた方はほとんどいないのではないでしょうか。そのため、農産物取引に限らず、他の取引契約書でもこのような事態に備えた規定が設けられていないことがほとんどです。
 しかし、契約書の機能は法的なリスクを管理することにあります。そのためには、これを機に、感染症や疫病といった事態に対する規定を契約書に設けることに加え、そのほかの災害への対応も含めて、農産物の供給義務や買取義務の要否やその内容について整理して規定しておくことが必要になってきます。
 今後は、このような観点をもって、しっかりと契約書を作っていくという意識を持っていただければと思います。

年別アーカイブ