2020年7月28日
弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕
農産物の生産は、工業製品などに比べて自然に大きな影響を受けます。台風や水害などにより収穫間近の農産物がダメになってしまったり、日照不足などで生育が遅れてしまったりすることも少なくありません。
このような自然の力は人間の力が及ばないところであり、農産物取引を行う際には自然災害等による影響を想定しておくことが必要です。
工業製品と異なり、農産物は自然により大きな影響を受けます。自然からの影響を抑えるように様々な方法が取られていますが、それでも影響を完全にゼロにすることは難しく、また自然災害が発生すると計り知れない影響が生じてしまうのが現状です。
農産物の取引において、農産物が収穫されてから行う取引の場合には、事前に契約が締結されていませんので、契約の締結までは農産物の引き渡し義務を負っていません。そのため、自然災害等によって農産物の引き渡しができなくなっても、まだ引き渡し義務が発生していませんので、それが契約違反となることはありません(といっても、売るはずだった農産物がなくなってしまえば収入が断たれることになりますので、生産者への影響は非常に大きいことに変わりはありません。そのため、このような事態に備えることも重要です。)。
これに対して、事前に食品商社や外食業者、食品加工業者などと契約を結び、決められた時期に農産物を出荷する義務を負っている場合には、自然災害等で農産物を引き渡すことができなければ、契約違反として責任を追及されることがあります。
義務違反として責任を追及されるといっても、自然災害等は生産者が引き起こしたものではなく、不可抗力として責任を負わないのではないか、と考えた方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、例えば収穫直前に台風が襲来し、これから収穫しようとしていた農産物がすべてダメになってしまった場合には、農産物を引き渡すことができないとしてもそれは不可抗力によるものであり、引き渡すことができないことについて責任を負わないかもしれません。
しかし、契約内容によっては、単にある農産物を売ることが合意されており、その農場で収穫されるかどうかは関係がないと解釈される可能性も否定できません。このように解釈されると、その農産物を他から調達してでも引き渡さなければならない義務があることになります。
このように、自然災害等で合意した量の農産物を出荷できないような場合に、生産者が責任を負うのかは契約時の合意内容やその他の具体的な事情によって決まるものであることから、いざ自然災害等が起こった後になってから、責任の有無をめぐってトラブルとなってしまう可能性があります。
このような事態を避けるためには、契約書において、想定される自然災害時の対応をしっかりと明記することが重要です。
例えば、台風や水害などで農産物が収穫できなくなったときに、生産者は引き渡し義務を免れるのか、それともなお引き渡し義務を負う(他から調達する義務を負う)のかといったことをはっきりと規定しておくのがよいでしょう。他にも、規定の仕方を工夫することにより、生産者は引き渡し義務を負わないものの、購入者が他から調達できるように協力するといった対応や、引き渡し義務を果たせないことを早期に通知するよう義務付けるといった対応も考えられるでしょう。購入者としても、単に損害賠償請求という形での責任追及ができるよりも、実際に必要な農産物が調達できることが最優先のはずですので、そのために生産者も協力することで、取引をスムーズに進めることができるかもしれません。
このように、自然災害等に際しての対応について、事前に当事者間で協議を行い、契約書に合意内容を明記しておくことが農産物取引においては重要です。