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2020年7月28日

6次産業化が目指す地域への波及効果とは?

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 6次産業化を推進するための法律「六次産業化法(現在の六次産業化・地産地消法)」が2011年3月に施行されて以来、全国各地で6次産業化が取り組まれてきた。その6次産業化の成果を図る一つの指標として「雇用と波及効果」がある。雇用は何人雇用したかというなのでわかりやすいが、波及効果とは何か?農林水産省では地域経済への波及効果を(人件費+減価償却費+経常利益)としている。6次産業化の目的が農林漁業者の所得向上であることも含めて、雇用人数や人件費、また経常利益といった部分が重要なのは確かであるし、成長するためには設備投資(減価償却費)も欠かせない。しかし、2011年から9年間で世の中はガラッと変わっている。特に雇用の部分では地方では特に高齢化が進行しており、雇用したくても人がいないために雇用ができないという状況を全国各地で耳にする。その中で、波及効果として雇用人数を求めるのはかなり厳しいと言わざるを得ない。
 ではどうすれば良いのか?筆者が提案する「6次産業化2.0」では、農林漁業者と2次・3次事業者が融合することで、当事者のみならず、「産地と産業の振興」を目標としている。
つまり、6次産業化に取り組むことにより、その農林水産物が起爆剤となって他の事業者を巻き込んでいるかという視点もこれから重要になると考えている。

これからの時代に求められる真の「6次産業化」とは?(2019.12.25)
https://jfaco.jp/column/1544

 沖縄県北部、年間300万人以上が訪れる沖縄美ら海水族館から見える帽子型の島「伊江島」では、レンタサイクルや農家体験民泊を行う㈲TM.Planning㈲(旧タマレンタ企画)から分社化した㈱いえじま家族が伊江島産小麦の6次産業化に取り組んでいる。
 人口5,000人に満たない伊江島では、2003年より取り組んだ修学旅行生を対象とした民家体験宿泊事業が全国の先駆けとなり、伊江村の生産者の収入を支えていた。しかし、国内だけでなく海外への修学旅行も増え、年々、伊江島へ訪れる修学旅行生は少しずつ減少してきていた。そのため、生産者のためにも新たな収益源となる品目、事業を模索していた。

その中で、琉球王朝時代から栽培されており、首里王府にも献上していたと言われる小麦の復活を目指し、2011年に16戸の生産者と「いえじま小麦生産者組合」を立ち上げ、伊江村商工会と連携して取り組み始めた。そして、2014年に㈲TM.Planningの小麦事業を切り離し、㈱いえじま家族を設立したのである。

 そのストーリー性が注目を集め、伊江島産小麦100%の小麦チップス「けっくん」は瞬く間に伊江島の定番土産として定着した。しかし、特筆すべきはここからである。製麺企業が「伊江島県産100%小麦めん」を製造し、オリオンビール㈱が伊江島小麦を使用した「琉球ホワイトエール(クラフトビール)」を開発する等、県内の事業者が伊江島産小麦を使用した商品開発を行っているのである。特に沖縄といえば「沖縄そば」が名物であるが、麺の原料にはほぼ輸入小麦が使用されている。実際に筆者が伊江島に事例調査で訪問した際に、同行した沖縄県人が「伊江島産100%小麦めん」を使用した沖縄そば食べて感動し、お土産にも購入していた程である。小麦は麺だけではなく、パンやお菓子にも使用されるので引き合いが絶えないという。

 もちろん、農林漁業者の所得向上や雇用はもちろん重要である。しかし、これからの6次産業化は自己完結するだけでなく、他の事業者も巻き込んで新しい商品やビジネスを生み出す等、どう地域内で産業を生み出していくかという視点も重要ではないだろうか。

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