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2019年12月25日

これからの時代に求められる真の「6次産業化」とは?

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

2011年3月に六次産業化法(現在の六次産業化・地産地消法)が施行されて8年が過ぎた。
6次産業化は農林漁業者の所得向上を目指す取り組みとして生産だけでなく、加工・販売も一体的に行うことによって付加価値を高めることを目的としている。法律の施行後、6次産業化は全国各地で取り組まれ、六次産業化・地産地消法に基づく総合家事業計画の認定数は2,493件(2019年10月31日現在)にまで拡大している。一方で気になるデータがある。農林水産省が実施した「六次産業化・地産地消法に基づく認定事業者に対するフォローアップ調査」によると、認定申請時と比較した売上高経常利益率が下がっているという事業者が45.8%となっている。言い換えると6次産業化に取り組む前と比較して約半分の事業者の儲けの割合が減っているということである。

 なぜそのようなことになってしまっているのか?フォローアップ調査の理由としては最も大きいのは経費の増加であり、特に減価償却費および人件費の負担が大きい。6次産業化、つまり農林漁業者が生産だけでなく加工・販売まで行わなければならない。加工するためには大小の差はあれど加工設備が必要になる。特にカット野菜工場や冷凍工場を建設するとなると数億円規模の投資になることもある。その設備の減価償却費が収益を圧迫しているのである。また、人件費については、生産者は品目によっては収穫時期が限られていることも多く、収穫だけでも忙しいのに収穫した農産物を加工・販売するためには人員を増やさなければならず、人件費の増加も収益に重くのしかかっている。ただ最近では人口減少と高齢化によって人員の確保すら難しいという新たな問題が起き始めているがここでは割愛する。
 さらに、全国の生産者を回っている筆者からすると上記は本当の問題ではないように感じている。まず計画通りに販売ができておらず、販売ができていないので加工場の稼働率も上がらないという悪循環に陥っている生産者が多い。今まで生産しか行ってこなかった農林漁業者がいきなり加工して販売することで売れるほど世の中は甘くない。しかし、これは単に生産者の計画が甘かったというわけではないだろう。6次産業化を推進する上で、しっかりと事業計画や販売戦略も立てさせないまま6次産業化を推進し続けている行政にも問題がある。
 そして、最近は行政機関も農林漁業者に加工・販売まで取り組ませるのはリスクが高いと学習し、2次・3次事業者と連携をして6次産業化に取り組むことを推奨するようになっている。これにも筆者は違和感がある。食農分野の方は「農商工連携」という言葉を聞いたことがある人は多いと思う。中小企業庁の基、農林漁業者と商工業者がそれぞれの有する経営資源を持ち合うことで新商品・新サービスの開発に取り組むことを目的として「農商工等連携促進法」が2008年7月に施行された経緯がある。それが上手くいっていれば6次産業化に取り組む必要はなかったはずである。つまり、時代背景から考えると「農商工連携」が上手く機能しなかったので、農林漁業者が生産のみならず加工・販売まで行う「6次産業化」に取り組んだにも関わらず、また「農商工連携」を推進しようとしているのである。
 筆者は、この状況を鑑みて「6次産業化」からも「農商工連携」からも進化した取組として「6次産業化2.0」という概念を提唱している。これは農林漁業者と2次・3次事業者が融合し、農林水産物・食品を軸とした一気通関型のビジネスモデルを構築することによって、当事者のみならず、「産地」と「産業」の振興に繋がる取り組みである。これは農林漁業者が必ずしも主体になる必要はない。むしろ、すでに加工技術や販売ノウハウを持っている2次・3次事業者が主体となっている方がよりいくつもの産地を巻き込める場合もある。ただし重要なのは2次・3次事業者がきちんと農林漁業者に寄り添い、産地や品目についても理解したうえでビジネスモデルを構築・実践することである。次回からは「6次産業化2.0」の概念について事例を含めて紹介していく。

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