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多額の補助金ばらまき

2019年12月25日

農家のトランプ熱冷めず
多額の補助金ばらまき

来年の選挙で再選を目指すトランプ米大統領の農業政策は、たったひとつだけだ。

 「農家の欲しいものは何でも与えよ」

 大統領選挙まで1年を切り、トランプ氏は自分の有力な支持基盤である農家を意識した政策を矢継ぎ早に打ち出している。
 以前、米国産農産物の最大の輸出先だった中国市場は、米中貿易戦争のあおりで関税が上昇。昨年から輸出に急ブレーキがかかった。その後、12月半ばになって米中の第一段階の貿易合意によって摩擦の激化は回避された。合意を受けてトランプ氏は「中国による農産物の購入がきわめて近いうちに年間に500億ドル(約5兆5000億円)規模になることを期待している」と勝利宣言した。

▽米中貿易戦争でマッチポンプ

 中国との貿易戦争は自らが主導して始めたものだ。筆者には一連の経過は典型的なマッチポンプとしか見えないが、米国の農家の目には「大統領は最後には農家のことを考えてくれている」と映ったようだ。
 実は、トランプ氏が農家にプレゼントするのは貿易交渉の「成果」だけではない。
 大量の現ナマも飛び交う。米農務省がまとめている農家向けの直接補助金支払額を年次ごとに並べると、トランプ氏が大統領就任した2017年から総額はうなぎ登りだ。オバマ政権時代の16年には130億ドルだったものが、19年(予測)には224億ドルにまで膨れあがっている。貿易戦争で減った中国向け輸出分を補てんする貿易摩擦直接支払いの伸びが著しい。

▽儲けの2割が直接補助金

 19年(同)の農家の純収入額は930億ドルだから、儲けの2割以上が政府から直接現金のかたちで転がり込んでくる計算だ。ウハウハと表現したら言い過ぎかもしれないが、米国の農家がトランプ農政の恵みをたっぷりと堪能していることは間違いない。
 もともと農家のトランプ支持率は高かった。南部や中西部を中心とした大規模農業地帯の農家は、伝統的に共和党の支持基盤。オバマ政権で強化された環境規制や学校給食改革への反発に加え、トランプ氏が打ち出した減税への期待が強かったからだ。大統領になったトランプ氏は矢継ぎ早に公約を実行した。中国などとの貿易摩擦への不安はあったものの、結局は懐が潤ったというのが農家の受け止めだろう。

▽農家の支持率は82%

 米下院本会議がトランプ大統領の弾劾訴追を決める前日、米農業雑誌「ファームジャーナル」が毎月調べている農家の大統領支持率を発表した。それによると、トランプ氏の仕事ぶりを評価する割合は、過去最高の82%に達した。「評価しない」はわずか17%だから、農家の満足度合いの強さが分かるだろう。
 米国を含め先進国では有権者全体に占める農家の割合は小さい。ただし、トラクター販売店や農産物輸送業者など農業関連業界を含めれば、地方州での存在感は無視できない。トランプ氏が再選するためには、16年の選挙で支持してくれた人たちに、もう一度投票してもらうことが必要だ。農村部に限れば、トランプ氏は着々と布石を打ち、選挙対策は成功しているように思える。

(ニュースソクラ www.socra.net 農業ジャーナリスト 山田優)

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