2019年11月27日
「中国の電力メーカーが、日本の農地にまで手を伸ばしている」。こんな警戒感が広がる中、2年半前に稼働したのが茨城県つくば市の大規模ソーラーシェアリングだ。発電の主体は中国・上海電力。「日陰」を使って地元の農業法人が朝鮮人参栽培に取り組む。来年から本格的な出荷が始まる計画で、日中合作による農業の真価が問われることになる。
「パネル2~3枚が傷ついたけれど、ほとんど影響はなかった」
11月半ばに農業法人水杜の郷を訪問すると、開口一番にこう説明された。54ヘクタールという日本最大級の規模でソーラーシェアリング農業を経営する。複数の台風が関東地方を直撃し、各地で風水害をもたらした。農地から2メートル以上高いところに設置された約13万枚の太陽光パネルは、ほとんどは無傷だった。パネルは強風にあおられたが、支柱は土壌深く埋め込まれ、びくともしない強固な発電施設であることを、改めて証明した。
訪ねた時はちょうど、朝鮮人参の苗を掘り起こしていた。種をまいてできた苗の植え替えを繰り返し、5年目に出荷する。来年秋が最初の出荷となる計画で、今のところ順調に苗は育っているという。
主力作物の朝鮮人参は日陰の環境を好む。50%が遮光されるソーラーシェアリングの営農にぴったり。支柱を避ければ小型トラクターの作業には問題がない。
単位面積当たりの売上高が高く、収益性の向上が見込める。以前、この土地で農家が朝鮮人参の栽培を取り組んだ経験があること、上海電力の紹介で、中国東北部出身の営農指導コンサルタント金忠烈さんと契約できたことが決め手となった。
軌道に乗れば朝鮮人参の生産量は年間8トン程度を見込む。日本全体の生産量21トン(2015年現在、日本特産農産物協会調べ)の中に、一大産地が割り込む形だが、「国内漢方薬企業などの需要はしっかりしているし、高値で販売できる香港市場への輸出も可能だ」と金さんは話す。
水杜の郷のある水守、山木地区は、耕作放棄地に悩んでいた。全国一の特産だった芝栽培が価格低迷で失速。水田は維持されていたものの、畑地はほとんどが荒れ地になっていた。日系大手企業系コンサルティング企業が、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)に基づき、農地で太陽光発電しつつ営農を継続するソーラーシェアリングのプロジェクトを提案した。
しかし、大手の国内金融機関が融資を断ったことから、いったん計画は白紙になった。その後、中国・上海電力の日本子会社が融資や技術の提供を申し込み、再び計画が動き始めた。
もともと耕作放棄されていた農地が対象で、地権者の多くが「できれば何とか再生したい」という気持ちを持っていた。また、10アール当たり10万円の年間借地料が支払われるほか、営農や発電作業で地域雇用も拡大するため、地権者160人の承認が得られ、プロジェクトが動き始めた。
営農を担うのが2014年に設立した農業法人の水杜の郷。従業員20人が農業に取り組む。農繁期には200人を臨時雇用する。太陽光発電を担当するのはSJソーラーつくば社。水杜の郷が30%、上海電力日本社が70%の出資割合で設立した。東京電力が発電した分を全量買い取る。
当初、中国企業が発電の主力を担うことから、周辺などから警戒の声が上がった。2017年6月には週刊誌がプロジェクトを取り上げ、「太陽光発電名目にした中国資本の土地取得進み住民に不安」と報じた。
一方、上海電力は日本のFITの単価が高いことからビジネスチャンスと判断し、市場に参入したという立場だ。
地権者である農家の一人は「営農の主体は農家が出資する農業法人。農業が軌道に乗っている限り農地は維持される。中国系企業がパートナーで何も問題は感じない。お互いにウィンウィンの関係だ」と話す。
発電会社からの農地賃料と、農産物販売という車の両輪が回れば、農業法人の経営は安泰だ。地権者が農地を手放すことは考えにくい。課題は持続的な農業生産だろう。
主力作物の朝鮮人参の収穫が1年後に始まる。現時点では順調な生育だが、連作障害が出やすいなど栽培が難しい作物と言われているだけに、安定した生産を続けられるかという懸念もある。太陽パネルの下という特殊な環境で、計画通りの農業が可能なのかが問われることになるだろう。
(ニュースソクラ www.socra.net 農業ジャーナリスト・山田優)