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2019年10月30日

米国産果実への関税上げでアジアの果実戦線が急変

 米国のトランプ大統領が各国と繰り広げる貿易摩擦のあおりで、アジアの果実市場に異変が起きている。米国から中国に輸出されるサクランボやリンゴが急減し、そのすき間を埋めようと欧州や南米産地が売り込みをかける。

 「昨年は3割減。中国向けに今季は輸出できるかどうか」

 9月初めに香港で会った米ワシントン州リンゴ委員会のレベッカ・リオンズ海外販売局長は浮かない顔をしていた。アジア地域に売り込もうと国際青果物展示会AFLに乗り込んできたが、9月から中国政府は米国産果実に報復関税10%を上乗せした。

リンゴの場合、合計60%の関税がかかることになり、事実上輸出を断念せざるを得ないからだ。

 貿易赤字を理由に鉄鋼製品などに追加関税をかけるトランプ政権のとばっちりが、米国産果実に及ぶのは中国に限らない。インドも反発し、今年夏から米国産リンゴやアーモンドの関税を引き上げた。

 昨年、メキシコも同様の理由で米国産リンゴに20%の関税を導入した。結局、米国の2018年産リンゴ輸出額は8億6000万ドルで、前年産に比べ2割以上も落ち込んだ。

 リンゴに加え、サクランボやブドウも輸出先の関税引き上げの被害を受けている。米国の果実業界は、インドネシアや中東など新たな輸出先を探すのに懸命だが、一方で米国産果実の輸出失速で生じた空白を埋めようと、他の果実輸出国が中国などアジア市場への売り込みに力を入れている。

▽熱心な南半球産地

 もっとも熱心なのは南半球の産地。すでに中国市場に果実を大量に輸出している実績がある。米国産などと収穫シーズンが反対だが、リンゴは貯蔵が可能で、ビジネスチャンスとみたようだ。

 AFLの展示スペースを3割拡大し攻勢かけたのがオーストラリア。同国の果実業界団体HIAのマット・ブランドCEOは「安全で高品質が特徴のオーストラリア産果実や野菜にとって、アジアは最大の市場。売り込みには力を入れている」と話し、インドネシアや中国、フィリピンの業者と商談を進めていた。

 伝統的にアジアで存在感の薄い欧州の果実業界も、リンゴやブドウの輸出増加を期待する。病害虫の侵入を防ぐ検疫の制約から現時点で中国市場に参入できていない国が多いが、AFL会場にいたイタリア最大リンゴ栽培業者は「解禁になれば高品質のリンゴを中国に出せる」と意気込む。

 イタリアは世界第3位のリンゴ輸出国。アジアでは、ベトナム、台湾、タイとの間で検疫条件の交渉を進めており、高級感を武器に米国産の代替をめざすという。

▽経済成長で市場が急拡大

 日本や韓国、台湾などを除くアジアの果実消費は、バナナやマンゴーなど熱帯果実や質の劣る中国産のリンゴなど、低価格帯の商品が主力だった。しかし、経済成長に伴って質が高く価格の高いリンゴ、ブドウ、サクランボ、キウイフルーツなどの需要が急拡大している。

 これまでこうした国々の市場開拓にいちばん熱心だったのは米国だ。政府による手厚い輸出支援策を背景に、業界も自ら資金を出して米国産果実の販路を着実に広げてきた。ところが、わずか3年前のトランプ政権誕生で事態は一変し、つまずいた。リンゴの3割を輸出に回すワシントン州リンゴ委員会のリオンズ局長は「新規市場開拓には長い時間がかかるが、失うのはあっという間」とぼやいていた。

(ニュースソクラ、www.socra.net 農業ジャーナリスト、山田優)

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