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2020年12月23日

今こそ生鮮流通におけるイノベーションを

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 農産物の価格下落が止まらない。図表①はキャベツ、ねぎ、レタスの6月からの小売価格の推移を示したものである。夏場は7月の長雨と1946年の統計開始以来最短を記録した極端な日照不足による生育不順によって農産物の価格が高騰した。その後は農産物の価格も下落に転じ9月から10月にかけては落ち着いたかのように思えたが、今度は夏場以降の好天候により夏場の不作から一転して豊作に恵まれた。その結果、市場に農産物が溢れて農産物価格は下落。特に11月以降の価格の下落が著しく、11月最終週の主要農産物の販売価格は過去5年間で軒並み最低価格をつけている。(図表②)
 実際に筆者の知り合い産地では、価格の暴落を防ぐための一方的な「出荷停止」や収穫すればするほど赤字になるので収穫すらしない「産地廃棄」が起きている。

 また、筆者は(一社)日本食農連携機構が11月19日に開催した無料セミナー「第2回アフター(・ウィズ)コロナ時代を見据えた新たなアグリビジネスを展望する」にてパネルディスカッションのコーディネーターを務めた。そのディスカッションの中でも「農林漁業者が恐れているのは新型コロナウイルスよりも天候不順」という議論になった。自然環境に左右されやすい農林漁業にとって天候リスクにどう対応していくかがこれから生き抜いていくためには必要条件となりつつある。

 しかし、農林漁業におけるこの天候リスクや価格変動リスクを農林漁業者のみに押し付けて良いのだろうか。毎年、年度初めになると「4月からはこう変わる」というテーマで食品価格や外食・小売価格の値上げが発表される。実際に2020年4月以降では、食品ではヨーグルト等の乳製品、調味料類、インスタントラーメン、ポテトチップス、冷凍食品等々が、また外食でもカフェラテ、ドーナッツ、ハンバーガー、うどん類等々が約2%~10%程度値上げされている(※値上げの実施&値幅は企業によって異なる)。値上げの理由としては「原材料費の高騰」「物流費の高騰」「人件費の高騰」「急激な環境変化」が多い。そして、消費者も値上げについて文句は言いながらもそれを受け入れているのが現状である。
 では、農林漁業ではどうか。農林漁業においても「原材料費の高騰」「物流費の高騰」「人件費の高騰」「急激な環境変化」は当てはまっており、それらに加え「天候リスク」まで負っている。それにもかかわらず、市場(需要と供給)に翻弄され、豊作であれば価格が暴落し、不作であれば価格が高騰しても儲からない。このような環境でどう次世代の若者が農林漁業を継ぎたいと思うだろうか。

 勘違いして欲しくないのは、現在のJAや市場の仕組みを否定しているのではない。筆者はこれまでにも何度も述べているが、JAや市場が日本の流通の仕組みを支えてきたのは間違いない。しかし、これだけ農林漁業におけるリスクが増えている今だからこそ、流通の仕組みを変える努力をしなければならない。
 その可能性の一つとして期待したいのが生鮮流通のイノベーションである。農林水産物は特に生鮮品は保存がきかないため、当然収穫時期に供給量が増えてしまい価格が下がる。しかし、もしその品目の出荷時期をずらすことができたとしたらどうだろうか。実際に昨今の保冷技術や冷蔵・冷凍技術や保管技術の向上によって生鮮品だとしても長く保管できるようになっている。また、一部の生産者では長く鮮度が保てるように土壌作りから研究して栽培している生産者も出てきている。

 2020年は農林漁業者によって新型コロナウイルスの影響による販売戦略の見直し、夏場は天候不順による生育不順による不作、そして今度は好天候による豊作によって販売価格の暴落と本当に厳しい一年になった。このままでは日本人の胃袋を支えている農林漁業者が立ち行かなくなるのは時間の問題である。だからこそ、流通やその先の販路まで一体となって生鮮流通の問題に取り組むことによって農林漁業者のリスクを軽減することが求められる。

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