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2020年11月27日

種苗法改正の真の対立点

ニュースソクラ 農業ジャーナリスト、山田優

 種苗法改正案は11月19日の衆院本会議で可決され、参院での審議を経て20年秋の臨時国会で成立する見通しだ。政府は優良品種の海外流出防止と育成者権の強化を改正の目的に掲げる。一方、自家増殖制限で農家が高い苗を買わされるという懸念から改正反対の声も根強い。
 しかし、種苗を巡る対立軸は、海外流出や農家経営の圧迫ではない。多様性を失わせてきた現在の農業をどう立て直すかが、本来の争点になるべきだ。

▽反対派も自己批判を

 コシヒカリに代表される大規模なブランド信仰は、一部の売れる「商品」への集中を招いた。農家が地元に適した種苗の育ての親となり、地域の消費者がその多様性を楽しみ、支える。今回の法改正には、こうした豊かな多様性を築き上げるという視点がまったく欠けている。反対する側にも、多様性を失ったことへの自己批判の姿勢が見えない。

CC

 福岡県糸島市の「百姓」宇根豊さん(70)は、20歳代のころ稲作の農業改良普及員として、ある町でコメ検査に立ち会った。農家が栽培しているコメは56品種あって、当時の宇根さんは「品種を奨励品種に統一しましょう」と指導した。品種の数が多いと検査や保管、流通が煩雑になり、普及員として栽培指導もしにくかったのが理由だったと自戒を込めて語る。
 調べてみると、同地域のコメは半世紀の間に3品種まで絞り込まれた。いずれも「売れるコメ」として栽培が奨励されている品種である。行政や農協が旗を振り、大半の農家が従った。稲作はもちろん、野菜や果実でも似たような経緯をたどり、作物の多様性は全国で失われた。
 消費者もテレビやネットで流れる「〇〇がおいしい」という評判に飛びつき、足元で栽培されてきた特徴ある品種が消えていくのを見殺しにした。

 消費者ニーズを追い求め、コシヒカリを頂点とした良質米作りに勤しんできた産地が今直面しているのは、深刻なコメ余りと、未曽有の減反の必要性だ。コメ消費の減少に歯止めが掛からない。均一で質が高ければ売れるという大量消費の神話は、とっくに過ぎ去っている。

▽モノカルチャーの弊害

 コメやミカン、イチゴなどの農産物では、全国一律から県域でのブランド化戦略に転じたが、少数の限定された品種に絞り込むという手法そのものは、多様性とはほど遠い。均一なコモディティー(商品)の場合、際限のない価格競争に追い込まれるのが常だ。
 今、種苗制度を見直すのであれば、モノカルチャーに毒された農業のあり方にメスを入れるべきだ。雑多な作物や品種が併存すれば、地域の生物多様性にもプラスとなり、威力を増す気象災害への抵抗力もつくだろう。コメの消費減に歯止めが掛かるかどうかは分からないものの、地域の伝統料理と結びつけるなど新たな工夫の余地が出てくるだろう。
 種苗法改正の狙いは品種育成者の権利を強化し、農家の自家増殖を制限。優良品種の海外流出を防ぐというものだ。それぞれの項目には批判も多い。だが、育成者権が強調されたことで、農家などが「育種」に関心を持つ可能性はある。

 農業と生物多様性に詳しい宇根さんは言う。
 「種苗法改正が広く議論されたことは良かった。百姓が自らの権利として育種を利用し、農の姿を変えていく原動力になれば良い」

(ニュースソクラ www.socra.net)

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