2020年11月27日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
2019年に発生した新型コロナウイルスがここにきてまた猛威をふるい始めている。日本は世界に比べると感染拡大が抑えられてきたが、冬を迎え気温の低下と空気の乾燥も相まって第3波が懸念されている。この新型コロナウイルスは我々のライフスタイルに対して大きな変化をもたらしている。特に在宅勤務やテレワークの普及による働き方の変化や「3密」を避けるための消費行動の変化、いわゆる「巣ごもり消費」については多くの人が実感をしているところではないか。
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が15~69歳の男女1,200人を対象として行った「緊急事態宣言解除後のメディア接触調査」によると、コロナ禍で使用したサービスとして最も多かったのが「ネットショッピング」の55.7%、続いて多かったのが「キャッシュレス決済」の47.2%となっており、ネットショッピングの利用については「巣ごもり消費」の拡大を裏付けている。そして、特に注目したいのがネットショッピングの利用率である。全体の利用率が55.7%であるのに対して30代女性の利用率が79.0%であることは納得がいくが、60代女性の利用率がなんと51%に達していたのである。私を含め「高齢者はインターネットを使いこなせない」という先入観を持っていた人が多かったかもしれないが、現実には2人に1人がネットショッピングを利用しているのである。
また、「今後のサービス利用意向」という項目では、生鮮食品の宅配を行う「ネットスーパー」の利用意向が82.3%、ネットで宅配をしてもらう「フードデリバリー」の利用意向が80.2%となっており、食と農林漁業分野においても引き続き「巣ごもり消費」ビジネスは拡大していくことが見込まれる。
その一方で、筆者は食と農林漁業分野のECビジネスはすでにレッドオーシャン市場になりつつあると懸念している。コロナ禍で「ポケマル」や「たべチョク」等の生産者と消費者を繋ぐマーケットプレイス型をはじめとして生鮮品の直販サイトが続々と立ち上がっている。一方で、オイシックス・ラ・大地や生協等では「時短」をテーマにレシピと食材がセットになった「ミールキット」の需要が伸びている。さらに、「ピザ」や「カレー」等のいわゆる「完成品」のデリバリー分野においても「Uber Eats」や「出前館」等の流通の多様化によって外食企業がお店で提供する料理のデリバリーを始めている。つまり、消費者にとっては「素材」である農林水産物を購入して自宅で0から料理をするのか、「キット(ミールキット)」を購入して簡単に調理をするのか、「完成品」である料理をデリバリーしてもらってすぐに食べるのか、という選択肢が増えたのである。これは消費者にとっては便利になったものの農林漁業者も中食企業も外食企業も全てが競合になってしまったのである。特にEC販売に取り組む農林漁業者にとって大きな壁となっているのが「物流費」である。現在は農林水産省の「#元気いただきます」プロジェクトの一環で送料が無料になっている品目もある。しかし、少子高齢化や核家族化が進む中で、農産物単品(1箱○kg)を購入しても食べきるまでに時間がかかる場合も多く、「消費者が送料を負担してまで各品目と個別に購入し続けるのか」については考えざるをえない。言い換えれば、農林漁業者がコロナ禍において「巣ごもり消費」の需要に対応するためには、単品での販売だけでなく「野菜セット」などの品揃えも拡充する必要がある。そして、「野菜セット」を用意するためには地域での連携も必要になってくる。
新型コロナウイルスによって我々は歴史的に大きな転換点を迎えている。その中で「巣ごもり消費」に対応すべく、2次・3次事業者も試行錯誤を行っており、農林漁業者も彼らとの競争に負けないために、品目の品揃えや量も含めて消費者目線での商品開発が求められる。