2020年10月28日
ニュースソクラ 農業ジャーナリスト、山田優
長く日本人の主食と考えられてきたコメ。しかし、人口減と食生活の変化でコメ需要の減少が進む。農家のコメ販売価格はじりじりと下がり、需給均衡を図るため、来年には10万ヘクタールという過去最大の減反が必要とされる。50万トン以上とみられる生産と供給のギャップを埋める手段は見当たらない。日本のコメ生産は大きな曲がり角にさしかかる。
農水省は毎年秋に、翌年の主食用のコメ需要量と適正生産量の見通しを示す。2018年から農水省による生産数量目標配分はなくなったが、生産の目安を都道府県に実質的に指示している。都道府県やJAなどは、目安を基にして農家に減反を割り振る仕組みだ。
消費減と膨れあがる在庫。コメの世界ではこれまで見慣れた風景ではあるものの、今年10月16日に同省が出した来年必要な減反を試算した数字は、業界の想定をはるかに上回った。
コメの需要は過去の傾向通り前年を10万トン下回り、さらに新型コロナウイルスの影響や積み上がった民間在庫を適正水準に戻すには、今年産に比べ50万トンを上回る減産が必要という内容だ。これまで毎年の減産幅は8~10万トンとされていたため、一気に5倍の減反が降りかかる。最大のコメどころ新潟県の水田(10万ヘクタール)分をそっくりと減らす計算だ。
新潟県小千谷市のコメ作農家、堀井修さん(71)は「発表は全国の数字で農家の多くはピンとこない。だが、JAを通じ目安が自分のところにきたらコメ産地はたいへんな騒ぎになるだろう」と話す。
複数のシナリオの中から両極端を考える。一つは産地が足並みをそろえて減反し需給均衡を回復。コメ販売価格の下落に歯止めが掛かる。
もう一つは、あまりの減反の厳しさに産地が反発し無政府状態に陥ることだ。需給はさらに緩和し、コメ価格が急落する。値下がりは消費者に利点になるが、耐えきれない農家が続出し、中山間地で耕作放棄につながる可能性が高い。国土の荒廃や食料安全保障の視点からすると問題がある。
現実にはこの二つのシナリオの間で決着する。かぎを握るのは、農家に減反のインセンティブをどう与えられるかだ。
農水省は18年からコメ需給には直接タッチしない建て前に転じた。しかし、米価の値下がりは望ましくないと考えている。野上浩太郎農相は記者会見で「需要のある麦・大豆や、高収益作物、飼料用のコメへの転換を推進することは重要」と述べ、交付金を通じて減反を支援する方針だ。
主食ではなく飼料用のコメを栽培すると、1ヘクタール当たり最大で100万円の交付金が払われるなど手厚い対策をとってきた。だが、来年発生する減反10万ヘクタールを丸ごと飼料用に振り向けると、1000億円近い財源が新たに必要だ。財務省は簡単には首を縦に振らないだろう。
コメ離れの根っこは深い。若い層を中心にした食生活の変化や、高齢化で1人当たりの消費量が減っていることが主な原因だ。仮に来年を乗り切っても、それ以降も底が見えない減反が続く可能性が大きい。
毎年変わる需給を見ながらさじ加減をするようなコメ政策は限界だ。農家にしてみれば猫の目農政としか映らない。欧州連合(EU)は、地球環境や生物多様性に貢献する農業支援に軸足を移し、農業の生産性を犠牲にすることで需給改善を図ってきた。
農家や納税者が納得できる形でコメ政策を組み換え、長い目で誘導していくことが必要だろう。
(ニュースソクラ www.socra.net)