2021年1月25日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
2021年を迎え、改めて注目されるのが東京オリンピック・パラリンピックの開催だろう。農林漁業分野では選手村等で使用される食材として使用するために、「有機JAS認証」や「GAP認証」の取得が推奨されている。しかし、筆者は長年、農林漁業分野で活動している中でこの「認証」についての考え方について認識の違いを感じることが多い。今回は「認証」の考え方や取得するメリットについて述べたい。
世の中には様々な「認証」が存在する。農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないで、自然の力で生産されたことを示す「有機JAS認証」、農業において、食品安全、環境保全、労働安全の持続可能性を確保するための生産工程管理の取り組みを示す「GAP認証」、イスラム教の戒律に則って生産・製造された商品であることを示す「ハラール認証」、ユダヤ教の食規定に則った商品を示す「コーシャ認証」、そして、2020年6月に制度化されたHACCPに対応した「ISO認証」や「FSSC認証」などが代表的である。
また、国内の「GAP認証」については「GLOBALG.A.P」や「ASIAGAP」、「JGAP」さらには「各都道府県GAP」まで複数の認証が存在している。
では、「認証」とは何なのか?筆者が良く耳にするのが「認証を取得したものの、全然売れない」という言葉である。つまり、「認証を取れば、勝手に販路が広がる」と期待して取得する農林漁業者や事業者が多い。しかし、改めて冷静に考えてみて欲しい。認証を取得したからといって、バイヤーがこぞって問い合わせしてくれることがありうるだろうか?「認証」を取得したことによってその分野で販売する「資格」を得ることができるが、同じ「認証」を取得している農林漁業者や事業者は他にもおり、そこからまた競争が始まる。逆に「認証」を持っていなければその「スタートライン」にすら立つことができないのである。
では、「認証」を取得するメリットは「資格」を得ることだけなのか?筆者は「GAP認証」や「ハラール認証」、「HACCP」といった様々な認証について勉強してきた結果、共通したメリットが大きく2つあると感じている。一つ目は生産・製造工程を「見える化」することにより安全・安心を担保するということである。例えば、「GAP認証」であれば農業生産における工程を管理すること、つまり、栽培過程の手順や何の農薬を使用したかということを「見える化」する、「ハラール認証」であればイスラム教で禁止されている豚やアルコールを製造工程で使用していないか、「HACCP」であれば食品の製造工程で発生しうる危害要因(ハザード)に対して対応できているか、というようにどの認証も「見える化」することによって、「安全・安心」を担保しているのである。もう一つは「経営の効率化」である。㈱政策基礎研究所の調査によると「GAP導入前後の改善状況」として、「従業員の責任感の向上(71%)」、「従業員の自主性の向上(65%)」、「従業員間の意思疎通(60%)」と続いている(※)。つまり、「見える化」することによって、作業工程がマニュアル化されたり、従業員の役割が明確化されたりしたことで作業効率が向上しているのである。
冒頭にも述べたが、世の中には様々な認証が存在している。そして、多くの事業者が「認証を取得すること」を目的にしてしまっているように感じる。しかし、「認証」の本当の意味を理解したうえで、自社の戦略に応じて取るべき認証を選び「資格を得る」こと、取得した認証を営業の「武器にする」こと、そして、最後に認証を取得したことによって経営を「効率化する」ことによって、認証を取得したことを最大限生かすことが重要ではないだろうか。
※ ㈱政策基礎研究所「令和元年度GAP導⼊影響分析のための調査委託事業報告書」より
https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/attach/pdf/gap_merit_survey-1.pdf