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2021年4月27日

「半農半X」は農業の担い手問題を解決できるか?

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 昨年の11月に「2020年農林業センサス」が発表され、総農家数が2015年の215.5万戸から2020年の174.7万戸と5年間で約40万戸に減少し、農業の衰退が加速していると注目が集まったのは記憶に新しい。しかし、数字ばかりに注目が集まり、「本当に農業は衰退しているのか?」「代替策はあるのか?」についてはあまり触れられていない。本稿ではこの農業の担い手について述べてみたい。
 まだ、2020年時点での総農家数の詳細が出ていないので、本稿では1985年と2015年の数字を用いて検証する。1985年時点での「総農家数」は422.8万戸となっており、そのうち経営耕地面積が30a以上又は農産物販売金額が50万円以上の「販売農家」が331.4万戸、経営耕地面積30a未満かつ農産物販売金額が50万円未満の「自給的農家」が91.4万戸となっている。次に「販売農家」を専業・兼業農家の区分で見てみると、「専業農家」が49.8万戸、「兼業農家」の中で農業所得を主とする「第1種兼業農家」が75.9万戸、農業所得ではなく兼業している職業から主な所得を得ている「第2種兼業農家」が205.8万戸となっている。一方で、2015年時点で「総農家数」は215.5万戸となっており、そのうち「販売農家」が133万戸、「自給的農家」が82.5万戸に分かれている。前者の「販売農家」を専業・兼業農家の区分で見てみると、「専業農家」が44.3万戸、「第1種兼業農家」が16.5万戸、「第2種兼業農家」が72.2万戸となっている。
 確かに1985年から2015年の30年間で「総農家数」は422.8万戸から215.5万戸へと約半分に減少している。しかし、「専業農家」は49.8万戸から44.3万戸に減少はしているもののその割合は11%にとどまっている。問題は「兼業農家」であり、「第1種兼業農家」は75.9万戸から16.5万戸(78%減)、「第2種兼業農家」は205.8万戸から72.2万戸(65%減)へと大きく減少しており、総農家数の減少の大きな要因は「兼業農家」の減少なのである。

図表 1985年と2015年の農家数の内訳

 この数字を見て、専業農家は変わっていないのであれば、農地を集約して専業農家に農業生産を担ってもらえばよいのではないか?という議論がでることが予想される。しかし、実際はそんなに簡単な話ではない。兼業農家の農地は細かく分割されており、いざ農地整備をするとなるとそれぞれの農地の所有者全員の合意を取らなければならず、さらに相続が発生するなどして農地の所有者がその場所にいなくなっている場合もあり困難を極める場合が多い。
 では、農業の担い手問題は解決できないのか?ここで筆者が期待したいのが「半農半X」というライフスタイルである。「半農半X」とは、それぞれの従来の仕事である「X」に、農業のある生活を新しい生き方を目指すという考え方である。すでに市民農園や貸農園、またドイツ語で「小さい庭」を意味する「クラインガルテン」のような「滞在型市民農園」も、全国各地で広がってきており、農林漁業者以外の生活者にとっても「農業」や「自給自足」が身近になってきている。それに拍車をかけているのが2019年に発生した新型コロナウイルスによるライフスタイルの変化である。2020年に入り新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、日本においても緊急事態宣言の発令によって生活環境を一変せざるをえなかった。そして、緊急事態宣言解除後も「3密」を避ける、いわゆる「新しい生活様式」が求められるようになった。その結果、「在宅勤務」や「テレワーク」が浸透することによって、地方に移住しようと考える人々が増えたのである。特に地方に住みたいという人達は、ただ在宅勤務ができるからという理由だけではなく、自然の中での生活や農林漁業に興味を持っている人も多い。ましてや、現在の仕事を継続しながら農業生産をすることができれば収入面での心配もなくなるので安心して移住ができ、また移住者が増えれば、農地を集約しなくても担い手を増やすことは可能になる。「半農半X」は、そのような人々が農業をライフスタイルの一部として取り入れる絶好の機会である。

 筆者は決して現在の「兼業農家」を否定しているわけではない。むしろ、「半農半X」は「次世代型兼業農家」と言っても過言ではない。この「半農半X」モデルが全国に拡がることによって、農業と消費者の距離が縮まり、かつ中山間地で集約をできない農地の担い手となることを期待したい。

図表 多様な「半農半X」によるライフスタイル

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