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2021年3月26日

手厚い米国の貧困者向け食料支援 農務省予算の7割

ニュースソクラ 農業ジャーナリスト、山田優

 1990年代に米フロリダ州に住んでいたころ、スーパーでお札のようなクーポン券を出して買い物をしている人をよく見かけた。低所得者向けの食料支援に使われるフードスタンプで、米農務省が発行元だ。
 第2次大戦前の大恐慌時代に困窮して食べものに困った人たちと、価格低迷に悩む農家の双方を援助する目的で制度が生まれた。現在では紙からクレジットカードのような電子クーポンへと変わったが、全米で4000万人を超える人が使っている。

米国の電子フードスタンプ=米農務省提供

 新型コロナウイルス感染拡大が続く中、バイデン政権は国民向けに食料の安全保障対策を強化している。

▽SNAP予算は10兆円

 農務省の栄養補充支援制度(SNAP)には日本円で10兆円近い予算が毎年注ぎ込まれる。同省予算全体の7割を占め、農業関係の予算額をはるかに上回り、「同省の実態は食料支援省だ」と指摘する声も多い。
 背景には十分な食料を得られない低所得者が米国で増えている現実がある。昨年12月の同省調査によると、14%の米国人が直前1週間に「十分に食べられなかった経験がある」と答えた。1年前の調査の4%に比べ3倍以上に増えたという。経済格差の拡大は、超大国と言われる米国社会の中で静かに飢餓が浸透している。
 SNAP補助金は、所得が州で定める一定水準を下回ると申告が可能。「資格があれば申請後3日で受け取れる」と言われ、簡単な手続きですむ。企業の一時帰休や業務量の減少で収入が減った人が、気軽に短期間のリリーフに使うことも多いという。
 SNAP受給中に一定時間の労働や公的な職業訓練受講が義務づけられてきたが、コロナ禍で条件が緩和された。対象世帯は構成人員や収入によって毎月数万円分の電子クーポンが受けられる仕組みだ。このクーポンはスーパーなどで酒類を除く飲料、食品と引き換えることができる。

▽バイデン政権でさらに拡充

 「働かない怠け者を増やす」と制度に批判的だったトランプ前政権はSNAPの縮小を目指した。ところが、コロナ禍で経済が低迷。多くの人の所得が減って、逆に支給対象数は増えてしまった。3月中旬の大規模な追加経済対策で、バイデン政権はさらにSNAPの拡充を決めた。
 米国では3億3000万人の人口の12%がSNAPを受給している計算。制度が異なり比較は難しいが、人口当たりの生活保護率が2%に満たない日本に比べ、米国では格段に幅広い層に食料が届けられていることになる。
 同省はSNAP以外にも、地元の農畜産物を慈善団体などを通じて配布するフードボックス政策も充実させた。農務省予算で国内産の生鮮青果物や乳製品、食肉を地元で調達して箱詰め。慈善団体や学校などを通じて困っている人たちに直接配布する仕組みだ。9000億円近い予算が投入された。
 新たな販路が増えるとして農業団体も歓迎した。米議会調査局の報告書によると、20年5月から10月の間に、日本の総人口に匹敵する1億2000万箱が全米で配られたという。

▽日本の子ども貧困率15%

 一方、わが国では菅首相が1月27日に国会で「(セーフティーネットは)最終的に生活保護がある」と野党議員の質問に答え波紋を広げた。さまざまな条件がある生活保護制度は、収入が減ったワーキングプア層には敷居が高い。内閣府の調査でも子ども貧困率は15%近くある。片親世帯などからは「十分な食生活を送れていない」という声が上がっている。
 なぜ、日本では米国のように食料に焦点を当てた低所得者層への支援制度がないのか。SNAPのように敷居の低い食料支援制度が機能すれば、少なくても栄養面で弱者を救うことができる可能性がある。
 農水省は、100万トン規模の備蓄米から今年度19トンを子ども食堂や子ども宅食(ご飯の配達)に無償譲渡した。コロナ禍で行き場を失った農産物を学校給食に回すなどの施策はあったが、数量はきわめて少ない。いずれも「食育」が目的で、低所得者層への「支援」ではないからだ。

▽現実直視しない食料安保

 農水省は食料安全保障を掲げて不測の事態に備え、穀物備蓄や輸入先の情報調査を続けている。だが、足元の国内で広範な国民に飢餓が広がっている現実から目を背けているように見える。
 政府内で貧困対策は厚労省が一手に担うため、大量の備蓄米や政府輸入米麦を抱える農水省は身動きが取れない。厚労省設置法は「社会保障制度に関する総合的かつ基本的な政策の企画及び立案並びに推進に関すること」が業務の一つ。農水省にはそうした業務は割り当てられていない。
 役所の「縦割り」が政府による食料支援の障害ならば、制度を変えれば済む。支援を担当するのは農水省でも厚労省でも構わない。膨大な予算をつけて農産物を輸出する暇があったら、政府は食料支援の仕組みづくりに知恵を絞るべきだろう。国内でその日の食べものに困っている人たちと、海外の金持ちのどちらを優先して国産農産物を届けるのかが問われている。

(ニュースソクラ www.socra.net)

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